44 かつてのクラスメイト
『正式に婚約するのであれば、悠乃のように平民の生活もしたい』
『私にとって悠乃は、過去なのです。ですが、どうしてもあの生活には焦がれてしまうのです。殿下には…信じていただけないことであり、私の虚言とお思いかと…『……いや、信じよう』…っ!!!』
一生懸命言葉を紡ぐ彼女に割って言葉を被せた。
もう興奮が止まらない。
でも、ミシェル譲…もとい悠乃は気づいていない。
目の前にいるのは、俺なんだ。俺…なんだよ。かつてのクラスメイトだった……。
『そなたの想いしかと受け止め、信じよう。』
『…本当に?』
『あぁ』
『…信じてくださるのですか?』
『ああ、信じる。』
『…私自身…で…すら、おかしなことを言っていると…自覚しています……』
彼女の手が白くなるほど握られていて不安なんだと悟った。汗ばんだ手で悪いけど、包むように手を重ねた。
『……ジョーカス殿下…』
蚊の鳴くようなかすれた声でミシェルは言う。
『そなた…ではないな。ミシェル譲を私は信じる。約束しよう。……そして、私の秘密も打ち上げねばならぬ…』
彼女が訝しげに小首をかしげている。
『……聞いてくれるか?ミシェル嬢よ』
一度、間を置いた。俺になるために。
『いや…小見野さん…俺はあなたのクラスメイトだった、ジョーカス・哉太です。わかりますか?』
この世界に来て初めて口調を変え、この世界にはない【日本語】で話しだした。元居た世界の…日本人の俺だ。
俺の言葉に ミシェル嬢は目を見開いて驚いていた。
言葉にしようにも声が出てこない様子で震えている。
俺は、彼女が落ち着くのを静かに待った。
『か…か…』
『か?』
『哉…太くん?なの?本当に?』
絞り出すように 紡いだ言葉が俺の名だった。
哉太くん…って呼んでくれてたんだな。
ふっと顔が緩んだ。
『本当だよ。顔も一緒だろ?』
そう言うと、なんできづかなかったのかしらってつぶやいて、頬を赤らめてしまった。
可愛い。可愛すぎる。
容姿が変わり、小見野悠乃の見かけは何も残っていない…いや、あるな。笑うと彼女がダブル。
『だから、君の話を俺は信じる。それに…』
『?』
『俺…小見野さんが好きだったんだ。伝えることができなかったけど…』
『っ!!』
『迷惑…だよな。もう小見野さんじゃないのに』
彼女は少し悩むような素振りを見せたかと思うとバッと俺をみて言うのだ。
『わっ!わたくしもっ!!悠乃も哉太くんが好きっ!!よ』
あ…哉太くんって言っちゃってた
心の呼び名を明かしてくれた彼女の愛らしさが眩しい。
思わず抱きついてしまった。
『結婚しよう!………ミ、ミシェル?』
俺にとっては、言いなれない彼女の名前を照れながら呼ぶ。疑問形になったのは許して欲しい。俺だって好きな女の名前なんて呼んだことないんだから。
抱きしめているから顔はわからないが肩越しにふふっと聞こえた鈴が鳴るような声に俺は安堵した。
* * *
それから今までの生活をお互いに話して、大まかにこの世界の話をした。
『では、起点となるのは、わたくしが第二子である男児を出産してその子が王立学園で魔法の才が開花したときでお互い間違いないですね?』
『あぁ。ただ…物語と異なる部分が出てくると俺は思っている。俺の行動やミシェルの行動。それ以外にも物語通りに進むとは限らない。ここも現実なのだから』
『わかりましたわ。それと……一つ試してみたいことがあります。やってみていいかしら?』
『??…どうぞ?』
『………ステータス』
おぉっ!!!
わぁあ!!!
『本当に出ましたわ!!悠乃は、小説よりゲーム派だったのでジョーカスの話を聞いてやってみたかったの!まさか本当に出るなんて』
『あぁ…驚きだ』
【 ジョーカス・アンジュール
☆アンジュール国 国王
☆属性︰火・水・氷・風・土・雷・光
☆LEVEL︰99999
☆ ……… 】
【 ミシェル・アンジュール
☆アンジュール国 王妃
☆属性︰火・水・氷・風・土・聖・光
☆LEVEL︰99999
☆ ……… 】
『…これ、俺たちカンストしてるんじゃ…』
『……そう…みたいですわね…』
『項目が多すぎて読みきれない…』
『生活するのには便利そうですわね』
『あぁ、確かに。属性って…普通一つなんじゃないのか?』
『……私もそう思います…これは…なんでしょうか?』
『……。ま、まぁ使えるに越したことはないけどな…』
あ、すでに王妃なんだ。俺もまだ王太子なんだけど…。
気づいてしまったがために俺の心臓は早鐘を打つ。
『このことは…秘密にしておこう。悪い方に利用されても困るしな』
『ええ…』
やっぱり転生者であったり前世の記憶持ちってだけで元々の素質が違うのか?
この世界では、LEVEL…すなわち魔力によって、相手の魔力を調べることが出来る。LEVELが低い人が高い人を調べることは出来ない。
俺たちを調べることが出来る人物は相当な人物ということになる。
興味本位で覗いてしまったとはいえ、とんでもないものを知ってしまった。
『……ふっふふっ』
深刻な面持ちで二人で考え込んでいたが、ミシェル嬢が突如、澄んだ声で笑い出した。
呆けて彼女を見ていると彼女の瞳が俺を映す。
『ごめんなさい。いろいろなことがスケールが大きくて、ふふっ』
なんとなく…わかる。
ここは、俺やミシェル嬢や他の命も皆生きている現実の世界だ。
たしかに「光と影の彷徨~心に虹を輝かせ~」の物語に類似してることも多い。それでも、ちゃんと生きている世界だ。
これからも俺達は命ある限り生きて、死に行く人たちを涙と共に見送って行く。いずれそこに自らも加わるはずだ。
俺もミシェル嬢もぶっ飛んだ人物になっているみたいだけど、今の今まで知らぬこと。
知ったからと言っても公表しない限り何も変わらない。
王族に生まれてしまった分危険とはいつも隣り合わせであるけどな。
『俺達はステータスが可視化出来たとしても変わらない。自分たちらしく生きていこう』
『はい』
そして、二人でまた笑ったんだ。
『改めて、アンジュール国王太子ジョーカス・アンジュールは、ミシェル・インディカ公爵令嬢と生涯を共に歩みたく、婚姻を結びたい。遠くない未来に国王となり、国民を導く立場となる私だ。貴女を一番に考え、一番に守りたくとも国王という立場が許さぬ時もあろう。こんな私との生涯は平和ではないかもしれない……』
一度、瞳を閉じ、脳裏に浮かぶ悠乃に微笑んだ。
瞼を開けて、ミシェル嬢を瞳に映す。
『それでも、私には貴女しか考えられぬのだ。貴女を離せない弱い私を受け入れてくれるだろうか?』
先ほどの勢いある告白とは異なるこの世界の契約。弱音はこの先もう吐くことは出来ないだろう。
返事を待っていると手を握られた。
俺より小さくて華奢で握り返したら折れそうな女性の手。なのに…なぜだろう。頼もしいと感じる手だった。
『私、ミシェル・インディカは、ジョーカス・アンジュール王太子殿下と共に。決して、私からはその手を離しません。この歪な世界で生涯殿下をお慕い致します』
『……ありがとう』
洒落た返答が思いつかずありきたりな言葉になってしまった。それでも彼女は、微笑み鈴の音のように笑うのだ。
――私との約束も頼みましたよ




