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10 雪

 


 九歳の冬。

アンジュール国の冬は雪が降る。

王都では積もるほどの雪はなかなか降らないが隠れ家の国境沿いには毎年、五十センチ程度の雪が積もる。一面銀世界となり、隠れ家に入るとき誰も踏んでない雪の上に足跡を残す。

この気持ちよさを知ってしまったら寒い冬も楽しくなる。


 フィリティとミシェルは、真冬の寒さもしのぐことが出来るスノーウェアで身を包み、アルールの家の前にいた。

スノーウェアとは、日本でいうスキーウェアのこと。フィリティは蛍光色のピンクにミシェルは水色。

雪は、深いところで腰ほどまで積もっている。ここまでフィリティは、ソリに乗りミシェルの風魔法でスイスイと滑ってきた。

二人は、アルールの家の周りに積もった雪を見ながら“あそこは?” “こっちのほうが?”と何やら真剣な表情で話をしている。


そこへ玄関の扉がカランコロンと音を鳴らし、アルールとイネス、そして双子のパトリックとマルセルが家から出てきた。

もちろん、四人もスノーウェアを着ている。アルールは緑色、イネスは赤色でパトリックは蛍光色のオレンジ、マルセルは黄色だ。銀世界では見ないカラフルな色に身を包んでいた。


「アルッ!おはよう!!」


「おはよう。フィーリ」


 元気よく挨拶をするフィリティに対し、穏やかな声で微笑みならが挨拶をするアルール。恋心があるとないとでは、こんなにも声色に出るのもなのかと、後ろイネスがミシェルと目を合わせて笑っている。


「おばさんもおはようございます。今日もよろしくお願いします」


「えぇ、アルくんよろしくね。もうこの季節がきたんだって思うわねぇイネス」


「時は早いものね。今年からパトリックとマルセルにも参加させようと思って。もう七歳だから体力がありすぎて困るのよ」


「ふふ。いい機会だと思うわ」


「ねぇ!お母さん早く作りましょ!!」


「まぁ!フィーちゃんったら。ふふっ」


「今年は僕たちも主力として頑張ります」


「いいわね!じゃぁ今年はできるだけ手作業でつくりましょう!!準備はいい?えいえい…」


「「「「「おーーーー!!」」」」」



 冬の隠れ家の楽しみ【かまくら】づくりがはじまった。

 【かまくら】を作るのが日本の冬の醍醐味とミシェルは言う。毎年雪が深くなった時期を目安に魔法も使って【かまくら】づくりをしている。


 雪深くなるのは、アルの誕生日を過ぎた頃が多い。アルは毎年自身の誕生日に雪が降れと窓の外に向かってお願いをしていた。【かまくら】は子供たちにとって楽しみにしているものだった。


 初めて作った日、フィリティは『ゆきのどうくとぅがあるっ!』と、隠れ家の庭先で薄着のまま飛び跳ねるほど大興奮した。まだスノーウェアほどまでの防寒着を着ていなかったので、眺めるのがメインだった。翌年からスノーウェアを用意し、こうしてかまくらの中も楽しむことが出来るようになった。


今まで魔法を主力として使い、ほとんど手伝いが出来なかったフィリティとアルールだった。

九歳になり、スコップなどの使い方も上手になってきたので主力として作る側に決まったのはつい先日のこと。本人たちがあまりにも懇願する様子にミシェルは悩んだ。


『そうねぇ、もう小学三年生ぐらいだからいけるかしら』


ひとりぶつぶつ呟き、七割ぐらいは手づくりで進めようと決めたようだ。

表には出さないがアルールも人一倍張り切っている。なぜなら《ひみつきち》は自分たちの手で作ることが叶わなかったから。


「とにかく雪を集めてくるのよ~」


「「「「はーい!」」」」


四方からそれぞれに声が聞こえてくる。


(ふふ。魔法なら十分かからないけれど、これはかなり時間がかかりそうね。おやつの時間にはできてるといいのだけれど)


子供たちが雪だるまを作っているんじゃないかと錯覚するような雪の集め方に目を細めた。


* * *


(冬だというのに暑いわ!)


 開始三十分が過ぎた頃、フィリティの背骨をなぞるように汗がタラ~と流れる。ふぅ~っと雪の塊を押しながら、首元に巻いたタオルで額の汗をぬぐい、息をつく。

 奥からザクザクと近づいてくる足音に振り返る。とても爽やかな笑顔で汗一つ掻かずに雪を運んでいるアルールがいた。


「アル…な、なんか…元気だね?(なんでこんなに…違うの?)」


「ん?あぁ、たぶん剣の稽古が利いてるんじゃないかなぁ」


(いや…私も鍛錬しているのだけれど…ナイショだから言えない…ってことは…えっ!?そんなに鍛え方が違うの?)


 颯爽と追いぬいて行ったアルールをぽかーんと呆けた顔で見るしかできなかった。

アルールは、ジョルテクス王国で国一番の凄腕と言われ、国内では知らない人はいないだろうとも(ささや)かれている騎士団団長直々の稽古を五年続けている。


一方、溺愛の妹に怪我なんてさせられないと過保護な兄が鍛錬の相手であるフィリティは、アルールの足元にも及ばない。


(やっぱりお兄さまよりも騎士団…)


フィリティはこの差を重く受け止めて、今後の剣術指導を兄から騎士団へ変更してもらうように父に掛け合おうと本気で考えた。そんな心中は、アルールにも届くわけもなくササっと雪を集めている。


(かまくらが出来たら…フィーリと二人きりになれたら…いいなぁ)




玄関がカランコロンと音を鳴らすのは、双子が勝手に家を出てもわかるようにと対策をした結果です。

一人より二人ではできる事や範囲が異なるためイネスも四苦八苦しながら子育てしています。



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