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8 見守るふたり



「聞きました?イネス」


「えぇ、聞きました。ミシェル」


 子供たちは七歳になった。

私たち母親は、庭にいるはずの子供たちが何やら静かになったと、開いていた窓の近くに寄った。カーテンの隙間から耳を澄まして、子供たちのやり取りに集中している。

この位置はちょうど、太陽の反射で見えずらい構造になっていて、盗み聞きをするには好都合な場所。


 あ…盗み聞きって言っちゃったわ。ふふ。


 アルくんがフィーちゃんに好意を抱いていることは、イネスとのやり取りでも確認しているし、アルくん自身が上手く隠しているらしいけれど、全く隠せていないの。

 フィーちゃんはどうも色恋沙汰には、まだまだ関心がない様子。せっかく読み聞かせの時から絵本「いちご姫と剣士の大冒険」とやらをあたえてみたのに。

 お気に入りには、なった。けれども…本来のトキメキとは違う視点でときめいてしまって、私としては残念。


 あの物語は、大冒険を経て、いちご姫と剣士が結ばれるというお話。

 恋の物語なのよ。世の中の子供たちは、あの恋物語に憧れを持って、こんな恋がしたいわ!と恋焦がれるのが通常の反応なの…。


 フィーちゃんは、いちご姫の()()()にときめいてしまい、いつかどこかを旅してみたい!と思考が全力で男の子だった。


(あれは失敗ね。もっと「恋」を前面に出した絵本にすればよかったかしら)


「ねぇ、ミシェル。本当に婚約は、十五歳までお預けにするの?」


「えぇ、婚約者ができたほうが互いに都合が良いってのは重々承知しているわ。でも…十五歳の学園入学まで待ってほしいの。<婚約者>って肩書にとらわれてほしくないのよ」


「それもそうね。私がマルクと婚約したのが七歳だったかしら?今のあの子たちと同じ年ね。まだまだ恋とかよくわからない内だったわ。まぁ貴族社会では当たり前なのだけれど。あの頃から周りからのしがらみも多くて…一時期嫌だったわね」


「ジョルテクス王国を巻き込んでしまって、申し訳ないのだけれど、どうしてもそこは譲りたくないの」


「そんなことはいいわ。だって私たちも一人の母親ですもの。それに第一王子でもないからそこまで問題になっていないのも事実なの。だから気にしないで」


「イネスありがとう」


 イネスは、現ジョルテクス王国王太子妃。

 ミシェルにとって、妃仲間であり大の親友。二人は、公爵家からの学友であり、夫ジョーカスとジョルテクス王国王太子であるマルク殿下も学友。

そのためこの二か国間は、非常に仲良しで友好関係を築いている。

この国境に作った家も発案は、ミシェルだが両王太子も乗り気だったために実現のもになった。


(少し離れたところに過保護並に護衛と影を配置させているけれどね)



「にしても、フィーリちゃんちょっと鈍感よね」


「まぁそこがあの子の魅力でもあるのだけれど…、返す言葉がないわ。アルくんがちょっと可哀そうだわね」


「今日だけではないわ。二人で木の実を食べてたでしょ?あの時だって、決死の覚悟で”あ~ん”してあげたんだと思うわよ」


「あ~そんなこともあったわね。でも羞恥に耐えられなくて1回きりで終わってしまって、フィーちゃんは『変なアル』としか思ってないみたいよ」


「アピールが足りなかったのね…。あぁ、あの子、あんなに耳まで真っ赤にして。ふふ。一世一代の告白でもしたかのようだわ」


「でも、その後のフィーちゃんの返しもなかなかできないわよね。あの子本当に剣術習うのかしら。私としては()()のために習わせたいところね」


 ミシェルが優雅な手つきで顎に人差し指を置き、考える。


「習わせておいた方が今後にいいような気がするわ。ミシェル、学園入学したら剣術の授業もあったわよね?その時に他家からなんて言われるか考えたら…やっておいて損はないわ。アルはその上を目指させればいいのだから」


「…そうね。本人の動向にも注意して程よい時期に習わせてみるわ。ありがとうイネス」



(帰って、ジョーカスに相談だわ)



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