7 君がすきだから
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「でね、私も剣術を習ってみたらどうかと思うんだけど…アルは、どう思う?」
「………」
「やっぱり、ある程度動けたほうがいいような気もするのよね。「いちご姫」だって冒険に出るために鍛錬していたって書いてあるし…」
自身の今後を想像しながら話を続けていたフィリティは、そっぽを向いたままの彼がボソボソっと口を動かしているのが目に入る。それが全く聞き取れない。
「えっ?何?聞こえない?」
「……僕が側にいれば……」
「んん?」
また沈黙。
フィリティは、顔をそむけたままの彼を覗き込もうと身体を傾けたその時、アルールが勢いよくガバッと正面を向く。
「だから…僕がいれば!!!……フィーリが剣術なんか学ばなくったって…いいじゃないか…」
途中から声が窄むけれど、今度はフィリティにしっかり届いた。
耳が熱い。アルールの顔にほんのり赤みがさしている。
彼の心情は、残念ながらフィリティにはわからない。
(…どうしてこんなに必死なのかしら?)
「んー?ほら。常に一緒ってわけじゃないじゃない?」
「……っ!!」
その通りである。
* * *
僕がフィーリを意識するようになったのは、いつからだっただろうか。
僕、アルドルト・ジョルテクスは、ジョルテクス王国第二王子。
普段は、銀色の長髪をきっちり結ってうしろに流している。髪は…夢がかなったら切ろうと思う。
いつの日か王城の中で僕のために同じ年くらいの子が何人も集められた。
《お友達》を作るように父上と母上に言われて、一緒に遊んだ。
僕は、剣に興味があったから、本を読むような室内でする遊びより身体を動かす遊びばかりしていた。
遊んでるときは、男の子が一緒になることが多かった。女の子は皆、『ステキです』とか『かっこいい』ばかり言うだけで一緒に遊んだ記憶はない。
でも、母上と一緒に何もない国境沿いの家に行くとそこには、いつも一人だけ女の子がいた。
その子のお母さんと母上は仲がいいらしい。とても楽しそうだった。
ここにいるときは、母上からの《お願い》で僕は、結紐に魔術式を組み込み髪色を変えている。
今ほど長くなかったから結紐がするりと抜けないか不安だった。あんまり好きになれない色だったのに女の子が小麦色をしていて、同じ茶系でちょっと嬉しくて嫌じゃなくなった。僕たち二人が並ぶと、女の子のお母さんは皮ブランドのモノグラムみたいって言っていたけれど、僕にはわからなかった。
僕も母上と同じで、誰かに何かを言われないこの時間が好きだ。とっても楽しかったし、その女の子と木に登ったり、虫を捕まえたり、穴を掘って宝物を入れてみたり、王城の女の子が絶対にやらない遊びをたくさんした。
『ここのお部屋は、あなたたちのお部屋ね。この部屋の中だったらおもちゃを出して散らかしてもあとできちんと元の場所に片づけるなら好きにしてていいわよ』
母上に言われた「こども部屋」。
僕たちは、僕たちだけの『ひみつきち』を作った。母上にどうしても木と布が欲しんだと強請った。強請ったのは初めてかもしれない。
女の子…フィーリのお母さんが僕たちの絵を見て『キッズテントハウス?かしら』と、言っていたけど、それも僕にはわからなかったから『ひみつきちをつくるんだ!』と言った。
自分たちで作ると言ったのに翌日には、部屋の奥に存在感バリバリで出来上がっていた。目的は『ひみつきち』が欲しい!だったから、自らの手で作れなかったことは、残念だけれど、嬉しかった。
『ひみつきち』のある部屋は、今までより段違いだった!
良い個部屋にもなるし、どんな敵とどう戦うかの作戦会議はもちろん、母上たちに内緒で裏の菜園から野菜や果物を取ってきて食べたりもした。文字通りの『ひみつきち』になった。
フィーリがよく寝ちゃうから僕も一緒に添い寝をして、起きるまで一緒にいてあげた。
僕たちの『ひみつきち』は、二人だけの特別だった。
僕は知ってるんだ。
本当のフィーリの髪色は、蜜色で艷やかで真っ直ぐなんだって。
剣術を習い始めたとフィーリに告げてから数日後。
いつもみたいに背中を向けて《ひみつきち》で寝ちゃったフィーリが寝返りをうった拍子に髪留めが外れたんだ。その瞬間にふわって、柔らかな光がフィーリを包んだと思ったら髪が蜜色になっていた。
『っ!!!』
ビックリした。男らしからぬ悲鳴をあげるところだった。
息を呑むほど可愛いフィーリ。妖精みたいだった。僕は、見てはいけないものを見てしまった。知ってしまったって慌てたよ。
髪留めは、適当につけただけで小麦色に変わってくれた。ホッとしたのを覚えてる。
《フィーリも髪色を変えなければならない人なんだっ!》
このことは、なんとなく誰にも言ってはいけない気がして、母上にもフィーリのお母さんにも話していない。
そこから、フィーリを守れる騎士になりたいと、ぼんやりしていた気持ちがハッキリとした。もっともっともーーっと強くなりたい。
城に戻ってから本格的に騎士団長に時間をもらって、稽古をつけてもらうようにした。
だんだんフィーリの髪も伸びてきた。今までは感情のままに笑っていたけれど、絵本に出てくるいちご姫みたいなお淑やかな笑顔になってきた。
フィーリのどんな笑顔でも僕は、ずーーーーっと見ていたいと思ってる。
そして、今日。
僕は、とうとうフィーリに言ってしまった。
『……僕が側にいれば……』
『だから…僕がいれば!!!……フィーリが剣術なんか学ばなくったって…いいじゃん…』
だって、急に剣術を習い出すとか言うんだよ。
僕が守りたくて剣術始めたのに、フィーリが始めちゃったら、僕が守らなくてもよくなっちゃうじゃないか!
僕が守りたいのに。
僕だけがフィーリを守る騎士になりたい。
そうでありたい。そうでなくっちゃ駄目なんだ…。
だって僕は……フィーリが…好きだから。
ずっと一緒にいるためにはどうしたらいいんだろう…。
フィリティのことを
フィリティの家族は、フィー。
アルールの家族は、フィーリ。
と呼んでます。




