第41話 『文化祭ステージ──指輪の行方と、妹の狂気』
──文化祭当日。
つくば第一高校の中庭特設ステージには、
例年を遥かに上回る観客が集まっていた。
ざわめきは膨れ上がり、注目の的は──
「それでは、次の企画は──
『恋愛ステージ:即興プロポーズ演劇』です♥」
司会がそう言った瞬間、
俺・久慈川幸喜は、背中に嫌な汗を感じていた。
「え? そんな企画……あったっけ?」
だが、照明がステージに落ちた瞬間、
俺の不安は確信に変わる。
──そこに、ウェディングドレス姿の妹が立っていた。
「お兄ちゃん♥ 来てくれて、ありがとう」
「うわああああああああああああ!!!!!!!!!????」
***
観客席、大混乱。
「え!? 実妹!? ガチ妹!?」「これって放送していいの!?」「地上波ギリギリってレベルじゃねぇぞ!」
「っていうか可愛いけど怖い!!!!」「マジで指輪持ってんの!?」
──そう、妹・幸香は本気だった。
ドレスは自前。
BGMは生演奏。
ステージ使用許可は「恋愛ドラマ研究会」の名義を勝手に借用。
そして彼女は、ゆっくりと俺の前にひざまずいた。
「私、幸香は──
この人、久慈川幸喜と──
“生涯、兄妹であり、恋人であり、伴侶として歩むこと”を誓います♥」
そして──
小箱を開き、小さな銀の指輪を差し出した。
俺「これって……サイズ、俺の薬指じゃん……!!」
幸香「うん♥ 毎晩測ってたから」
俺「寝てる間かぁあああああああああ!!!!!!」
***
だが、妹の“誓いの言葉”が終わる前に──
ステージ袖が、ドン!と揺れた。
「やめなさい幸香ァァァァァァ!!!!」
乱入者・その一──幼なじみ・袋田歩美。
続いて、ヒラリとケープをなびかせて現れたのは──
「その席は、我が許嫁ポジションと見做す!!」
乱入者・その二──転校生・舞香・A・C・リーヴス・天城。
そして、無言でシュタッと登場したのが──
「公共空間での“近親愛演出”は、明確なガイドライン違反です」
乱入者・その三──図書委員・磐城玲奈。
***
観客、大興奮。
「出たぞラブコメ三銃士!!」「幼なじみきたあああ」「金髪ツンデレもきたあああ!!」
「図書室の地味子が一番怖い説あるな……」
妹・幸香は、立ち上がると指輪を持ったまま宣言した。
「いいよ、かかってきな♥
お兄ちゃんの薬指、かけて“ラブ・ロワイヤル”始めようか」
──その瞬間、
特設ステージは完全に“戦場”と化した。
舞香「兄の“魂の誇り”は、わたくしが護りますわ!!」→突然の華麗なターン
玲奈「指輪を返しなさい。これは、倫理委員会の押収物です」→書類持参で突撃
歩美「もう我慢できない! 私が一番一緒にいたんだから!!!」→感情全開突貫
俺「誰か止めろおおおおおおお!!!!!!!!!!」
観客「最高の文化祭だな……」「カメラ回してて良かった……」「もうこれアニメ化してるだろ」
***
混乱の中──
指輪は、一瞬宙を舞った。
ステージの照明に照らされ、銀色の軌跡を描く。
だが、それを──
妹・幸香は、片手で受け止めた。
そのまま、満面の笑みで宣言する。
「ねぇ、お兄ちゃん──
この“選ばれなかった3人”を、消しちゃっていい?」
***
静寂。
いや、沈黙というより“凍結”だった。
観客すら息を飲んだ、その一言。
歩美「……正気じゃない」
舞香「完全に、恋という名の病ですわ」
玲奈「私たちは、後戻りできない場所まで来てしまったのかもしれません」
俺は、ステージのど真ん中で立ち尽くしていた。
“選ばなきゃいけないのか?”
“これが青春か?”
“指輪で、人生決めていいのか?”
──そして、
妹はそっと言った。
「だいじょうぶ、私は選ばれなくても、あなたを選び続けるから」
***
こうして、文化祭最大の爆弾イベントは終わった。
誰も指輪を受け取らず、
誰も勝者にならず、
ただ“好き”だけが溢れていた。
俺の青春は、終わらない。
いや、終わらせてくれない──ヒロインたちのせいで。




