64 癖
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カフェテラスの個室について加筆しました。R6.7.25
休み時間になるとアルドルトことアルールが行くところ行くところ生徒が群がっていた。
尋ねられることは大体同じだ。
「どこでミローリンデさんとお知り合いになったのですか?」
「幼馴染なんだよ。フィーリとは。彼女とも仲良くしてやってくれ」
「ジョルテクス王国ってどんな感じなんですか!?」
「僕が住んでいるのは王都ではなく田舎だからそんなにアンジュール国とは変わらないと思うよ」
「あ、あの!ーーー」
全てこんな感じでアルールの休む時間がない。
その様子をバトンとフィリティは隣の席で見守っていた。
「た、助けなくていいの?かな?」
「あ?いいんじゃねぇ、新入りってこんなもんだろ?」
「そ、そうなんだ…」
(転校生って大変なんだね…)
「フィーリ、ちょっとよろしくて?」
アナスターシャがフィリティの席に後ろから寄ってきてちょっと場所を変えて話したいと言ってきた。
二人で廊下に出るとそこにはナタレイシアとヴァランティーヌがいた。どうやら呼び出すのだけアナスターシャに頼んだようだ。
「これはどういうことだ?」
最初に口を開いたのはヴァランティーヌだ。
「んん?」
フィリティは、思い当たることがないと首を傾げる。
「はぁー、アルさんのことに決まってますわ」
アナスターシャがため息交じりに小声で指摘する。
「そうですよ!こんな大大大ニュースっなんで教えてくれなかったんですか?」
ナタレイシアがアナスターシャを真似て小声で言うが口調に感情を乗せて迫ってくる。
「っ!わっ、私も知らなかったのよっ!!寝耳に水なのだからっ」
身の潔白を証言すべく、必死の形相で三人に訴えるが、
“ふ~んそうくるか”と三人の瞳には疑いしかない。
「カフェテラスの個室、予約できましたの。今日の放課後、この間の話もまだですし、いいですわね?フィーリ?」
(アナが怖い。微笑んでいるのに目が…目が笑ってないよっ)
フィリティ失踪事件の後、快気祝いと称してヴァランティーヌ、アナスターシャ、ナタレイシアとバトン、レジェンの六人でカフェテラスの個室でアフタヌーンを楽しんだのは、つい先日のこと。
その時にもアルドルトのことを問いただすつもりだった三人は、聞くことが出来ずにいた。未だに婚約者となったアルドルトとアルールが同一人物という事実を話せていなかった。フィリティが納得して婚約したことだけは、早々に連絡したのだが…。
このことを親友たちに話してしまっていいのか…非常に悩んでいる。
学園内では、二人が婚約者であることは秘密だ。公表した方が良いのでは?と、国王間での話し合いで議題に上がった。婚約者であると公表した場合、二人の素性がどこから漏れるかわからないと危惧し、またアルールが脅しの材料に使われる可能性が懸念され《幼馴染》というカテゴリーで納めることになった。
婚約者よりかは危険ではないだろうと考えた父であるマルクの策だ。
「わ、わかったわ。では放課後に…」
(なんだか後が憂鬱になってきたわ)
* * *
「うん。その時はそんなに怖くもなかったよ。だって、フィーリが落ちてしまったらその方が後悔したと思うから」
ここは、カフェテラスの個室。
瞳をキラキラと輝かせてアルールの話に耳をダンボにして、聞き入る乙女三人と不機嫌極まりない顔でドカッと座る男が一人、話よりお菓子に夢中になる男が一人いる。
――なんで?なんでこんなことになったのだろう。
一日の授業が終了し、帰りのホームルーム。
キースの手伝いでアルドルトと一緒にノートを生物室まで届けていた。
「フィーリ。この後、一緒に帰ろう。僕は、フィーリと同じ王宮に住むことになってるんだ」
「へっ!?は、初耳なんですけれどっ」
「あー言ってなかったね。これもサプライズだよ。実は三日前から同じ屋根の下にいたんだ。おばさんが《絶対に会っちゃダメ》とか言っててね。僕は早く会いたかったんだけどさ」
「………」
(お母様っ!!もうサプライズいらないからっ!!)
