54 担任
閲覧ありがとうございます。
本日、長いです。すいません(汗
アンジュール国王立学園一年A組の教室。
入学式が無事に終わり、教室にもどってきたフィリティは、自身の席に着席する。バトンは、講堂から戻る間《なんで?なんでじいさんがいるんだ?》と、ブツブツブツブツ呪文でも唱えるかのように永遠とつぶやいていた。
隣にいるナタレイシアがフィリティに《彼はどうされたのですか?》と聞いて来たので《知り合いが教師だって判明して困惑しているらしい》と正直に告げると《あぁ、サプライズだったのですね》と納得していた。
(そうか…あれはサプライズだったのね)
何事もなかったようにキースが平然と教室の扉を開け、入室してくる。
「よーしお前ら。今日から担任のキース・アイズキャップだ。以後キース先生と呼ぶように!」
『「「はいっ!」」』
「おー。いい返事だ。どんな時もそうやって返事するように。さて……悪いが席がえだ。案内した教師がいうたと思っとるが、このクラスは十八名在籍だ。あと二人隣国から入学してくるが、少々手間取っててな。空席が目立つのは集中できんだろうからな。席決めは、くじ引きで行う」
キースはおもむろに手をかざして、くじ引きをするための道具を召喚した。
「くじを引く前に自己紹介しとけよ~」
黒板に縦四マス横五マスが書かれた紙が貼られた。最終列だけ窓際から三マスだ。
キースがサッとその紙を撫でるように手をかざすとマスの中に数字がランダムに書かれている。最終列は窓際の席のみ番号がある。どうやら引いた番号が新しい席になるらしい。
引く順は、なぜかジャンケンで勝った人から引くことになった。
「ファーストジャンケンだっ!いいか?いくぞっ!ほいっジャンケンポンっ!」
勝ったのは…バトンだった。
「……」
バトン、キィじぃを見て…いやっあれは睨んでる?
あっ…キィじぃがなんか耳打ちした。
あれ?バトンの機嫌が直ったよ?なんて言ったんだろう?
一連の流れをみていたフィリティは、心のつぶやきが止まらない。
「オレは、バトン。バトン・カイティオだ。鍛冶師を目指している。よろしく頼む」
くじの入った箱に手を突っ込み、勢いよく引き出す。【三】を引き当てた。
「おーバトン。窓際でよかったな。では次」
黒板の紙には【三】の数字が消えていき、バトン・カイティオと名前が浮かび上がる。
仕組みがどうなっているのかフィリティは興味がそそられ、知りたくてウズウズしていた。
順調にくじを引いた生徒が増え、徐々にくじが無くなっていく。
キースは、生徒を家名では呼ばない。その方が絆が強くなるのだと明言していた。
そのおかげで、フィリティも聞き慣れた名を呼ばれるので正直、ありがたかった。
アナスターシャは【八】、ヴァランティーヌは【十七】、ナタレイシアは【二】を引いた。
いつしか立っているのはフィリティのみになっていた。どうやらラストワンになってしまったようだ。
「フィーリ、お前さんジャンケン弱かったんだな」
(私…ジャンケンそんなに弱くなかったんだけれど?)
”はいよ”っと渡された紙には【十二】と書いてある。
黒板の紙を見ると十二の番号が消え浮き上がるように【フィーリ・ミローリンデ】と記された。
「フィーリ・ミローリンデです。皆さんとお友達になれたら嬉しいです!よろしくお願いします!」
隠れ家のフィーリらしく、明るく平民に近い対応で自己紹介をした。
親友三人は慣れないフィリティに目が点になっていたが、学園生活のフィリティは【フィーリ】なのだ。
これから三年間、学園ではこのスタンスでいく。早く慣れてほしいと心から願うフィリティだった。
それから注意事項や時間割などについて軽く話があっただけで本日の授業は終わってしまった。
家庭教師に学んでいたフィリティは、時間にタイトで分刻みのハードスケジュールだった。そのおかげで入学前に妃教育が完了したのだが、今日の日程は物足りなく感じる。
「それじゃぁ、入学式お疲れさん。明日から元気に登校するように!席替えしといてくれ。気を付けて帰れよ!」
「規律! 礼!!」
出入口に近い生徒が号令をかけて挨拶をした。皆がそれぞれに動き出す。その中でキースと目が合い手招きされた。フィリティはサッと近寄る。
「先生?」
「ある程度終わったらバトンと生物室へ来なさい。いいね?」
こくんと頷くとキースは足早に教室を出て行ってしまった。
フィリティの席は、窓際の一番奥。
皆に遅れて、フィリティが机を運んでいると「フィー、まだだったのか?」と、バトンが声をかけてきた。ひょいっと机を軽々持ち上げて、すでに移動が終わっている机とぶつかることなく、一番後ろまで持って行く。
「あっ、ありがとう。とっても助かったわ!本当にありがとう」
「あぁいいよ。大したことじぇねぇし」
バトンにとっては、普段から鉄材など、重量のあるものを運ぶ仕事をしている。机とは比べ物にならないほどだ。そこまで感謝されることではないと考えていた。
