42 舞台は学園へ
「なんだい。まだ終ってないのかいッ!」
バシッバッシッ
洗い物をするために屈んでいるところに罵声と共にロープで繰り返し何度も叩かれる。
私は歯を食いしばって、その痛みに耐えながら手早く汚れた衣服をもみ洗いをしていく。
背中には叩かれ続けた痣ができて、腫れあがった箇所に血が滲んでいるのがわかる。
「早く終わらせるんだよッ!ほんとッ使えない子だよっ!!」
そういって女は去っていく。
もう感情なんてどこかに置いてきてしまった。
私は…ヒロインなのよ。あと一か月この生活に耐えるの。
そうしたらあの人たちが私を見つけてくれる。
それだけが私が今まで耐えてこれた「希望」
私はヒロイン。誰にも邪魔させないわ。
* * *
アンジュール国国王が親しい人のみに入室を許す客間。
隣国ジョルテクス王国第二王子アルドルト・ジョルテクスとこの国の王太子アルバート・アンジュールを国王ジョーカスが招き入れた。
「さて、ここに来てもらったのは、これからのことを話したい」
アルドルトとアンジュール国第一王女フィリティ・アンジュールの婚約が成立し、顔合わせと称して面会が行われたのはつい先程のこと。三人は一つの机を挟んで話を始めた。
フィリティは母ミシェルと共に貴賓室にて、これまでのことを掻い摘んで話している。いわゆる種明かしと言ったところだ。
「その前に予の…ことを少々話さねばならぬ。聞いてくれぬか?」
そう問うたジョーカスに二人は顔を見合わせ、神妙な面持ちで頷いた。
国王の秘密とやらがどんなことか二人は知らない。知るのは王妃ミシェルのみ。
「これから話すことは、ミシェルしか知らぬ。他言無用にて頼む。特にフィリティには言うわぬように」
娘のことをフィーの愛称で呼ぶジョーカスがあえてフィリティと呼んだことに二人のまなざしは、鋭くなる。
「ミシェルは前世の記憶がある。それは、お主らも知っておろう?」
アルバートとアルドルトは、頷く。
アルドルトは、母イネスにフィリティの素性について聞きに行った日、ミシェルには前世の記憶があり、そこからこの生活が始まったと告げられていた。
その時は、ただ自身が知らないだけでそういった人は世の中にいるのかもしれないと楽観視していた。
まさかこの後に語られる内容に驚愕することになるとは、露程にも思っていなかった。
「それと同様に予にも記憶がある。だがミシェルとは異なる。いわば転生者と言うものだろう」
言葉を聞いてアルバートは、息を呑み、隣に座るアルドルトは目を見開いていた。
二人の反応を交互に確認し、ジョーカスは続ける。
「続けるぞ。予は命尽きる時にジョーカスとして目覚めた。成長過程で見た予は、前世と同じ見た目だ。赤子の時に知性もあり、すでに予だった。その話はまた別の時にしよう。大事なのはそこではない」
「転生する前の世界で見たゲームという空想世界。この世で言うなれば本の物語の世界。それがこの今を生きる世界のことなのだ。…ここまではよいか?おぬしらにわかるか?」
端的に伝えたジョーカスは、現実離れした話に二人が困惑し、理解に苦しむと分かった上で整理する時間を設けた。重要なのはこの先に待っている。
最初に口を開いたのはアルドルトだ。ジョーカスを見据える瞳は落ち着いている。
「……ジョーカス陛下は、別の世界で生き、命尽きる直前にこの世界に転生した。そしてこの世界が以前の世界では本の中…ということ…でしょうか?」
「ちょっ!ちょっと待ってくれ父さんっ!母さんは、生まれ変わりで父さんは、転生?何が違うのですかっ!?」
(転生者ということには、疑問を持たぬのだな…)
「生まれ代わりであるミシェルは、容姿や性格が前世の彼女と全く異なる。して予は、見た目も性格もそのままということだ」
「………そんなことが…あるのですか?」
「予にもわからぬが、こうしてここにいる。それが確たる証拠と思うしかなかろうて。すまない。混乱しているところ悪いが、進める。肝心なのがその物語の内容なのだ」
「………」
アルバートは、混乱する頭を必死にフル回転している様子だった。
一方、アルドルトは、冷静にジョーカスの言葉を聞いている。
「これはアンジュール国王立学園で起こる出来事が書かれていた」
「「っ!!?」」
初めてアルドルトが反応した。先ほどまで真っすぐだった緑色の瞳が揺らぎ始める。
「ま…まさか……僕が呼ばれたのは…」
「そのまさか…で良いだろう。フィーが狙われている」
「ッ!!?」
アルドルトの背中に嫌な汗が流れた。
分かりやすくするために章を設けて分けたいと思います。
第一章と全く雰囲気が変わってしまうかもしれません。よろしくお願いいたします。




