81 言葉を話す鳥
「カルテッタ、本当にありがとう」
ミシェル手料理の夕食を振舞ったのち、王宮へ帰ることにした。残念そうな表情のカルテッタに別れの挨拶を交わしている。
カルテッタは、泊っていけばと提案したのだが、ジョーカスが寂しがっているからと丁重にお断りした。“次は、ぜひ泊まらせて”と言葉を添えて。
「いんや、これぐらい朝飯前さ。いつでもおいで。むしろ来てくれなきゃ忘れられたと思って泣くわ」
「そんな大げさなんだからっ、ふふっ」
ミシェルは、口元に手を添えて笑っているがカルテッタは、本気だ。けれど、今はこのままでいいと微笑むだけにとどめる。
フィリティとアルドルトは、クアントリルがわざわざお見送りに来てくれたので、そちらと挨拶をしている。今度来たときは、箒の使い方を教えてもらう約束をしたようだ。
「ああそうだっ」
それからミシェルにちょいちょいっと手招きをして、寄ってきたカルテッタが耳元で話す。
「昼間にミシェルにやってやった魔法をフィーにもさっき施してやったから、帰ったらびっくりすると思うぞ」
「そうなの!ふふっ反応が楽しみだわ。どんな魔法か教えたの?」
「んんや、その方が面白いだろ?」
カルテッタは、ニヤリといやらしく笑う。
「あなたもなかなかよね。ありがとう!楽しみにするわ。あっ!私のことは秘密よ?」
「いつものことだろ?わかっている」
カルテッタをぎゅーっと抱きしめる。周りからは別れを惜しんでいると思うだろう。
カルテッタも抱きしめられた時、驚いた様子だったが照れるようにして抱きしめ返す。
「カルテッタと魔女の里に幸あれ」
「ミシェルとアンジュール国に幸あれ」
いつの日からか始まった”おまじない”は、ずーっと続いている。
これを言ってから別れないと不気味に感じてしまうほど身体に染みついた習慣だ。
魔女の里に来る時は、紙に魔法陣を書いていたが今回は使わない。
カルテッタの転移魔法によって、三人を一緒に送ってくれるらしい。
「では、行くぞ。またな」
「またね」
「「また来ますっ!」」
カルテッタが杖を持ち、呪文を唱え始めた。
三人が立つ足元に魔法陣が浮かび上がり光だす。
もう一度、フィリティはカルテッタを見て手を振る。
するとカルテッタが口を動かして、何かを言った。
「えっ!?」
しかし、その言葉はフィリティには聞き取れず、周りの光が強まったとき、目の前の光景が室内へ変わる。
「さぁ!帰ってきたわよ。お風呂を沸かすように連絡していたから、すぐに入れると思うわ。今日はもうゆっくり休んでね」
フィリティはカルテッタが何を言っていたのか考えているが全く思い当たらない。どんなに考えていてもわからないものはわからないので、次に会ったときにでも聞こうと決めた。
「わかりました。母上様」
「アルくんがそう呼んでくれるのはやはり嬉しいわね。ふふっ」
魔女の里でフィリティが寝ている間、ミシェルを”おばさん”呼びをしたアルドルトにカルテッタから異議申し立てがあったので『母上様』と呼ぶようになった。
「僕も家族の一員になれたようで嬉しいです」
「じゃぁ、私もイネスおばさんのこと”お義母様”って呼んだ方がいいのかしら?」
「きっと喜ぶと思うわよ」
「うん!そうするわ」
コンコンコンっと扉を叩かれ三人の視線は扉へ向かう。
『ご歓談中失礼します。エリーにてございます。姫様はいらっしゃいますか?』
「あら。早速迎えが来たみたいよ。せっかくだから私もフィリティの部屋に行くわ」
そう言って、扉を開けて、三人で部屋を出る。
「エリーただいま。出迎えありがとう。アルドルトは部屋へお母様は私と私室へ行くわ。お願いできる?」
「かしこまりました」
四人は歩き出し、途中アルドルトはジーナが迎えに来たので別れた。
「皆さん、おやすみなさい」
「ええ、お休み。ゆっくり休んで頂戴」
「アル、おやすみなさい」
じーっと十秒ほど、フィリティとアルドルトは見つめ合った。ミシェルのふふっと漏れた笑いを合図に互いへの部屋へ歩みを進める。
頬を赤く染めるフィリティと恋する娘が可愛くて仕方のないミシェルは、別れたばかりのアルドルトが今どんな気持ちでいるかを想像しながら、フィリティの私室の前に到着した。部屋を開けて、室内に入るとルーがこちらを見ていた。
「ただいま、ルー」
『おかえり、フィー』
そこでフィリティは固まる。
「えっと……誰かいる?」
エリーに尋ねるが”何のことでしょう?”と、首を傾げた後、横に振る。
次にミシェルを見るがニコニコとしているだけだった。
(今…確かに誰かが返事をしてくれたんだけど?気のせい?)
フィリティはもう一度言う。
「……ただいま」
『おかえり?』
「へっ?」
『ん?』
「………えぇぇええーーーーーーっ」
『魔女に感謝だな』
突然、叫ぶフィリティにエリーは驚愕してビクっと珍しく身体を震わせたが、ミシェルからエリーに“サプライズがうまくいって、びっくりしているだけだから気にしないで”と伝える。
出来る侍女であるエリーは“かしこまりました”と微笑んだ。
フィリティの反応を予想していたミシェルは、扉を開ける直前に、半径一メートル程の範囲に防音魔法を放っていた。
なので王宮にいる者たちには聞こえない。もちろんアルドルトにも。
「なっ!なっ!るっるっえっ!?なっ!?なんでっ!?」
ルーとミシェルを交互に見ながら何が起きているのか理解できない。
(ルーがッ!ルーがしゃべってるっ!!??)




