竜皇女
エリザが国王になったことを祝う祭りが終わり、ヴァイオレット達が自国に帰る日がやってきた
門までの道にはヴァイオレット達を見送る者達が並んでいた
エリザはというと結局昨日貴族との付き合いで夜遅くまで起きていたそうなのできっと今は寝ていることだろう
『思ったより人がたくさんいるね』
『ルージュ達のマスコット効果が意外とあったのかもよ。露店でルージュ達の人形も売られてたってミーシャちゃんから聞いたよ』
『あっ、本当だ。人形持ってる人いる』
『喜んでいいのか複雑なところだな』
ルージュ達の人形は思いの外売れていたようで結構な人が人形を持っていた
これだけ売れるのならばガルディアス達の人形も作って売ればいい商売になるかもしれない
そんな事を考えていると、気づけばもう門のところまで来てしまっていた
この門を潜れば魔動車が待機しており、それに乗れば王都はあっという間に見えなくなるだろう
『色々ありがとうねシャルル。お世話になりました』
『いえ、またお会いできるのを楽しみにしています。ヴァイオレットさん……いえ竜皇女様』
『うん。……って竜皇女?なにそれ?』
『実は巡回している兵の方々から聞いたのですがここに滞在中、ヴァイオレットさんは国民から竜皇女様と呼ばれているそうですよ』
どうやらヴァイオレット達の知らないところでいつの間にかそんな呼び名がつけられていたようだ
竜の国の王であるイグニスの娘であるヴァイオレット、それで竜皇女
誰がそう呼び始めたのかは知らないが、少なくとも蔑称として呼ばれているわけではなさそうだ
『ヴァイオレットは王様なんだからもっと別の呼び名の方がいいんじゃない?』
『竜皇女……竜皇女か。うん、いいんじゃないかな。そっちの方が皆に浸透しそうだしその呼び名を受け入れるよ』
『ヴァイオレットがそう言うならいいけどさ』
竜皇女という名で人々の為に善行を積めばイグニスの印象も多少は良くなるかもしれない
次に来る時はその名で呼ばれ歓迎されるように努力するとしよう
『それじゃあ帰ろうか』
『そうね』
荷物を積み終え魔動車に乗り込み王都を発つ
走り出すと王都はみるみると小さくなっていった
次に王都に来れるのは来年か再来年か、はたまた数年後か
エリザにはちゃんと挨拶できなかったが、これから忙しくなるだろうし気がついたらまたすぐ会えるだろう
帰ったら今回得た知識を皆に教えてあげよう
帰国した後の事を考えていると、突如王都の方で花火が打ち上げられる音が聞こえてきた
『うわっ!びっくりした。なに?』
陽が高いうちに花火を打ち上げるなんて何事かと王都に目を凝らしてみると、城壁の上でこちらに向かって手を振っている人がいた
それは別れの挨拶をすることができなかったエリザの姿だった
『ヴァイオレットさん!またいつか皆でお話しながら食事をしましょう!それまで私頑張ってもっとこの国を良くしますから!』
『エリザちゃん……またね!絶対また来るから!』
拡声の魔道具でヴァイオレットに向けて別れを告げるエリザ
ヴァイオレットは自分の声が届かないと分かっていながらも精一杯の声を上げて応えた
離れていても想いは一緒。次に会う時までにエリザにたくさん話ができるよう頑張ろう
そう心に秘めてヴァイオレット達は帰路へとついた
それからというものクレイス王国に獣王国、カラミティは互いが手を取り国を繁栄させていき、長きに渡り平和を維持する為に尽力した
『どうやらヴァイオレットは上手くやっているようね』
『当然だ。吾輩が育てたのだからな』
『なら貴方も娘が胸を張って自慢できるようにもっと頑張らないといけないわね』
『ふん、一々五月蝿い奴だ。言われなくともやってやる。吾輩は竜皇女と呼ばれた娘の父なのだからな』
拙い文章にも関わらず読んで頂きありがとうございました!