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12 手編みのマフラー

閲覧ありがとうございます。

誤字報告ありがとうございます(T_T)

本日、長いです。お付き合いいただければと思います。



 昼食を食べ終え、一気に眠気が襲ってきたフィリティは、《ひみつきち》で二十分程度眠ることにした。


 貴族社会では、未婚の男女、特に婚約者のいない男女は、一つの部屋で二人きりで過ごすことは許されていない。何かあってからでは取り返しのつかない事態になることは言わずもがな。貴族にとって子は、自身の家の格を上位へ押し上げる為の駒であり、道具のひとつだ。だからといって子を蔑ろにしているかといえばそうではない。ちゃんと子への愛情はある。


 親にとっての利点を考慮し、送り出す側か迎える側か判断して婚姻を結ぶ。それが我が子にとって幸福だと、最上の喜びだと、信じて疑わない。そんな子どもは、洗脳に近い教育()を受けて結婚する。こうして貴族社会が出来上がってしまっている。


 ミシェルにとって、日本人の感覚は、過去のもので悠乃は映画やドラマの主人公を見るようなもの。そこに憧れが生まれ、習慣を真似てみたり、今世にはない子育ての仕方を選んできた。王侯貴族らしくはないが人に欠かせない“何か”が宿っている気がしてならなかった。おかげで趣味も広がり、こうして隠れ家生活を謳歌している。


 九歳の男女が一緒にいて…ましてや相手はアルールだとなれば、危惧する要素はないに等しい。

眠い目を擦りながら二階へあがるフィリティを心配そうに見つめるアルールにミシェルは声をかけた。


「アルくんが嫌じゃなければフィーリを連れて行ってあげて。あの子、あのままじゃ廊下で寝ちゃうわ」


「えっ…でも…」


 チラチラ挙動不審で台所にいるイネスを見る。イネスは視線に気づいて静かに…けれど力強く頷いた。イネスの許可が下り、スーッと立ち上がって小走りでフィリティを追うアルール。表情は真面目で、フィリティを心配する眼差しが強く、口を引き結んでいる。


ミシェルは、自身の前に置かれているティーカップを手に取り、瞳を閉じて一口飲んだ。


(さすがのアルくんでも同じ湯に浸かることは()()許さないけどね)



ギィ〜


扉の開く音がした。

しかし、パタンっと閉まる音はしなかった。きっと彼のことだから扉は開けたままにしたのだろう。


「真面目な子…」


 イネスがそうつぶやきながらミシェルの対面の席に移動し腰掛けた。目が合うと子供の性格を嘆くように笑った。



 * * *



 日が陰りはじめ、夕闇に染まり始めた頃。

 二階から物音が聞こえ、パタパタと足音がしたと思ったら、途端にバタバタと音が変わり廊下が騒がしくなる。階段を駆け下りてきたフィリティが開口一番に叫ぶ。


「ねっ、寝過ごしちゃった!!!ごめんなさーいっ!!」


その姿にミシェルとイネスは普段見せない前歯を見せて『あはははっ』と声をあげて笑う。

あ然と口を開けているフィリティが余計に二人の笑いを誘う。


「もうーフィーちゃん!あはははっあなたって子は。ふふふっ」


 《あーお腹が痛いお腹が痛いわ》


 腹部を抱えながら目尻に涙をためて笑う母親に未だ思考が停止したままの娘。後ろからアルールが静かに降りてきた。


「母さん…かまくらまだ行ける?」


冷静に聞いてくる声にやっと笑いが収まり、涙を拭いながらミシェルが答えた。


「スノーウェアを着てきなさい。ゆっくりで大丈夫だから」


言葉だけは耳に届いたらしいフィリティは呆けていた顔からパァと星が散りばむような輝きを持った笑顔に変わり、ミシェルに抱きついた。


「お母さんっ!!大好き!」


 寝癖で取れそうな髪留めを髪に撫でつけながら直して、愛娘を撫でた。こっそり“忘れ物しないように” 一言添えて。




 * * *



 辺りはどんどん暗さを増していく。

 皆でスノーウェアに着替えて家を出た。それぞれの手には、イネス特性スープが入った小型の魔法瓶を持っている。イネスは、双子の手を引いているのでイネスの分はミシェルが持っている。暗闇に染まりつつある庭に向かってイネスは、雪に解けていくような小さな声で唱えた。

 すると、足元からポッポッと明かりが灯り、道を作る。子どもたちが寝ている間に暇をしていた王城勤務の影たちにミシェルが指示を出し、いたるところにキャンドルを置いたのだ。


「わぁあ!きれい…」


「やっぱり夜の屋外は、キャンドルでほんわりした雰囲気がいいわね」


「二人が寝ている間にかまくら二つ追加したのよ。双子ちゃんたちはこっちね。中にお楽しみ玩具をいれてあるから楽しんでみて」


「「やったぁー」」


 パドリックとマルセルははしゃぎながらかまくらへ走る。


「じゃぁ二人とも。何かあったらあそこのかまくらに私たちいるから呼んで頂戴ね」


 フィリティとアルールを置いて、サッサと二人は、自分たちのかまくらへ行ってしまった。


「………いこうか?」


 フィリティの前にアルールの右手が差し出された。どうやらエスコートしてくれるらしい。その手を取るかフィリティが戸惑る。


「滑ったら危ないからね」


 目線で“どうぞ”と促され、右手に持っていたプレゼント入りの袋を後ろで左手に持ち替えて、アルールの手を取った。手をつなぐことはあるけれど、こういった()()()()()じみた行動は今回が初めてだった。普段と異なる景色に加えアルールの雰囲気にフィリティは、プレゼントを渡す緊張が増してしまった。


