初めての街
イグニス達の元を旅立ったヴァイオレットはまず一番近い街であるオストンにやってきた
人の街に足を踏み入れるのはこれが生まれて初めてのこと
街に入る前に一度深呼吸をしておいた
『スー……ハー……。よし、お母さんと会話の練習はしたし大丈夫大丈夫』
バシリッサとの特訓の日々を思い出しヴァイオレットはいざ街の中へ
街の中を歩いていると行き交う人々の声とお客を呼び込もうとする活気ある声が飛んでくる
森の中でずっと暮らしていたヴァイオレットにとっては体験したことのない空間だった
『人の街って毎日こんな賑やかなのかなぁ。ん?スンスン……はぁ~なんだかいい匂いがする』
どこからともなく漂ってくる香ばしい匂いにヴァイオレットはまんまと釣られる
匂いのする方に向かって歩いていくと、そこでは大好物である肉が焼かれていた
普段自分で肉を焼いていた時とは全く違う香り、ヴァイオレットは気づいたらその匂いの虜になってしまっていた
するとそのお店の店員がヴァイオレットに話しかけてきた
『良かったら味見していくかい?端の肉だけど美味しいよ』
『あっ、え、えと……オネガイシマス』
初めての会話にカタコトになりながらも女性から皿に一切れの肉を貰いそれを口の中に運ぶ
口に入れた瞬間、ヴァイオレットはそのあまりの美味しさに衝撃を受けた
『何これ!?甘さとしょっぱさがいい感じに合わさってて凄く美味しい!』
『そ、そうかい?普通の味付けだと思うんだけどね。そんなに喜んでもらえるなんて嬉しいね』
『すみませんこの串焼きを二十本下さい!』
『に、二十?そんなに食べられるかい?』
『大丈夫です!こう見えて大食いですので!』
『ふふふっ、面白いお嬢ちゃんだね。じゃあ串焼き二十本で銀貨五枚だよ』
初めて食べる味に感動したヴァイオレットは串焼きを大量に購入
練習した通りお金もしっかりと渡してから店をあとにした
『人の街にはこんな美味しい物が売ってるんだなぁ♪お話もお買い物もちゃんと出来たし順調順調!とりあえず食べながら部屋を借りれる宿っていう場所でも探そうっと』
せっかく初めて来た人の街、ただ目的地を目指すだけではつまらないのでヴァイオレットはぶらぶらと街を見て回り、その道中で見つけた宿を利用した
部屋は簡素で至って普通だったがヴァイオレットにとってはどれも新鮮であった
特にベッド。今までは枯草を積みその上で眠っていたので初めて見るふかふかのベッドを暫く堪能した
『ふぅー、最初はちょっと不安だったけど思ったよりなんとかなりそう』
好調な出だしに満足しているとお腹が空腹を訴えてくる
先程買った串焼きだけではヴァイオレットのお腹は満たせていなかった
この宿の一階では食事も提供しているようだったので、そこで食事を摂りながら今後の予定を練ることにした
街を散策している時に本屋で見つけ購入したこの国の地図を広げる
詳細な地理は国が管理しているらしくこれは簡易版とのことだが、大まかな場所が分かれば十分である
『えっと今いるオストンがここで私が入ろうとしている学校はこの王都シャンデラっていう場所にあるんだよね。学校の名前は……あれ、お母さんから聞いたんだけどなんだったか忘れちゃったな。なんだっけ?んー……』
『グレディス魔法学校』
『あっ!そうだ思い出したグレディス魔法学校!……って誰?』
ヴァイオレットの横から学校の名を告げてきたのは見知らぬ老人だった
『ほっほ、すまんのお嬢さん。後ろで唸っているのが聞こえてきたからつい口を出してしまった』
『あっ、うるさかったよね。ごめんねおじいさん』
『いいんじゃよ。しかしグレディス魔法学校を受けるか……あそこに入るのは中々大変じゃぞー』
『えっそうなの?』
『毎年千人以上の受験者が集まるが合格者は大体一クラス分で数十人程度だとか』
『そうなんだ、私そんな事全然知らなくて……大丈夫かなぁ』
『おっとすまんかったの、今から受けようとするお嬢さんにする話ではなかったな。お詫びと言ってはなんだが受験内容を教えよう』
『本当!』
老人は若かりし頃一度グレディス魔法学校を受験した経験があるらしい
結果は散々なものだったようだが、受験内容は今でも変わっていないらしく覚えているのだとか
グレディス魔法学校の入学試験は筆記と実技に分かれており、その合計点で合否が決まる
体を動かすのは得意だが如何せん頭を使うのが苦手なヴァイオレットは碌に勉強もしていないし入学は絶望的かと落ち込んだが、老人の話には続きがあった
『これはあくまで噂なんじゃが、筆記がダメでも実技で挽回できる方法があるんじゃとか。グレディス魔法学校は実技の方に重きを置いているようじゃからな』
『えっと、つまり実技だけでもなんとかなる……ってこと?』
『噂じゃがな、ちなみにその方法なんじゃがの。ゴニョゴニョ……』
『ふむふむ……なるほど。それならどうにかなるかも。ありがとうおじいさん!』
『何度も言うが噂じゃからあまりアテにせんでくれな。お嬢さんが魔法学校に合格する事を祈っておるよ』
一時は魔法学校の入学を諦めるしかないかと思ったが、老人から聞いた方法に一縷の望みをかけてヴァイオレットは王都シャンデラへと向かった
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