襲来
『クソッ、まさか地図を盗まれてしまうとは』
『わざわざ兵が集中している駐屯地に乗り込んで盗みにくるなんて……犯人は一体誰なんでしょうか』
『そんなもの例の王女を襲撃したヴァイオレット・カラミティア一派の仕業に決まっている。奴等がこの港近くまで来ているのだろう。警戒を最大レベルにして注意を怠るな』
『ハッ!』
襲撃に備えて兵士に指示を送っているのはヴァイオレットが眠らせた敵の指揮官
自分の失態で港が突破されてしまったら降格処分は間違いない
なんとしてでもここで食い止めなければ……と自分の保身を考えていると港の方でまた騒ぎが起こっているのが聞こえてきた
『今度はなんだ!』
数刻前の爆発音に続き今度は港で何か問題が起きたのかと天幕から出て港の様子を確認しに行くと、そこには予想もしていなかった相手が聳え立っていた
港に停泊してあった船が豆粒に感じてしまう程大きく、何本もの触手が暴れ回っている
『く、くくクラーケンだと!?どうしてこのタイミングで!』
海の主であるクラーケンの登場により現場は完全に混乱状態に
反撃を試みる兵士達もいたが相手はクラーケン、多少の攻撃を食らったところでビクともしなかった
触手によってヴァイオレット達がやって来た時の為に用意していた船が海の藻屑となっていき、兵士達は吹き飛ばされ次々と意識を失っていく
『クソッ!こんな時にどうしてこんな化け物が現れるんだ!今までコイツが港までやって来るなんて事は無かったはずだ……』
それ以外にも気になる点があった
クラーケンのとんでもない大きさには腰を抜かしかけたが、それにしては攻撃が少し大人しい気がする
兵士達が気を失っているだけで済んでいるのがその証拠だ
『まさか……奴等クラーケンを使役しているんじゃ。もしそうだとすればかなり危険だ。一刻も早く王都にこの事を伝えなければ!』
クラーケンがヴァイオレット達の仲間だとすればそれ以上の存在が相手にいるに違いない
そう考えた男はすぐさま天幕へと戻って王都に連絡をしようと戻ろうとしたその時、目を離した隙にクラーケンの触手に掴まれてしまう
『しまっ……!くそっ離せ!』
必死に抵抗を試みるもクラーケンの拘束から逃れられるはずもなく、軽く投げられて壁に叩きつけられてしまう
『かはっ……!』
本来なら肉片になっていただろうが手加減をしてくれていたお陰で骨数本が折れただけに留まったが、王都に報告することができずに男は意識を失ってしまった