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11 ご褒美



かまくら完成予定地をぐるりと囲むように積雪が低くなり、徐々に雪を集める範囲が広がったかと思えば、アリの巣のような別れ道が出来ていた。


「アルッ!そっちの雪持ってきて」


「そっちって?あぁここら辺かな?」


「あー違う違う!いつも私が登る木のあたり」


「――こっちか。フィーリ、ここの雪ほかと違って柔らかいよ」


「きっと、木下だから陰になっていて溶けなかったのかもね!」


 おいでおいでと、右手首を上下させてアルールが呼んでいる。引き寄せられるようにふたりの距離が縮まり、あと数歩でたどり着くと思ったところから雪のザクザクした音がシャリシャリと変わる。


「わぁあ!本当だわっ!ザクザクしないね!!」


 シャリザクッシャリザクッ


 柔らかい雪と表面が溶けて硬くなった雪を交互に踏みながら、ふふっと楽しそうに笑う。


 雪集めを始めて二時間がすぎ、やっと高さ二メートルの雪山が完成した。途中、ミシェルとイネスで補強し、強度を調べ魔法で適度に水をまいて固めた。


『もうちょっと固くしたいわね』 『ん~、そっちはいいからあっちに雪を持って行って』と、指示を飛ばしてなんとか完成した。


 あとは、中を掘っていくだけ。その中を掘る作業が集めて固めるよりも慎重かつ繊細な作業だった。ミシェルが入口を決めかねている間に周りから人の元気がなくなっていることに気づいた。

 双子は、開始早々に飽きてしまい、かまくら予定地を避けて雪合戦をしていた。その後、疲れてしまい室内へ戻ってしまった。フィリティも体力の限界を感じて、へたり込んでいる。


 その様子を見ていたミシェルは、「じゃっ!あとは私がやっちゃおうかしら?」と周りの同意を求めた。即座に返事をしたのは、フィリティでアルールは、まだ余裕そうだったがフィリティ優先の彼は、フィリティに賛同した。イネスは、その甘すぎる判断に苦笑するしかなかった。


 魔法を行使すると三分も経たずに【かまくら】が無事に完成した。


魔法陣が雪山の下に入り込むように展開され、雪山から徐々に空洞が広がり、中の雪が徐々に消えていく。消えるときに空気中に舞った雪が魔法陣から発せられる七色の光によってキラキラと光る。その過程は、いつ見ても美しく幻想的でフィリティの楽しみだ。


 七色の光が反射して、その場にいた人やモノも一面の銀世界も七色に染まる。フィリティも例外ではなく七色がスノーウェアの蛍光色と合わさる。魔法が使える憧れと目の前の光景に魅了された瞳は、シャボン玉のよう。


(いつか私もお母さまみたいに魔法が使えるようになるかしら)


 この世界では、十七歳までに魔法と縁を繋げられなければ、そのうちのほぼ大多数が一生魔法が使えない。まれに遅咲きの者も現れるがそう滅多にいない。その分、魔道具の発展を遂げており、魔法の有無で左右される世界ではない。こういう特技があったら良いなぐらいの感覚だ。フィリティは、未だ魔法は使えない。知識として妃教育で学んでいるが父ジョーカスに王立学園入学まで禁止されている。ジョーカスは明確に禁止とする理由があるのだが、フィリティは()()()()()()だろうと思っている。


 徐々に光が収まり、やがて消える。


「こんなもんかな」


 光の中から現れた【かまくら】は、例年とは少しばかり違っていた。


「…あれ?お母さん?なんかいつもと違う?」


そう一番に指摘したのは、フィリティでアルールとイネスは、小首をかしげていてまだ気づいていない様子。


「あッ!わかる?さすがフィーちゃん!!今年はちょっと変えてみましたぁ~。頑張ったあなたたちへのご褒美です」


 悪戯を思いついた子供のようにウィンクするミシェル。かまくらの中には、布にくるまれた机【こたつ】があった。冬の隠れ家にしか登場しないこたつ。


「せっかく二人で頑張ったんだから、少し長く入れるように」


そう口にするとミシェルは、フィリティに顔を近づけて耳打ちする。


「プレゼント持ってきたんでしょう?まだ渡してなかったわよね?せっかくだからかまくらで渡したら、喜ぶと思うなぁ」


「ッ!!お母さんありがとう」


 小さい声でヒソヒソと話をしている親子を不思議そうにアルールが眺めている。横にいたイネスに顔を向け、《あれ何?》と目だけで訴える。《さぁ?》と肩をすくめながら無言でイネスは返答をした。


 そう。少し前に冬生まれのアルールが九歳になった。誕生日プレゼントを用意していたフィリティは、未だなかなか渡せずに今日を迎えていた。


 秋のフィリティの誕生日にアルールからリボンを受け取っていた。

 アルールは長くなってきたフィリティの髪にちょうどいいと選んだ。残念ながら、その思いはフィリティには届くことはなかった。先日、父ジョーカスが鍛冶師に特注していたフィリティ専用のレイピアが出来上がり、リボンはなぜか、そこに巻かれてしまった。その事実をアルールは知らない。

フィリティは、そのお返しにと今年は手編みのマフラーを編んできた。


(お母さまにご相談したら、寒いから寒さが和らぐものにしたら?って…)


その助言もむなしく、外に出るときは、スノーウェアで遊びに行くことが多かった。そのことをここに到着してから思い出し、寒さに震えることもなく、渡せないでいた。


「まずは、お昼ごはんを食べましょうっ!!」


 イネスが子供たちに呼びかける。アルールから家の中に招かれてお昼をごちそうになった。

その間、フィリティは渡すタイミングを考え、ミシェルはせっせと、先ほどとは別に、二つのかまくらを作っていた。

一つは、双子用。もう一つは、母親用。


(プレゼントを渡す瞬間を逃すなんて失態は私の辞書にないわ)




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