82 なまえ
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「フィー?どうしたの?そんな挙動不審で」
ミシェルからの問いにフィリティはルーがしゃべっていると言いたかった。自分の耳がおかしくなったのかと確かめたかった。
「………」
しかし、その言葉は飲み込んだ。
(お母様の反応は聞こえない人の反応だわ。ここで私がルーと話せますって言っても信じてもらえる?いやいやおかしいでしょ)
混乱する頭で考えて、とりあえずルーと二人で話をしてからにしようと、フィリティは心に決めた。
「ごっごめんなさい。お母様もエリーも申し訳ないのだけれど、疲れてしまったみたい。少し休んでもいいかしら?」
「そうね。今日は疲れたわよね。ごめんなさいね。また明日にするわ。エリー、私室まで一緒にいいかしら?」
「ええ。王妃様このエリーご一緒させていただきます」
“では、明日ね”とミシェルとエリーは、王妃の私室へ向かう。
フィリティは扉を閉めて、淑女とは程遠い足取りでルーに詰め寄る。
『っ!!?』
必死の形相で駆け寄ってくるフィリティの圧に気圧され、ルーは鳥なのだが、後ろにのけ反るような姿勢になった。
「ルー!!あなたしゃべれるの!?」
『パティリテ湖から助けてもらってから今の今まで喋っていたのだがな』
「…うそ…」
ポカーンと口を開き、瞳を大きく見開くフィリティは、なんとも情けない。
『誠だ。アルならすべてを知っている』
ルーの口からさらに爆弾発言がされた。
(なっなんだって?アル?アルが会話ができたの?)
『そうだ。あやつは気に入らないからな』
(えっと…心までも読めるの?)
『フィーのことならなんでも』
顎が外れてしまったのではないかと言うほどに開く。
衝撃が強かったのかしばらく動けないでいた。
するとフィリティの脳裏に気になることが浮かび、ルーに恐る恐る尋ねる。
「…えっ…あ…あの…あんなこと…とか…こんなこととか…も?」
『可愛らしいと思っているぞ。相手があいつだと思うと腹が立つがな』
「っ!!!!」
身体中の熱が全身をめぐり、ボッと頭から煙が出る勢いで赤面する。
両手で顔を覆いその場に崩れ落ちた。
『フィー?大丈夫か?』
「ご…めん…待って…いま……むり……」
コロコロ変わるフィリティの表情にルーは楽しそうにカッカっと笑っていた。
事情を知らない使用人たちが外に待機していたがルーの鳴き声だけが部屋から漏れ出る。
“今日はよく鳴いているなぁ”“不在の主人が帰ってきてうれしんだろうな”ぐらいにしか思われていなかった。
* * *
しばらくして、羞恥心からなんとか気合で立ち直る。そして、尋ねなくてはならないことがたくさんあった。
意を決して話し出した。
「…改めまして、フィリティ・アンジュール…です。今更だけど…えっと…ルーは【ルー】…でいいのかな?」
『フィーがつけてくれた名だ。ルー以外にないだろう?』
(えっ…それでいいの…?)
『いい。我が認めたのだから、だれにも文句は言わせない』
「あの…心を読むのは、やめてもらうことは……」
『それは無理な相談だ』
フィリティは、ガクっとこう垂れた。
「な…なんで私、ルーの言葉がわかるようになったの?」
『あぁ、それは魔女が贈ってくれたのだろう?』
(んん?贈る?)
「あ…あぁあああ!!あれっ!?カルテッタが何かやってたあれ!?」
『思い浮かべたのだろう?我の姿を』
―『目を閉じて、ヤマガラのルーを思い出して』
―『家に帰ってからのお楽しみ』
カルテッタの満足そうに笑う顔が浮かぶ。
(あ…なんか今、カルテッタに笑われたような気がする)
この時カルテッタは、魔女の里で大きな水瓶に魔法を放ち、水面にフィリティの部屋を移す【水鏡】にして、映し出して様子を眺めていた。
無意識にフィリティは、相手の魔力を感じ取っていた。
これは、ルーと会話することが出来るようになった副作用なのだが、それを知っているのは、ルーとカルテッタだけだろう。
意識が他に逸れていたが、ハッとしてルーをガシっと掴む。
『う゛…フィー…くっ苦しい…』
「あっ!!ごめんなさいっ!」
ガシッと掴んだ力をゆるめ、手の中に包む様にルーを抱く。
『ふぅー、急にどうした?』
「…ルー……あなたは、何者なの?なんで、私たちと同じ言葉を話せるの?」
水色の瞳がじーっと見つめている。
フィリティは、怖かった。
信じたくはないが、可能性の一つとして、あの人たちの仲間なのかもしれないと。
逃げ出したい想いを押しとどめながら、じーっとつぶらなヤマガラの瞳をみつめた。




