67 なつやすみ
初めての夏休み。私は、やっと隠れ家に来ることが出来た。
今回は、アルとキィじぃも一緒だ。バトンには身分を隠しているため、同行していない。キィじぃをサンカルミに送ってから隠れ家に着いた。
キィじぃの家にはゼンさんがいた。キィじぃの留守中を任されていたらしい。ゼンさんとは軽く挨拶をして、お母様がいくつか要望?を伝えたのち私たちは、隠れ家に着いた。
隠れ家からアルは、家に行ってくると言って、勢いよく駆け出した。ここで会う方がジョルテクス王国へ戻るよりも早いことと面倒ごとに巻き込まれなくていいと言っていた。
第二王子は何かと大変そう。彼の後ろ姿を見送りながら漠然と、私はこのままでいいのかなと憂慮した。
隠れ家に着いて、まずは菜園の様子をみる。
今では、キィじぃが留守の間、お世話をしてくれていたが、今はそのキィじぃも学園の教師。どうなっているのか気になっていた。
菜園の様子を見ながら、お母様がゼンさんが見に来てくれていたと教えてくれたの。
もっと早く教えてくれたら、お礼を言ったのに。
後でバトンにも会いに行きたいからその時にゼンさんにお礼を言おう。
今年は、満開のシレスコピを見に行くことは出来ない。その頃まで隠れ家にいたら、二学期に遅れてしまう。こうやって行きたいところに行けなくなったり、優先順位が変わっていく。些細なことだけれど、身の回りの変化に不安を感じてしまった。
《 や っ と み つ け た 》
些細な不安を感じるだけで、なぜかあの声を思い出す。
――あなたは、何が目的なの?
――私をどうしたいの?
ニーニーニー
庭で自由に羽ばたかせていたルーが肩に乗ってきた。
たぶん…私を気にかけてくれてる?のかな。
「ルーありがとう」
なんだろう…気持ちが沈むと引きずられる…ような…。
ツツピィーツピィーツツピィー
ルーに髪を引っ張られ、うつむき掛けた顔を上げる。
「ごめんね。菜園は大丈夫そう。とりあえずお母さんのところにもどろうかしら」
ツツピィーツツピィー
「ルー?お腹すいてるの?今日はヒマワリがあるのよ。食べに戻りましょう」
ニーニーニー
ルーとはあの図書室の出来事で会話をした気がしたけれど、あれ以来、鳴き声は聞くもののしゃべったことはない。本当になんだったのだろう。
「…また、ルーの声を聞かせてね」
ビービービー
* * *
「せっかく隠れ家に来たんだから今日は浴衣を着ましょう!」
フィリティが部屋に戻ると出迎えたミシェルが浴衣姿でそういった。
そういえばと思い出す。毎年毎年、浴衣を着るときに誰にも会えないでいた。
「お母さん!私あの浴衣が着たいわっ!」
藍色の地に下から浮かび上がるようなカラフルな花火柄。
この世界に花火はない。今のところミシェルとジョーカスによって研究中である。
花火柄は、ミシェルが前世の日本でよく着ていた浴衣だ。母から譲り受けた柄だったため、思い入れがあり、この世界にはない花火柄を職人と一緒にデザインしたのだ。
(あの浴衣を着て帰ってきたアルを驚かそうかしら)
「お母さん、上で着替えてくるからアルが来たら上に来ないでって、言ってくれる?待ってもらってほいんだけど…」
「いいわよ!ゆっくり着替えてらっしゃい。最後は必ずお母さんに見せてね。直してあげるから」
「了解っ!」
*
浴衣は、着物ほど大それたものじゃないことでフィリティにも着付けができるようになった。
ちゃんと裾すぼまりを作ると立ち姿が綺麗になるからとフィリティが一番浴衣の着付けでこだわっている。
帯の結び方もリボン結びが多かったが、去年は《都結び》に挑戦し、今日は《たまてばこ》結び。
《たまてばこ》結びには、帯締めを使う。緑色の瞳を思い描いて、緑色の帯締めを締める。
「ここをこうして、最後にここに飾りをつけて。くるっと回して…」
(よし。完成!丸みがあって可愛い)
片づけをしてから一階に降りる。
「お母さん、みてみて!今日はたまてばこにしてみたのよ」
居間に降りるとそこには、キースとバトンがソファに座っていた。
「っ!!」
「おう!これは馬子にも衣裳だな」
フィリティは来客に気付かないほど、着付けに夢中になっていたらしい。恥じらう姿を見せたがそれも一瞬。二人に会えたことが嬉しくて言葉が跳ねる。
「キィじぃにバトン!!いらっしゃいっ!」
台所からミシェルがティーセットを持ってやってきた。
「フィーちゃん上手!ちょっとちょっと、こっちに来て来て」
そういうなりフィリティを部屋の角に呼んで、帯にゆるみがないかを見てくれた。くまなくチェックするミシェルはニッコリと微笑んで着付けの採点をする。
「うん!これなら大丈夫ね。今日は帯締めも締めているからきっと着崩れしにくいわよ。満点ね」
「お母さん、ありがとう!」
キースとバトンに先ほど途切れた会話を再開しにソファに戻る。
「フィーは何着ても生えるなぁ。なぁバトン」
「…あ、あぁ。似合ってる」
見たこともない衣装に身を包んだフィリティの姿は、正しく《妖精》だった。
「二人ともありがとう!」
えへへと、嬉しくてふにゃりとした笑みになってしまうのは許してほしい。バトンはぼーっと見惚れていたがハッとして、フィリティに問う。
「ここではいつもそれなのか?」
「あーバトンは、浴衣初めてだったね。違うよ。これは、夏の間に来てもいい服?ってところかしら。遠い民族衣装よ。お母さんに教えてもらって着るようになったの」
「男性用もあるけど、着てみる?」
横からミシェルがバトンに促す。獲物を見つけたとばかりに熱い視線で肯定するように訴えている。
(バトンは、身長があるし、髪色がザ・日本人って感じだからきっと映えるわよ!何よりイケメンだし!)
ミシェルは表には出さないが、内心ウキウキしていた。フィリティにも逃すなと視線を送ったが…伝わっていなそうだ。
「…いやいい。見てるだけで十分だ」
「そう?アルは着てくれるかなぁ」
「……ん?なんでアル?」
ここにいない人物の名が出たので怪訝そうにバトンが眉を寄せている。
「ん?こっちに来てるから…だよ?」
覗き込むフィリティを見て、サッと視線を逸らす。見慣れない彼女を直視するには、もう少し時間が欲しいバトンだった。
「そうか…幼馴染だったな…。じゃぁオレも…着よう…かな」
「本当に?お揃いね!」
「お…おそろい……」
「お母さん!バトンが浴衣着るって!着付けお願いできる?」
「バトンも着るのか?」
やった!とつぶやき、ミシェルは小さく胸の前で拳を握り、喜びを程々に表に出しながら返事をした。もちろんキースの言葉も聞き逃さない。
「あらいいわね!じゃぁキース、あなたも着てみたら?」
「わしはええよ。若いもんで楽しめば」
「キィじぃ!そんなこと言わないで着てみてよ!」
「浴衣パーティの開始ね!」
“ほらほら”と、気持ちが変わらない内にバトンとキースを二階に連れて行く。ミシェルは、足取り軽くスキップするように階建を登りながら何柄が良いかしらと手持ちの浴衣に想いを巡らせた。
(ふふっ楽しくなりそうだわ)




