祖父と孫
竜王ドラグニルとの謁見を果たしたヴァイオレットは竜王が父イグニスの父であるという事実を知った
そしてドラグニルの要望によりイグニスと過ごしてきた話を聞かせることとなった
『信じられんな。まさか我が愚息に人間の娘がおったとは。あ奴め我が勧めた相手には見向きもせず子も作らなかったというのに』
『ここにいた時のお父さんってどんな感じだったんですか?』
『幼い頃のイグニスか。そうだな、あ奴は産まれてすぐ自分よりも遥かに大きな竜を倒してしまったんだ』
『えぇ!?』
『始めの頃はそこにいるヘイヴルや他の竜の手を借りてなんとか抑えられていたが成長していくにつれて段々と手がつけられなくなってなぁ。言うことも聞かないしあの頃は本当に大変だったわ』
『昔から強かったんだなぁお父さんは』
ヴァイオレットにとっては優しくて強い父親だが、周囲から聞かされるイグニスはかなりやんちゃをしていたようだ
しかし産まれてすぐに成竜を倒してしまうとは……やはり他の竜とは一線を画しているのだろう
『力だけはどの竜よりも飛び抜けていたが今の話の通り協調性が皆無でな。奴を次の竜王にしようと思っていたが器ではなかったから国から追放したのだ。数多くの竜を見てきたがあ奴程我の強い奴もそうはおるまい。そんな奴が子育てを……しかもそれが人間の娘をとはな。これだけ長く生きていても何が起こるか分からないものだな』
『私はお父さんが育ててくれなかったら今ここにはいません。周りが何と言おうと私はお父さんが大好きです!』
『ふっ……あ奴は幸せ者だな』
そう言うとドラグニルは優しく微笑んだ
最初は竜王という大層な肩書きの前に緊張したが、物腰も柔らかく他の竜のように人間だからといって蔑ろにしたりはしてこない
この竜がイグニスの父というのがにわかに信じ難かった
『さて、そろそろ本題に移ろうかの。ヴァイオレットよ、お主は何の用でここに来たのだ?』
『あ、はい。実は先日私が治めている国が襲撃されてしまって……それで皆と話し合ってまたいつやって来るか分からない相手を待つよりもこちらから攻め込んでその脅威を無くそうという話になったんです。今その為に全員が頑張ってくれているんですがそれでも戦力が足りなくて』
『つまりここに来たのは我等の力を欲してのことか?』
ドラグニルの問いに頷くヴァイオレット
少しの間を置いてドラグニルは真剣な眼差しで答えた
『単刀直入に言おう。答えは否だ』
『……理由を聞いても?』
『お主等に同胞を貸す道理もなければ義理も無いであろう。他国の諍いに介入すればこちらも面倒事に巻き込まれる恐れもあるしな。こちらに利がない』
ドラグニルの言う通りである
守るものが多くなった今自分の事だけを考えるわけにもいかない
逆の立場であれば同じく断っていたかもしれないだろう
そしてそれに見合うだけの見返りをヴァイオレットはすぐ思いつくことができなかった
それでも仲間の為にもとどうにか願いを聞き入れてもらおうとドラグニルを説得しようとすると、ドラグニルが続けてこう言った
『というのがこの国の王としての意見であるが、個人の意見としては我の孫と言っても過言ではないお主の望みを断るのは後味が悪い。微力ではあるが協力しようじゃないか』
『本当ですか!』
『あぁ、ついてきなさい』
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