一方のフィリティは、バトンが思っている以上に感謝していた。一番後ろの席まで机と机をぬっていくことを考えたら、どんなに動きにくかったことかと思う。満面の笑みで再び感謝を述べる。
「本当にありがとう!それと、キース先生に呼ばれてる。あとで一緒にお願い」
「あぁ?じじいに?」
「ほらっ!キース先生でしょう」
プイっと視線を逸らしたバトンは、バツが悪そうな顔をしていた。
フィリティはそんなバトンの肩に手を置いて、背を屈ませるために力を加えて耳打ちする。
「ねぇ、くじ引きのときになんて、話してたの?」
「んんっ?……あぁ…フィーには関係ないこと…だから」
「気になってたのに」
プーッと軽く頬を膨らませ、幼稚な態度をとるフィリティを見て、フッとバトンが笑う。目の前にある小麦色の髪をガシガシ撫でた。
「それより…友だちなんだろ?待ってるぞ?」
バトンの視線の先、教壇に乗って黒板に明日の日付けを書いているアナスターシャと教卓に肘をついてこちらを見ているヴァランティーヌとナタレイシアがいた。
「あっ!ごめん、ちょっと待ってて」
ヴァランティーヌとナタレイシアに駆け寄る。
「フィー遅い」
「フィーリさん遅いですよ。それに知りませんでしたよ。バトンさんがあんなにイケメンだったなんて」
イケメンと言ったのは、ナタレイシアだ。
アナスターシャの弟に恋をして翻弄していたが、王立学園入学するのだから学園でいい人が出来たら言いなさいと親から言われてしまった。諦めてはいない、けれど他の道も選択するべきなのかと悩んでいる。
(バトンって…イケメン?なの?)
フィリティの周りにはイケメン尽くしなのだが、その環境が当たり前だったためにイケメンに対する免疫が備わってしまっている。それでなくともフィリティはそういうことに疎いのだ。
今、思ったことを口にすれば避難の目が来そうな気がして、声に出さずに飲み込んだ。
「あ…今、イケメンか?って思っていたんですよね?その顔!わかりますよ!」
口に出さずともバレてしまったようだ。
ここは素直に謝っておこうと決断する。
「ごめんね?…ほら…私こういうのよくわからないから」
「確かに。フィーリさんはこういったことには不慣れで適応できませんものね」
チョークを片手に日にちを書いていたアナスターシャが会話に参加する。
「アナにまで言われると、事実だけど凹むわ」
しょぼんと落ち込んだフィリティの側に近寄りアナスターシャが頭をなでる。
バトンに撫でられて乱れた髪がどんどん整っていく。
「そこがフィーリのいいところよ」
(あ…“さん付け”がなくなった)
「皆は、このあとどうする?」
ヴァランティーヌが聞く。先に答えたのはアナスターシャだ。
「わたくしは、入学の祝いに家族で食事をしますの」
「私は特に何もありません!校内を散策してから帰ろうと思います!」
「私は、先生に呼び出されているから行ってくるわ。終わりは何時になるかわからないの」
全員の予定を聞くなりヴァランティーヌは”そうか”と返す。
「どうしたの?」
「いや、皆の予定がなければ、せっかく集まったのだから、お茶でもしようかと思っただけだ。学園内にもカフェテラスがあると聞いてな」
カフェテラスと聞いて皆が一様にぱぁあっと表情を明るくする。
「では、明日の放課後にしましょう?皆さんどうかしら?フィーリのその後の話も手紙では聞いていたけれど、直接は聞いていないのだし、そこを聞かないとなりませんわね!」
「報告会といこうじゃないか。なぁ、フィー」
キランっとアナスターシャの瞳が光り、ヴァランティーヌはニヤっと獲物を見つけた動物のように悪戯な笑みを浮かべている。ナタレイシアも興味津々の様子で手帳に何やら書き込んでいた。
「……はっ話さなきゃだめ?なの?」
三人が強くうなずくと、ガクンっとフィリティはうな垂れた。
「では、また明日に」
三人と別れ、バトンの元に戻る。
窓のサッシに腰を預け、腕を組んでいるバトンは、確かに格好良いかもしれないと、フィリティは先ほどのイケメン発言をしたナタレイシアに詫びた。
「お待たせ!ありがとう」
スカートを翻して微笑みながらバトンの元に駆けてくるフィリティ。
バトンは、一瞬その姿に見惚れて反応が遅れた。
「…いや、いい。どこに行けばいい?」
「生物室だって」
「どこだかわかるのか?」
「大丈夫。だいたい校内図は頭に入れてるから」
「へぇ。頼もしいな」
(フィーのことだからきっと覚えるまで読み込んだんだろうな)
頭に叩き込んでいる健気なフィリティの姿を想像し、思わず微笑む。
「記憶力はいい方なの。頼りにしてね」
「あぁ。頼むな」
スクール鞄を肩にかけて、教室を出る。二人並んでほかの生徒と混じりながら廊下を進む。
学生生活がどんなものか想像できなかったバトンだったが、隣をみれば小麦色の髪を揺らし、楽しそうに歩くフィリティを見て、学生生活は悪くないかもしれないなと思った。
その気持ちとは裏腹にこれから先、想像しなかった出来事が待ち受けているとは、今日出会った誰もが考えもしなかった。




