第39話 『夢の中まで妹が来る』
──それは、奇妙で、甘くて、ぞっとするような夢だった。
夢の中の俺は、なぜか制服姿のまま、白い世界に立っていた。
どこまでも続く真っ白な空間。
重力も時間も、溶けているような空気感。
そして──その向こうから、ふわりと歩いてくる影。
「……お兄ちゃん、待ってた♥」
ピンクのワンピース。
腰まで届く黒髪。
笑顔と、香水の匂い。
夢の中なのに──“現実の妹”よりリアルだった。
***
「ここ……どこだ?」
俺は、足元の柔らかい床を見ながら呟く。
すると、妹・幸香は嬉しそうに笑った。
「お兄ちゃんの、“深層夢”だよ♥」
「……なんでそんな用語知ってんだよ」
「だって、夢侵入訓練してるもん。
最近の女の子は、“心の中”に入らないと勝てない時代なの♥」
──完全にホラーである。
それでも、夢の中の俺はなぜか落ち着いていて、
妹の手を取ることにも、さほど抵抗を覚えなかった。
「ねぇ……お兄ちゃん、気持ちいいことしよっか?」
「起きろ俺! 頼むから目覚めろ!!!」
だが──
そのまま、彼女はそっと俺の耳元で囁いた。
「だいじょうぶ……全部、夢だから。
現実は、これから始まるんだよ♥」
──その瞬間、
目が覚めた。
***
「……うわっ!」
朝。俺の部屋。
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいて、布団は──
重い。
いや、正確には、“何かが乗っている”。
「……お兄ちゃん、おはよう♥」
「なんで現実にいるんだよォォォォォォ!!!!!!」
夢の中に出てきた妹と、
全く同じ服装、同じ香水、同じポーズで──
妹・幸香が、俺の布団に侵入していた。
幸香「ね、ね? 夢の続き……しよっか?」
俺「しねぇよ!!!!!!!!」
***
朝食時。
俺は放心状態で、トーストをかじっていた。
目の前の妹は、パンを食べながら満足げに語る。
「夢の中まで来られるって、やっぱり私、妹ランク神域だよね♥」
「それ違う意味の神域だから!!!!!」
「ちなみに、今日は“無意識同調実験”も兼ねてたんだよ?
お兄ちゃんが寝言で“幸香……”って言ったから、ログ取り済み♪」
「どこまで記録してんだよお前はァァァァァ!!!!」
***
登校中。
ヒロインたちと合流した瞬間、俺はもう限界だった。
舞香「顔色が絶望してますわね……また何か?」
歩美「……今度はどこまでやられたの?」
玲奈「起床直後から妹接触があったと見て、間違いないですね」
俺「夢の中にまで、妹が来たんだ……」
3人「…………………………夢界侵食だこれ!!!!!」
***
その日、俺の机にはまたしても「幸香の愛の記録ファイル」が置かれていた。
【第39夜】
・夢侵入成功
・寝言音声:録音済(保存名:しあわせボイス)
・起床直後の“お兄ちゃん”呼び反応率:112%
・布団侵入映像(静止画38枚/GIF5種)あり
──すべて、現実だった。
夢でも、現実でも、俺はもう逃げられないのかもしれない。




