王都シャンデラ
オストンで一泊した翌日、ヴァイオレットは予定通り王都シャンデラを目指した
昨日話した老人が言うにはグレディス魔法学校の入学試験は毎年日程が決まっていてちょうど一週間後にあるらしい
ここから王都までの距離は馬車を使って一週間程の距離、試験を受ける為の手続きもまだなので普通に移動していたら絶対に間に合わない
だが魔法を使えばその問題は簡単に解決できる
『馬車で移動してたら体が鈍っちゃうから王都までは自分の足でいけってお父さんが言ってたからね。試験前の準備運動だと思えばちょうどいいや』
ヴァイオレットは準備運動を済ませると体内の魔力を脚に集中させる
こうすることで敏捷性が一時的に飛躍的に上昇する
当然使用中は魔力を消費するが、今のヴァイオレットの魔力量であれば丸一日は使用可能なので馬車を使うよりもよっぽど早く王都に到着できるというわけだ
『よーしいっくぞー!』
ヴァイオレットが地面を強く蹴ると周囲に砂塵が巻き起こる
先程までいた場所から一蹴りで十数メートル先へと移動、周りから見たら走っているというよりも飛んでいるかのように錯覚するだろう
それからヴァイオレットは食事と睡眠の時以外はひたすら走り続けた
途中魔物と出くわすこともあったが、暮らしていた森の魔物達と比べるとどれも大したことはなかったので道を阻んでくる相手だけを処理していった
そうして馬車で一週間かかるとされている道のりをヴァイオレットは僅か二日で踏破、無事王都シャンデラに到着した
『ふぅ、思ったより早く着いたなぁ。ここが王都シャンデラ……この前の町とは比べ物にならない位おっきいなぁ。きっと人もたくさんいるんだろうなぁ。あっ!あのお城!昔お母さんに読んでもらった絵本に出てきたお城みたい!あそこにこの国の王様がいるんだよね』
王都を色々と見て回りたい気持ちもあったがまずは手続きを済ませる方が先、観光はその後だ
大きな門の前には何やら並んで待っている人間とその列の対応をしている人間がいたが、ヴァイオレットは構わず王都の中へと入ろうとする
すると突然鎧を着た男性が怒声を浴びせてきた
『おい貴様!何をやってる!』
『わっ!え、私?何か悪い事したかな?』
『貴様税を払わずにこの王都に入ろうとしたな。税を払わずに入った場合は牢獄行きだぞ』
『ぜ、税……?ってよく分からないけどお金を払わないといけないってことだよね。払います払います!』
『だったらこの列に並んで大人しく順番を待っていろ』
どうやら中に入るにはお金を払わなくてはいけないようだ
オストンではそのようなものは必要がなかったので完全に油断していた
王都に入る為の列はかなり長く、待っているだけで日が暮れそうだった
『次、お前の番だ。銀貨二枚』
『やっと入れる……。あっ、そうだ。ねぇねぇ私グレディス魔法学校の入学試験を受けに来たんだけど手続きみたいなのってどこですればいいのかな?』
『は?』
ヴァイオレットの言葉を聞いた鎧の男性は不思議そうな表情で見てくる
もしかしたら発音がはっきりとせず上手く伝わらなかったのかと思い再度問いかけた
『私魔法学校の入学試験の手続きをしたいの』
『いや聞こえてはいたぞ。そうか、お前試験を受けに来たんだな』
『そうなの、手続きがまだだから場所知ってたら教えてほしいなって』
『受付ならもう終了したぞ』
『え?』
『昨日が受付の締め切り日だったんだよ。残念だがまた来年受けるこったな』
『なんですと……』
男の口から告げられた突然の悲報
ヴァイオレットはそれが真実であると受け止められず受付をしていた場所を教えてもらい直接確認をしに行った
しかし残念ながら男の言っていたことは本当でそこにいた係の者にどうにか手続き出来ないかと懇願したが、当然そんな行為が許されるはずもなくヴァイオレットは項垂れるしかなかった
『うぅ……これからどうしよう。試験は一年に一回しかないっていうしここで来年まで生活するしかないのかな?一回お父さん達のところに帰る?……ううん、それは絶対ダメ』
ようやく踏み出した一歩なのにここで戻ってしまったらあまりにも格好がつかない
イグニス達から貰ったお金にはまだ余裕がある。だがこれで一年持つのかどうかまでは分からない
そこで人間は働いてお金を稼がないと生きていけないと以前バシリッサから聞いた言葉を思い出し、この王都で働く場所を探すしかないと考えた
だが働いたことがない自分に一体どんな仕事が合っているのか見当もつかない
どうするべきかと頭を悩ませていると、自分と同じ様に思い悩んでいそうな男性が目の前を通過した
『ちくしょう……まずいことになったなぁ』
『おじさんどうかしたの?』
『なんだお前さん?俺は今取り込み中で構っている暇はない。あと俺はおじさんではなくお兄さんだ』
『なんか困っている様に見えたから私でよければ手伝おうっか?』
『は?なんでたまたま通りがかっただけの俺なんかを手助けしようとするんだよ』
『だって困ってそうな人がいたら助けてあげなさいってお母さんが言ってたから』
ヴァイオレットの言葉に男は暫く考える素振りを見せると少しして答えが返ってきた
『まぁ今は猫の手も借りたい状況だしいないよりはマシか……ついてこい』
『はーい』
よく知らない男にはついて行くなとイグニスから厳しく言われていたが、それよりも困ってる人を助けたいという気持ちが勝ったヴァイオレットは男を手伝う方を選びあとをついていった
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