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97 魔力の流れ


「まず、治癒魔法だ。決して王族間で使ってはならない」


「それは…小さい怪我でも?」


「軽い切り傷、擦り傷程度なら許してもいいが出来るだけ避けなさい。己の命を削る行為になりかねない。いいな?優しさで安易に使ってはいけないよ」


治癒魔法でここまでならと言う線引は書物にも書かれていない。曖昧で断言するには情報が足りない。キースは今まで読みためた知識から妥協点をキースなりに導きフィリティに伝えている。


「……わかりました」


「次に死者を蘇らせることは出来ない。これは禁忌だ。絶対にしてはならない」


「はい…えっと、過去に使われたことがあるのですか?」


「…ある。もう何百年も前だが執行した者は強制的に魂を抜かれ、身体は干からびたミイラのようだったと記録が残っている」


「っ!!」


「絶対に使ってはならない。わかったね?」


「はい」


「フィー、水晶が割れるほどの力を持っている。まだその力は宝箱に入っていて鍵がかかっているような状態だ。だから自覚がないだろうし、信じられないと思うが、鍵が開いて、実感できるようになれば、フィーとて変わってしまうかもしれぬ」


恐れるのは、性格の変化。突如、膨大な何かを得た人は変わる。地位や権力を得れば、誰彼構わず跪かせることも容易く、それこそ暗黒の時代の再来を連想させる。財力を得れば、振る舞いが派手になり、自身の欲に埋もれる者が多い。彼女はそんなことにはならないとキースは信じているが可能性としてはゼロではない。


「そんなに凄いの?」


「きっとな。水晶がはじめは真っ二つ、次に四等分になった。相当な量を持つ素質がある証拠だ。それに聖属性持ちは代々、魔力量が半端ない。それだけ聖属性魔法は消費する魔力量が他と異なるからだ」


「………」


「怖くなったか?」


「こわく…はない。信じられないけど…」


「何かあれば、すぐに言いなさい。わしはフィーの味方だからな。聖属性だと言うことは黙っておきなさい。幸い光属性も似たような要素がある。聞かれたら光属性だと答えなさい。いいね?」


「わかった。そうしないと…私は狙われるのね?」


「そうだ」


(正確には、すでに狙われているんだがな)


「……あの…校内探検の時の人たちもこれを狙ってるの?」


「………」


「キィじぃ…知っていたら教えて?」


「……正解でもあり…正解ではない…わしにもよくわからないんだ。申し訳ない」


「…そう…なの、…教えてくれてありがとう」


「フィーは、周りを頼りなさい。頼る勇気を持て」


「でも…私…頼ってる…つもりなのよ。何も返せていないけど…」


(あれで頼ってるつもりなのか…んーどうしたもんかな)


「今は返せずともこれから先の人生長い。そこで必ず返せる。だがな、もう皆フィーから貰っているものの方が多いと思うぞ」


「……そう…かな…」


「ああ。だから気にせんでもいいと思うんだがな、嬢ちゃんはそうはいかんのだろう?」


「うん」


「そこだけ即答か。がっはっはっは。フィーらしいな」


「属性の話だが、フィーは聖属性の他に必ず属性を持っとる。それを見極めて伸ばせ。聖属性も教えていくがあまり期待はせんでくれ。それと、王宮には聖属性をまとめた書があるはずだ。ミーに聞いてごらん。読んでみるといい」


「わかった」


「さっき言った二点は、絶対に守ってくれ。約束だ」


「うん。約束」


それから少し細かな話をしてから魔力操作の実技に移った。フィリティの聖属性の第一印象は、砂みたいに形があるようでないものという感覚が残った。さらさらと指先から滑り落ちて形がないのに水を加えれば固まり、存在を主張する。


(あ、水や氷?も一緒かなぁ。んー聖属性掴めないなぁ)


だんだんとうーんっと唸りだす彼女にキースは笑う。気持ちを切り替えるようにパンと手をたたき次の工程へと促した。


「よし。じゃぁまずは魔力の流れを感じるようにならねばな。身体に流れる魔力に意識を集中させられるか?」


「んー私には魔力がよくわからないわ」


「なら、わしの魔力を流すからそれを感じとれるか見てみよう。ほんの微量だから身体に影響はないに等しいから安心しなさい」


「右手から流し、全身を巡って左手に行きわしに戻るように流す。何か変化が現れたら素直に教えなさい」


フィリティは、右手に意識を集中させた。


「では、行くぞ」


キースの右手が淡く光だし、魔力をそそぐ。

すると、フィリティの体感にも変化が生まれた。


「あ…」


「何か感じるか?」


「なんか、こう、温かい感じがする。冷たい飲物を飲んだ時に流れてる感じがわかるような…」


「それだ。今流れているのはわしの魔力だがその中にフィーの魔力が紛れておる。探せるか?」


「やってみます…」


フィリティは、瞳を閉じてキースの魔力を辿りながら自身の魔力を探る。

キースの魔力は、陽の光をたっぷり吸収した寝具のような温かさにそよ風がなびくような爽快感が入り混じっている、そんなイメージだ。

しばらく集中していると、キースの魔力とは明らかに異なる感覚が存在しているのがわかる。


「あ…これ?かな」


「見つけたか?」


「た、たぶん」


「では、わしの魔力放出を止めるから止まったところからフィーの魔力をさぐってみ」


「はいっ!」


右手から先程の温かい感覚が収まっていく。それと同時にキースの魔力とは別の感覚が流れているのを感じ取る。


「キィじい!わかるわ。これが…私の魔力…なんだが凄く不思議な感覚だわ」


「慣れるまではなんとも言えないがだんだん心地よく感じるようになるぞ。今度はそのまま、わしがやったようにわしに流してみよ」


「えっ!む、難しいなぁ」


「そうだなぁ。川の流れの中に手を入れたことあるじゃろ?ひんやり冷たくて手の温かさが引いていくような。今からわしがそんな感じで、フィリティの魔力を引っ張るからその感覚を覚えなさい」


「はい」


「では行くぞ」


繋いでいる両手から言われた通り、魔力が流れ出る感覚を感じ取る。


「感じ取れたらフィーが自分で意識的にわしに流すようにやってごらん。流す量は…そうだな水道から細く水を出すイメージで」


「細く…細く…細く…」


「そうだそうだ。うまい。そのまま少し量を増やして……フィーはコントロールも上手いな。今度は徐々に細くして水道の水を止めるみたいにできるか?」


「ゆっくり…ゆっくり…細く…細く…」


ジワッと全身に汗をうかばせて魔力操作に集中する。


「……で、できた?」


「上出来だ。今日はここまでにしよう。明日からこの繰り返しをして、呼吸をするようにコントロールできるようになったら次に進もう」


「はいっ!」


「今日はよく寝るんだぞ?魔力を使うと慣れないうちはドッと疲れるからな」


「わかりました」


「では皆と合流して昼食の時間だ」


「えっ!もうそんな時間なの!早い」


体感時間とのズレに驚くフィリティをみて、がっはっはっはとキースは笑った。



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