第36話 『図書室デート封鎖令』
──つくば第一高校、放課後。
生徒たちのざわめきが廊下に残る中、
ひとり、図書室の扉を開ける音が響いた。
「失礼します」
穏やかで、静かなその声。
それは──
図書委員の後輩、磐城玲奈。
彼女は今日も変わらず、閉館作業と貸出整理を続けていた。
だがその日──
彼女には“特別な予定”があった。
そう。
先輩──久慈川幸喜との、“読書デート”だ。
***
「今日は……この本、どうですか?」
玲奈が差し出したのは、青春小説の文庫本。
俺「へぇ……読んだことなかったな。
ありがとう、玲奈。おすすめしてくれると、なんかうれしい」
玲奈「……ふふ、良かったです」
……その空気は、とても柔らかかった。
“青春ラブコメ”の世界とは思えない、
まるで静かな詩のような時間。
玲奈は、そういう存在だった。
ドタバタや暴走が日常の俺にとって、
彼女との時間は、まるで避難所みたいだった。
……だが、その“静寂”は──
一人の侵入者によって、崩れ去る。
***
ガラッ。
勢いよく開いた図書室のドア。
「──お兄ちゃん、いた♥」
俺「……なっ!?」
玲奈「……っ」
現れたのは──
制服にフリルのカーディガンを羽織った、妹・幸香。
手にはスマホと、ビデオカメラ。
「やっぱり、ここにいたんだね?
あたしの勘、外れたことないから~♥」
俺「おい……まさか、尾行してたのか?」
幸香「当然じゃん?
だって、“兄との接触履歴”は全ヒロイン分、監視対象だし」
玲奈「……なるほど。では、これは“警告”ですね」
幸香「警告じゃなくて、“排除”♥」
俺(こいつら……言葉遣いがもう、ヒロインのそれじゃねぇ……!)
***
玲奈は、静かに眼鏡を拭きながら言った。
「私は……先輩と、本の話をしたかっただけです」
幸香「その“だけ”がもうアウト。
“お兄ちゃんと共有していいのは、妹だけ”って決まってるの♥」
玲奈「誰が、決めたんですか?」
幸香「わたし♥」
玲奈「……無法地帯ですね」
──空気が、凍った。
図書室の中なのに、ページをめくる音すら聞こえない。
代わりに、静かに“冷気”が漂っていた。
玲奈は、一歩、幸香に近づいた。
そして、小さく囁いた。
「私は、奪う気なんてない。
ただ、“この時間”を、守りたいだけです」
幸香は──笑っていた。
満面の笑みで。
「──だから、怖いんだよね。玲奈ちゃん」
***
その後の時間。
俺と玲奈は、早めに図書室を出た。
ドアの前に立ち尽くしていた幸香の目は、
何も言わなかったけれど──明確に“宣戦布告”だった。
***
帰宅後。
俺は、机に置かれたメモを見つけた。
幸香の字で、こう書かれていた。
『兄と他の女が接触した場合、妹ポイントは一日マイナス3000ptです』
※“妹ランキングシート”作成済
──そこまで作るな。




