第26話 『打ち合わせなのに、全員ヒロイン』
──アニメの打ち合わせ、それは戦場だ。
原作者、編集者、監督、プロデューサー、音響、脚本家──
多くのプロが集い、作品の方向性を決める聖域。
その空間に、一般女子高生が立ち入っていいはずがない。
……そう、普通なら。
だが今日、その“常識”は爆散する。
***
某アニメ制作会社の会議室。
午後14時、開始予定。
俺、久慈川幸喜は担当編集・渋谷に付き添われながら、打ち合わせテーブルに腰を下ろした。
出席者は以下の通り:
アニメ監督・城野:寡黙な中年、こだわり強め。
プロデューサー・田名部:柔らかい笑顔の裏に鉄拳(予算)がある男。
音響監督・奥村:ラジカセのような声とドス黒い笑みの持ち主。
声優事務所の担当者(美人・無言)
渋谷(編集):ラフなTシャツ姿、「愛とはパンツだ」が口癖。
そして、俺。
原作者。
ラノベ作家。
ただの高校生。胃薬常備。
会議開始──直後。
部屋のドアが開いた。
「失礼しまーす♪」
その瞬間、空気が変わった。
制服姿の女子が、4人、ずかずかと入ってきた。
──ヒロイン全員、乱入。
・歩美(幼なじみ):やたらきちんとした髪型。会議用眼鏡装備。
・舞香(転校生):英国仕込みのジャケット+紅茶ボトル持参。
・玲奈(図書委員):ノートと録音機材、そして小型ルーペ。
・幸香(妹):セーラー服+兄毛香水でフル装備。
俺「待って! なに勝手に来てんだよ!!!」
歩美「だって“作品に関する会議”なんでしょ?関係者だもん」
舞香「“キャラの元ネタ”として、当然立ち会う義務があるわ」
玲奈「一次情報の確認なくして、作品への忠誠は語れません」
幸香「将来的に嫁だから♥」
全員「黙れ地雷!!!」
監督とプロデューサーが、目を見合わせて小声で言う。
監督「……実写ドラマですか?」
P「いや、ラノベ実写化ならもっと大人がくるはず……高校生4人で囲むって、婚活パーティーじゃん」
奥村(音響)はニヤリと笑う。
「キャラに命を吹き込むのは声だけじゃねぇってわけだなァ……」
俺「やめてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
***
だが、会議は続行された。
ヒロインたちは、完全に“正妻候補の席”としてそれぞれに振る舞い始める。
監督「まず、第6話の絵コンテですが──」
歩美「それ、“主人公が風邪をひいて看病される”回ですよね?
だったら、薬の銘柄は“市販のルル”じゃなくて、処方薬っぽくしてください。
リアルに、私はそれやってきたんで」
舞香「その回なら、カメラアングルは“顔寄り→手元→湯気→汗の流れ”でお願いします。
実際におでこ拭いたとき、その順番でときめかれました」
玲奈「音響さん、咳払いと鼻すすりの効果音の間には、“息を飲む”効果音を。
“感情の波”が途切れないように、そこは重要です」
幸香「私が隣で寝てるバージョンも、録りませんか?♥
サブエピソード“兄の寝顔を300秒見るだけの映像”とか。円盤特典で」
全員「黙れ地雷!!!!」
***
打ち合わせ終了予定時刻、+90分超過。
本来の議題:作画・演出・脚本の確認
実際の議題:誰が正妻か
最終的に会議室のホワイトボードには、なぜか手書きでこう記されていた。
【“ヒロインの魅力とは何か”】
・現実の熱量
・布団密着率
・出汁の濃さ
・兄毛密度
俺「もうやだこの制作現場」
渋谷「最高だよな。売れる作品って、現場が修羅場なんだよ」
──売れたくねぇよ……(本音)
***
帰宅後、俺は机に突っ伏していた。
(……アニメの打ち合わせって、もっとプロフェッショナルな空気だと思ってた)
スマホが鳴る。渋谷から。
渋谷「今の会議、録音してた? ラノベ第6巻のネタに完璧だと思う」
渋谷「タイトル案:『会議室で正妻戦争が始まった件』」
「誰が書くかああああああああ!!!!!!!」
──だが、物語は進んでいく。
どんなにヒロインたちが暴れても、
どんなに婚活パーティー化しても。
アニメは、放送されるのだ。