フィリティは頬を膨らませて、母への苦情を心で叫んでいた。
「帰ろう?一緒に」
子犬のように瞳をうるうると揺らすアルドルトに思わずうなずいてしまいそうになったが、本日は先約がある。
本当なら今すぐにでも帰りたい。
「ごめん。先約があって…」
「……せん、やく…」
(まさか…バトンじゃないだろうな)
急に周囲の温度が下がった気がしたのだが、生物室は、明かりが入りずらい北側にあるので、それが原因かなと、フィリティは全く気にしない。
「うん。女子四人でアフタヌーンを楽しむ予定なの」
「んん?女子四人?」
「そう。私とアナとティーヌとナータで」
「そう…なんだ。フィーリの友達か…」
それからう~んと唸りながら何かを考えるアルドルトを黙って待つ。すると何かをひらめいたように手をポンと叩いてニコッと笑う。
「あのさ、僕を紹介してくれない?乙女たちに」
「へえっ!?」
その提案に思わず、いままで出したこともない変な声で反応してしまった。
「えっと…たぶん無理じゃないかな?」
「どうして?」
「………」
(だってアルのことを話すのに本人いたらだめでしょう)
「じゃぁ乙女たちに聞くからいいよ」
視線を彷徨わせながら、挙動不審のフィリティにアルドルトは自ら交渉すると言う。その足取り軽く、生物室の扉を開いたのだった。
「ねぇ、手をつないでいこう」
帰りは、荷物がないからと流れるようにフィリティの手をとり、歩き出すアルドルトにもう手を振りほどくことも嫌だともいえずに、なすがままを選んだ。
教室までの道中は誰にも会うことなく過ぎたため、違和感なく、そのまま教室に入ってしまったのが悪かった。教室内で残っていた乙女三人と五班のメンバーにしっかりと目撃され、この後の話題をまた一つ提供してしまった。
アルドルトは言った通り、アフタヌーンの参加をもぎ取り、アルが行くならと他二人も一緒に行くことになった。
時間は経って、今の状況だ。
カフェテラスの個室は、丸みを帯びたガゼボとパーゴラを足して割ったような作りで可愛らしい。等間隔にいくつか並んでいるが植物の壁があり、姿も会話も遮断されている。
公爵令嬢の予約だからなのか、はたまた人が多いからなのか、この個室は広く、茶会によく使われる屋外用のテーブルと椅子以外にもソファが何組か配置されていた。
テーブルには、ティーセットと菓子の山。少し離れたところに点々とメイドが立って待機し、使用者が呼んだらすぐに近寄ってきて対応する。
この個室以外にもハウス型の個室が存在する。外観だけなら別荘のような造りで等間隔に三棟建っている。行事ごとにクラスで打ち上げをする際に使われたり、高位貴族間の交流で使われたりとその利用方法は、多岐にわたる。
幼い日のアルールとフィーリの話を根掘り葉掘り聞きだす乙女たち。
それに対して臆することなく、スラスラと話すアルドルトにフィリティは耳をふさぎ、とにかく時間が過ぎるのを待った。
どう聞いても、幼い日の自身を過大評価するアルドルトの話に耐えられなくなり、アルドルトの側から火の粉が飛んでこないように壁際にあったソファに移動して座った。フィリティがソファに移動したのを見計らって、椅子に座っていたバトンが移動し、隣に腰を下ろした。バトンの重みでわずかに沈む感覚が伝わってくる。
「フィー、オレにも話てくれるんだろう?なんであいつがいる」
「なんで?だろうね…私が聞きたいわ」
バトンがフィリティの水色の瞳をじーっと見つめ、本当かどうかを見極める。あまりに見つめられているものだから気恥ずかしさで頬に熱が集まってきた。
「嘘はいってねぇみてぇだな。そうか知らないのか。悪かったな」
「いい。大丈夫」
フィリティは、視線を親友たちに向けたままバトンの問に答えた。
ナタレイシアはいつものように瞳をキラキラ輝けせて、前のめりにアルドルトの話を聞く。アナスターシャは、時に儚い表情を浮かべるもふふっと微笑みながら聞き入っているよう。いつものようにひじ掛けに肘を置き、頬杖をついて椅子に腰かけるヴァランティーヌが、口の端が良い具合に持ち上がって、話を楽しんでいる姿に内心驚いている。
(ティーヌまであんなに楽しそうにするなんて…珍しいわ)
眺めていたらバトンが急に顔を近づけてきた。
「なぁ、お前らって本当に婚約とかしてねぇの?」
「え…な、なんで?」
「さっきも手をつないで仲良しだったじゃんか」
「あっあれは…癖って言うか…」
「……癖ねぇ…」
そう言いながら近づけた顔を離すバトン。居た堪れないフィリティはサッと視線を逸らした。
バトンの目線の先には、こちらを見るアルドルトがいる。バトンはふっと嘲笑った。
菓子に夢中になっているふりを続けるレジェンが一人、その二人のやり取りに苦笑してつぶやく。
「俺の入る隙は、作れそう…かな」
その声は誰にも届かない。




