力の対価
『人の姿に戻れないって……どういうことですか?』
『我も実際でこの目で見たから真実は定かではないが、龍脈石の力を人間が取り込むと竜の姿になってしまうという話だそうだ』
強大な力を得る代償として人としての生を諦めなくてはいけないという
その話が本当であればドラグニルが言っていた龍脈石の力を取り込んだ人間達に多くの竜がやられてしまったという話も辻褄が合うような気がする
普通そんなリスクを聞かされれば殆どの人間は躊躇するだろうが、ヴァイオレットは躊躇うことなく答えた
『それくらいのことなら全然構いません』
『いいのか?二度と戻れなくなるかもしれないのだぞ』
『今いる私の町は私以外皆亜人だから偏見とかないですしそもそも人の姿にもそこまで未練はないというか……それに実を言うと竜の姿になるのって憧れてたりしてたんですよね』
ルージュの背中に乗っている時などヴァイオレットは翼をはためかせて自由に空を飛ぶことができたらどれだけ気持ちが良いだろうといつも考えていた
勿論エリザやミーシャ達の事など全く未練はないとは言い切れないが、今大切なのはカラミティにいる町の者達や仲間達の事
それが実現できるというのなら竜の姿でもなんでもなってやろうではないか
『そういうわけで全然迷いはないのでお願いします』
『覚悟ができているのならこちらがこれ以上問うのは野暮というものだな。では早速始めるとするか』
そう言うとドラグニルは龍脈石の方に手を伸ばすと、爪の先で龍脈石の一部を砕いてヴァイオレットに差し出してきた
『壊しちゃってよかったんですか?』
『欠片程度ならばすぐに元に戻るから問題はない』
『そうなんですか……えと、それでこれをどうすれば?』
『さっき言った通りだ。取り込む、つまり腹の中に入れるというだ』
『え、これを……?』
これまで様々な物を食べてきたヴァイオレットではあるが、流石に石を食べるという経験はなかった
竜の姿になるよりもそちらの方が躊躇してしまう位には嫌だった
だがそれをしないと力を得ることができないというのなら覚悟を決めるしかない
ゴクリと一度唾を飲み込んだ後意を決して石を口にしようとした瞬間、突然大きな音と同時に城が大きく揺れた
『ビックリした。凄い大きい音がしたけどなんだったんだろう……ってこの懐かしい感じの気配ってもしかして……』
『お主も気づいたか』
気配を察知したヴァイオレットは龍脈石を体内に取り込むことを一旦止めて地上へと向かった
そして地上に出るとそこには父イグニスの姿が
数年ぶりに再会を果たしたヴァイオレットは驚きと共に嬉しさが込み上げてきた
『随分と久しいなイグニスよ』
『ふん、クソ親父が……』
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