次こそは
イグニスが王都を去った頃、王都よりずっと先にある誰も人が寄りつかない洞窟で怒りを露わにする声が聞こえてきた
『クソッ、まさかあの化物まで来るなんて誰が予想できるんじゃ』
悔しげな表情をしながら辺りの物に八つ当たりしているのはヴァイオレット達によって多くの複製体を失い、最後の置き土産として放った極大魔法で王都を潰す企てもイグニスによって台無しになってしまったミュゼルである
だがそこにいたのはヴァイオレット達が目にしていた幼い見た目をしたミュゼルではなく年老いた老婆だった
本体であるミュゼルはとうに百を超えていて、誰もが知るミュゼルとは似ても似つかない姿をしていた
『妾がここまでくるのにどれだけ年月をかけたと思うとるんじゃ。それを一瞬でパーにしてくれおって……奴を駒にしようと考えたのがそもそもの間違えじゃったか。じゃが今度こそ王都を血に染めてやる』
ミュゼルがここまで王都に拘るのには理由があった
それはまだミュゼルが複製体と同じくらいの年齢の頃、今クレイス王国と呼ばれている場所の他にも国が存在していた時代にまで遡る
ミュゼルはとある小国の王女として生まれ平和に暮らしていた
しかしその平和は突如攻めてきた王国の人間達によって終わりを告げた
包囲されたことで逃げ場を失い国民だけでなく家族まで殺され唯一生き残ったのがミュゼルだけで、王族だけが知る隠し通路から両親に半ば無理矢理外へ逃がしてもらったのだ
つい先程まで皆で笑って過ごしていた場所が炎に飲まれていくのを見て、ミュゼルは幼くして王国に復讐することを誓った
文字通り泥を啜りながら一人生きてきたミュゼルは、自身に魔法の才があることを知りあらゆる手を使って力を手に入れようとした
しかしその野望を叶えるには時間があまりにも足りないと悟ったミュゼルは、寿命を延ばす魔法を編み出すことに注力しそれを完成させた
複製体を作る方法も編み出し、ラストピースとしてヴァイオレットを手に入れて複製体の素体にしようとしていたが、最後に欲をかいたせいで失敗に終わってしまった
『今回で大分情報は手に入れることができた。今度はもっと早くより強い複製体を生み出せるじゃろう。そうと決まれば早速取り掛かるとするのかの』
そう言うとミュゼルは楽し気に複製体の製作に取り掛かり始めた
始めは復讐の為に動いていたミュゼル
しかし長く生きすぎたのと己の身体を使って様々な魔法の実験をしたせいか昔の記憶を殆ど覚えておらず、ミュゼルは復讐の事を忘れ今は漠然と王都を滅ぼすという目的だけが残ってしまっていた
『五年……いや三年以内には今回の何倍の もの数の複製体で王都を襲ってやろう』
『お邪魔するわよ』
本来の目的も忘れミュゼルが複製体の製作に張り切っていると、それを制止する人物が現れた