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3 王妃ミシェル2


 目が覚めたら、私は公爵令嬢ミシェル・インディカだった。ミシェルとして過ごした七年の記憶と悠乃であった十八年の記憶が共有していた。


 あんなに《苦しい、暑い、身体が重い》症状は快方に向かい、長距離マラソンを走り終えたような心地の良い疲労感を感じるだけだった。


 不思議な体験をした。

 言葉にできない。説明できない。

 何より信じてくれる人はいるのだろうか?


 その不安が一番大きかった。

周囲には、一切口にせず、前世の悠乃の記憶は心の中だけで留めることにした。


 ミシェルは、悠乃の記憶を持ちながら公爵令嬢としての教育を受け、数年後王妃教育も網羅し、将来の王妃になるべく婚約を結ぶ。


日本での日本人としての悠乃の人生は、悠乃が思い描いていたものとは程遠かった。


じゃあ今は?

健康体であるミシェルだったら、あの時にできなかった生活ができる?とずーっと思っていた。


 庶民の生活スタイルに憧れはいつまでも消えない。いつの間にかどうしたら叶えられるのかを考える日々。公爵令嬢である自身が庶民と同じような生活を送るには…。


 そして、その時は来た。


 アンジュール国王太子である第一王子ジョーカスとの婚約が正式に決まるという日。


初めて前世の記憶があり、その時の生活が忘れられないと告げる決意をした。七歳のあの日から…記憶が戻ってからすでに九年の月日が経っていた。



 ジョーカスは、王族に相応しい金髪で、恐ろしいぐらい整った顔立ちをしている。前世でも人気俳優ぐらいの一握りの人間が許された容姿の持ち主。


 ジョーカスとの交流は、ミシェルが生まれた時から度々整えられていた。互いに良好な関係のように見え、婚姻話が浮上した。トントン拍子に進むかと思われた婚約は、蓋を開けてみるとさまざまな政治的な思惑と凶事が重なり、今日まで伸びてしまった。



 『正式に婚約するのであれば、悠乃のように平民の生活もしたい』


 婚姻するのであれば、絶対に譲れないとミシェルは、ジョーカスと二人きりの時に告げた。

 両親を通さず、国王であるジョーカスの父にも話していない。


『私にとって悠乃は、過去なのです。ですが、どうしてもあの生活には焦がれてしまうのです。殿下には…信じていただけないことであり、私の虚言とお思いかと…『……いや、信じよう』…っ!!!』


 ジョーカスは、《前世の記憶がある》と告げられ、驚愕の表情を浮かべた。それも一瞬のことですぐに真剣な面持ちで耳を傾ける。彼女の頭がおかしいと思う方が正しい。それなのに真摯に向き合う彼は、ミシェルの声に自身の言葉を被せ、全てを了承した。


 呆気にとられたのは、ミシェルの方だ。あまりにもあっさり『信じる』と言われ、驚きのあまり言葉を失ってしまった。信じてもらえる話ではない。それでも忘れられない、焦がれる想いを叶えるために覚悟を決めた。この縁談が破断となることもいとわずに。


『そなたの想いしかと受け止め、信じよう。』


『…本当に?』


『あぁ』


『…信じてくださるのですか?』


『あぁ、信じる。』


『…私自身…で…すら、おかしなことを言っていると…自覚しています……』


膝の上で握りしめていた両手に視線を落とす。己の不安と同調するように力が入っていたために拳は白くなっていた。その手を優しく温かなぬくもりが覆いかぶさる。ミシェルの手は、ジョーカスの大きな手に包まれた。


『……ジョーカス殿下…』


 蚊の鳴くようなかすれた声で呼んだ。


『そなた…ではないな。ミシェル嬢を私は信じる。約束しよう。……そして、私の秘密も打ち明けねばならぬ…』


 《…… ひ み つ?》


『……聞いてくれるか?ミシェル嬢よ。』



 * * *



 そんなこんなでミシェルの願いは聞き届けられ、この隣国との間で定期的に《平民》の暮らしを楽しんでいる。

 一国の王太子妃がまさか隣国との国境に暮らしているとは、誰も思わないでしょう。


 娘のフィリティも愛称のフィーもしくはフィーリを使い、この土地で定期的に暮らしている。

 家族間では、ここを《隠れ家》と呼んでいる。


 

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