王都に災厄
王都の国民達が阿鼻叫喚と化している中、ヴァイオレットは近づいてくるイグニスに向かって手を振った
『おとうさーん』
『ヴァイオレットか、どうやら無事だったようだな』
『まさかお父さん達が来てくれるなんて思わなかったよ。来て大丈夫だったの?』
『はて、なんのことだ?吾輩はただこ奴らを侍らせて散歩をしていたところ、ちょうどお前がピンチなところに出くわしたから親として助けただけだ』
あくまで助けに来たのではなくたまたま通りかかったという体で押し通そうとしているようだ
ドラグニルがこれを許したとは思えない……恐らく無理矢理ここまで来たのだろう
だがそのお陰で王都の人達を助けることができたのだからとここで言及することはしなかった
ヴァイオレットとイグニスが仲良く話している一方、それを見ていた王都の人間は目を丸くしていた
『なんだあの女……災厄の竜と親しげに話してるぞ』
『というかさっきお父さんって呼んでなかったか……?』
気になりはしつつも誰もその場から動くことができなかった
少しでも変な動きをして機嫌を損ねてしまったら何をされるか分からない
イグニスを知らない者達はこうして対峙しているのが精一杯だった
『そんな事よりヴァイオレット、問題は解決できたのか?』
『うん、なんとかなりそう』
『そうか、ならば吾輩達は帰るとするか』
『えっ、もう帰っちゃうの?』
『言っただろうただ散歩していただけだと。長居していたら』
『そっか、それじゃあ色々と一段落ついたらまた会いに……』
『待て!そこの大トカゲ!』
やる事を済ませ帰ろうとするイグニスにヴァイオレットが別れを告げようとしていると、瓦礫が転がっている方からこちらを呼び止める声が聞こえてきた
その主は先程ヴァイオレットが吹き飛ばしたユリウスだった
誰も割って入ることができなかった空間にユリウスは瓦礫をどかしながらズカズカとやってくる
それを見ていた者達の顔は全員青ざめていた
『そこの大罪人と人の言葉で話しているのは聞いていたぞ。なんとか言ったらどうなんだそこの大トカゲ』
『おい小僧、トカゲとはまさか吾輩のことを言っているのか』
『他に誰がいる。図体ばかり大きくて頭の方は並のトカゲと変わらないようだな』
イグニスを前に全く物怖じしないユリウス
普段であれば勇猛に感じるかもしれないが、今回はそういう次元の相手ではない
ユリウスの会話を聞いていた者はこの瞬間終わったと感じた
『……昔の吾輩であれば問答無用でここを火の海にしてやったが吾輩も成長したからな。今すぐ頭を地につけて謝れば先程の発言は許してやる』
『俺はこの国の王子だ。貴様なんかに下げる頭なんてあるか』
『そうか、では死ね』