呼び出し
王女エリザの呼び出しで取り巻きのあとについてきたヴァイオレットは人気のない裏庭へとやってきた
そこにいたのはヴァイオレットを連れてきた者を含めた王女様の取り巻き四人、王女様の姿はどこにも見当たらなかった
『ねぇ王女様はどこにいるの?』
『エリザ様は来ねぇよ』
『え?どういうこと?』
『この状況見たら分かるだろ?お前をここに来させる為の嘘だよ』
『エリザ様がアンタなんかに興味を持つわけないでしょ』
『なんだ嘘だったのか。ガッカリ……』
王女様がいないのではここにいる意味はない
ヴァイオレットは先に食堂に向かったミーシャ達を追いかける為その場を立ち去ろうとするが、貴族達がそうはさせてくれなかった
『おい待てよ、ここへ呼び出したのにはちゃんと理由があるんだよ』
『理由?』
『お前エリザ様と友達になりたいとかほざいていたな』
『たまにいるんだよ、お前みたいな調子に乗った奴が』
『私別に調子になんか乗ってないよ』
『お前がどう思っているかなんて関係ない。お前の行動で周りがどう思うかだ。気安くエリザ様に近づいてこようとする輩が増えるとエリザ様の負担になるかもしれないんだよ』
『エリザ様は多忙なお方、学業以外にもやる事が沢山あって友人なんて作っている暇なんてないのよ』
そういうしがらみのない環境で育ってきたヴァイオレットには王女の責務のようなものは分からない
けれどこの者達が王女様を慕っているということは理解できた
『あなた達王女様の事が好きなんだね』
『あの方は地位や才能があるにも関わらずそれに驕らない謙虚さと努力を怠らない勤勉さを持ち合わせている。そんな人を慕わない者はいないだろう』
『そうなんだねぇ。でもそんな話聞いちゃったら余計王女様と友達になりたいって思っちゃった。私は王女様に直接嫌って言われるまで諦めないよ!』
『そうか、穏便に済ませてやろうと思ったがそっちが引かないのなら仕方ないな』
『え?うわっ!』
話し合いで解決出来ないと分かると取り巻きの一人がヴァイオレットに向かって魔法を放ってきた
突然のことでビックリしたが、今のは威嚇射撃の様なもので直撃することなく後方に飛んで消えていった
『ダメだよ、学校の中で勝手に魔法使ったら先生に怒られちゃうよ?』
『俺らは貴族だ。平民のお前と違ってその気になれば先生の一人や二人黙らせることなんて簡単なんだよ』
『安心しなさい、殺しはしないわ。けどエリザ様に近づくのを止めると言うまでずっと続けるけどね』
そう言うと今度は一斉に魔法を撃ってきた
言っていた通り痛めつけるだけの威力の弱い魔法の連発
この程度の攻撃ならどうとでも出来るが、魔法を使用したら何を言われるか分からないのでヴァイオレットは魔法を使わず対処することにした
迫り来る攻撃に対し手を突き出す。すると放たれた魔法は当たる直前に軌道を変え、ヴァイオレットではなく横にいた男に命中した
『はっ?うげっ!』
『おいなにやってんだ!』
『私じゃないわ!突然魔法が独りでに曲がったのよ!』
何が起こったのか理解できない様子の取り巻き達は混乱しつつも攻撃の手を緩めず魔法を撃ち続ける
しかしその悉くがヴァイオレットに当たる直前に軌道を変えて自分の元に戻ってきた
『クソッ!なんなんだこれ!なんで全然当たらないんだよ!』
『もしかしてこいつが俺達の魔法の軌道を変えてるのか?』
『最下位の平民がそんな芸当できるわけないでしょ!何か卑怯な手を使ってるに違いないわ!』
『卑怯って酷いなぁ。ちゃんとした技だよ』
ヴァイオレットがやってるのは掌に魔力を集中させて魔法の軌道を変えているだけ
これは魔力のコントロールをする特訓中に編み出したもので魔法に込められた魔力の流れを瞬時に読み取り、その流れを自分の魔力で操作することでこうして軌道を変えることができるようになった
とはいえ強力な魔法だと軌道を変えることはできず、今回のような威力の弱い魔法位にしか通用しないのであまり使い道はない
このまま魔力が尽きるまで続けていればそのうち諦めてくれるだろう
そう思いつつひたすら攻撃を防いでいると一発だけ軌道の変え方を誤ってしまいあらぬ方向へと飛んでしまう
そこにちょうど通りかかった生徒に当たりそうになる
『あ、危ない!避けて!』
威力が低いとはいえ当たったら傷はつく
大声を上げて通りがかった生徒に危険を知らせると、その生徒がこちらに顔を向けた瞬間魔法が消滅した
何が起こったのかと生徒の方をよく見てみるとなんと王女様だった
不可抗力とはいえ王女様に危害を加えかけてしまった事実に顔が真っ青になる取り巻き達
その様子を見て王女様は表情を変えずに問いかけてくる
『あなた達、校内では授業以外での魔法の使用は禁止ですよ。こんなところで何をしていたのですか』
『エ、エリザ様。これはその……』
王女様は口ごもる取り巻き達を見た後ヴァイオレットに視線を送る
貴族に取り囲まれている平民の構図と今朝のやり取りで大方の予想がついたのか、王女様はそれ以上追及してこなかった
『行きますよ』
『は、はい』
『あっ、ちょっと』
取り巻きを連れて立ち去る王女様に声をかけるが、ヴァイオレットの方を一瞥もせず消えていってしまった
一人取り残されたヴァイオレットは自身のお腹の音で待たせている友人の事を思い出し急いで食堂へと向かった
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