(いつも通りよ。いつも通りにさっと渡せばいいのよ)



 * * *



 かまくらの中に入ると飛び切り大きいキャンドルがドーーーンっとこたつの中央に置いてあった。外はあんなにも幻想的な雰囲気を醸し出していたのに、この(ギャップ)が可笑しくてフィリティとアルールは苦笑した。

 キャンドルをこたつから下ろし、出入口付近に置いた。大きいがために存在感が強すぎる。なぜ母がこのようなキャンドルを用意したのかは、母にしかわからない事だろうとフィリティは察した。

二人は、対面でこたつに入る。


(あっ掘りごたつだ。お母さま凄いわ)


思っていたことがアルールに伝わったのか感服した様子で話しかけてきた。


「凄いね。椅子みたい。今まで気づかなかったけどおばさんって魔法の使い方が凄い。なんていうのかな…魔法使いの度が超えているっていうか。話をするみたいに自然と使うよね」


「そうかな?私にはわからないわ(これが当たり前だと思っていたから。私、魔法使えないのだから比較できないのよね)」


「僕は、おばさんに魔法を教えてもらったら楽しいだろうなって思う。王立学園の先生だったらいいのになぁ」


「えー、お母さん…ですよ?間違って学校爆破とかさせそうな気がするわ。その上でごめ~んって全く反省の色のない謝罪をしてそうで恐ろしいわ」


 フィリティは、後ろで煙がもくもくと上がる校舎を背景に天真爛漫な母の姿を想像し眉をひそめ、身震いした。アルールはその表情に思わず笑い、怖がりすぎだよと笑った。


 話題はとんでもなくカオスな内容だったが、場が和んだと思ったフィリティは、一度、イネス特性スープの入った魔法瓶に口をつけて、緊張で乾いた喉を潤わせた。プレゼントの袋に手をかけて、こたつ机の上に置き、そのままアルールの方へ袋を滑らせる。


「んん?なぁに?」


 アルールは、先ほどの思案するような笑顔をそのままに不思議そうに袋を見つめ、フィリティからの返事を待つ。


「……プレゼント…誕生日の…」


 恥じらいながらぼそりとつぶやいたフィリティの言葉がアルールの耳に届いた。微笑んでいたのに今は、ポカンと口を開けている。


「僕の?」


 フィリティは、首だけ動かしてコクンと頷いた。肯定した途端にアルールからこぼれんばかりの笑みが浮かぶ。ゆっくりと右手をこたつから出し、袋を掴むと、カサッと静かなかまくらに音が生まれた。

その音に同調するようにフィリティの心臓の鼓動は早くなる。ドッドッドッドうるさい。


 中を覗くと、青いガーゼのような不織布袋を緑色のりぼんで結ばれていた。その中にプレゼントが入っていて、中身はリボンを解かなければわからない。


「あけていい?」


「…ん」


フィリティは、緊張で俯き、言葉にならない。

シュルシュルとリボンを解く音がやけに大きく聞こえる。しばらく俯いていたが、音がしなくなったのを合図に顔をあげた。フィリティの瞳に映ったのは、喜びを抑えきれずに破顔するアルールだった。


「っ!!あっ!おっ、お誕生日おめでとう。遅くなったけど」


 つっかえながら勢いのままに声に想いを乗せる。


「ありがとう。大切にするから」


 整った顔の人が喜びを溢れまくり破顔する姿は、まぶしすぎる。【かまくら】という特別な空間では効力が倍増し、キラキラと神がかったオーラが見える光景だった。


 気に入らなかったらどうしよう。

 いらないっていわれたらどうしよう。

 他のものがよかった…など悪い方向ばかり考えながら差出したフィリティは、盛大に息を吐いて緊張から解き放たれた。


 その様子にあざ笑う事なく、自分のために思ってくれていたのだと実感したアルールは、目を細めて穏やかにフィリティを見つめる。内心、歓喜でこおどりしていた。


「ごめんね。すぐに渡せなくて…ここだとあんまり出番がないかなって思って…」


「とても嬉しいよ。ありがとうっ!使うのがもったいないぐらい。本当に嬉しい」


(僕だけを想って僕のために作ってくれたんでしょう。嬉しい嬉しすぎて…ああどうしようかな)



それからアルールは、質問をした。

どうやって編んだの?

ここはどうやったの?

なんでマフラーにしたの?

言葉の雨は、途切れることはなく続いた。



(そうだっ!僕がフィリティに気持ちを伝えるときが来たらかまくらでしようかな。あぁ、でも季節行事みたいだし特別感がないなぁ…)


質問に恥じらいながら答える彼女を眺めながら、頭の中で思いついた最高だと思う構図を思案するアルールだった。







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