表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/87

第44話 『兄の選択──誰かを選ぶということ』

文化祭が終わった。


燃えたパンツ。

響き渡ったプロポーズ。

ステージ乱入と展示室封鎖。

すべてが“歴史”になった後の、静かな夕暮れ。


 


俺──**久慈川幸喜くじかわこうき**は、

中庭のベンチでひとり、呆然と空を見上げていた。


 


「……選ばなきゃいけないのか、俺は」


 


誰か一人を。

正妻を。

物語の“主ヒロイン”を──


 


それが、“ラブコメ”という物語における、絶対のルール。


だけど、目の前の現実は──


あまりにも、現実リアルすぎた。


 


 


 ***


 


その日の夜。


俺の部屋には、順番にヒロインたちがやってきた。


口調は違えど、みんなが語ったのは同じ問いだった。


 


──「私は、選ばれるの?」


 


 


【歩美】

「……もう、ずっと待ってるんだよ? 私。

隣にいたのに、気づいてくれなかった。

でも、あんたが“選ぶ”って言うなら、

そのときは──ちゃんと、こっち見てよね」


 


 


【舞香】

「貴族でも、転校生でもなく──

私はただ、“あなたが好きな女の子”でありたい。

だからこの文化も、言葉も、全部覚えたの。

あなたの隣で、笑いたかったから──」


 


 


【玲奈】

「言葉じゃ伝えきれない想いがあると、

先輩が教えてくれました。

私は、あなたの“静かな時間”になりたい。

選ばれなくても、最後まで読みたいんです──あなたという本を」


 


 


 ***


 


だが、最後に来たのは──やはり、あいつだった。


 


妹・久慈川幸香さちか


 


今日の彼女は、

もうドレスでもなければ、抱き枕も持っていない。


ただ静かに、

制服姿のまま、俺の前に立っていた。


 


「ねぇ、お兄ちゃん。

あたし、ずっと考えてた」


 


「“妹”っていう立場、使いすぎてたかなって。

本当は、それって──ずるかったのかなって」


 


「……でも、もう全部、出し切っちゃったからさ」


 


「今度こそ、最後にするね」


 


そう言って、彼女は微笑んだ。


それは、

いつもの“狂気交じりの笑顔”じゃなかった。


ただ、少し寂しそうで、

少しだけ強がった、**“恋する少女の顔”**だった。


 


「お兄ちゃんが、誰かを選ぶなら──」


 


「……あたしは、消えるから」


 


 


 ***


 


言い残して、部屋を出ていく妹の背中を──


俺は、引き止められなかった。


 


胸が痛かった。

心臓が、まるで紙みたいに、折れそうだった。


 


恋じゃなくて、情でもなくて。

ただ、“一緒に生きてきた時間”がそこにあって。


 


(俺は、誰を選ぶべきなんだ……?)


 


その夜、俺はラノベを書けなかった。


プロットは真っ白で、文字は何も浮かばなかった。


代わりに──妹が置いていった指輪が、机の上で静かに光っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