表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/87

第30話 『アニメは動き出す、物語も──』

──夜。

静かなリビングに、緊張が満ちていた。


 


テレビの前。

俺・久慈川幸喜は、正座していた。


 


画面には、あと1分で始まる番組の予告表示。


 


『俺はプロラノベ作家なのに、青春ラブコメの中にいた』

TVアニメ第1話「神様、俺にヒロインを!」


 


そして、周囲には。


ヒロインたちが勢揃いしていた。


 


・歩美(幼なじみ)→ 真顔でテレビを見つめ、手にはチャンネルのリモコン。

・舞香(転校生)→ 「紅茶と一緒に見るのがマナーですわ」とティーカップ準備済。

・玲奈(図書委員)→ ノートを膝に置き、“感想”を書く気満々。

・幸香(妹)→ 録画用BDプレイヤー3台を同時録画中。


 


俺「なんで録画多い!? しかも“妹監修バージョン”って何!? 編集権限あるのかお前に!」


 


幸香「円盤で“副音声・妹解説”入れる予定なんだけど♥」


全員「やめろ地雷!!!!」


 


 


 ***


 


──そして、始まった。


 


画面に広がる、俺が知っている世界。


つくば市の街並み。

制服姿の少年が歩く坂道。

そして、冒頭のナレーション。


 


「これは、ラブコメが書けない俺が、ラブコメの中に飛び込んでしまった物語──」


 


主人公・久慈川幸喜(CV:山城ユウ)の声が響く。

イケボすぎて、俺じゃない感がすごい。


 


そして、次々に現れる“ヒロインたち”。


 


・怒りっぽくも面倒見のいい、幼なじみヒロイン。

・無邪気に兄を追い回す、ブラコン妹ヒロイン。

・言葉少なに本を渡す、静かな図書委員ヒロイン。

・騒がしく登場し、恋と事件を巻き起こす金髪転校生ヒロイン。


 


彼女たちは、動き、しゃべり、笑い、怒り──生きていた。


 


「……すごいな」


俺は、ただそれしか言えなかった。


頭で分かっていた。


“アニメになる”って、こういうことなんだって。


でも、いざ自分の描いたキャラたちが、

画面の中で呼吸し、存在しているのを見ると──


言葉にならなかった。


 


 


 ***


 


ふと、隣を見る。


歩美は、黙っていた。

だけどその目は、少しだけ潤んでいた。


 


「……ねぇ。これが、“私”なのかな?」


 


舞香は、紅茶を飲みながら言った。


「作られたキャラ……でも、私が“本気”でぶつかった日々が、こうして形になるなら……悪くないわ」


 


玲奈は静かにノートに書き込みながら。


「“記録”じゃない。“記憶”ですね、これは」


 


幸香は、にやにやしながらテレビ画面をスマホで連写していた。


「お兄ちゃんが“好き”って言ってくれた、私たちが、映ってるの……これ、保存用・観賞用・布団用の3セット必要だよね♥」


全員「やめろ地雷!!!」


 


──そして、俺は。


テレビ画面を見つめながら、ふと思った。


 


(俺……何のために、この物語を書いてきたんだろう)


 


売れたかったから?

注目されたかったから?


──違う。


 


(俺は、“この子たち”と出会ってしまったから、書かずにはいられなかったんだ)


 


歩美がいて。

幸香がいて。

舞香がいて。

玲奈がいて。


 


それぞれに、強くて、弱くて、愛しくて。


彼女たちのことを、知ってほしくて。

彼女たちのことを、忘れたくなくて。


だから──物語にした。


そしてそれが、今。


画面の中で、生きている。


 


「……ありがとうな、みんな」


 


小さく呟くと、4人のヒロインが、ぴくっと反応した。


 


歩美「……なによ、いきなり」


舞香「そういうのは、もっとロマンチックな場面で言って」


玲奈「“ありがとう”は、続きが必要です。“何に対して”か、述べてください」


幸香「私は“好き”って言われたことあるから、リードしてる♥」


全員「地雷!!!ぶちぬけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 


俺は、笑った。


そうだ。


ここが、俺の原点であり──


これからも、物語が続いていく“場所”なんだ。


 


アニメが始まった。


でも、俺の物語は──


まだ始まったばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