王女様とその取り巻き
登校初日から一夜明け、今日から本格的な授業が始まる
そのせいで朝からヴァイオレットは憂鬱な気持ちになっていた
『はぁ、今日から授業かぁ……』
『シャキっとしなさい。始まってもないのに今からこれじゃあ先が思いやられるわね』
『私別に勉強したいわけじゃないんだけどなぁ』
ミーシャに引っ張られながら寮を出て学校に向かっていると前の方にヴァイオレット達と同じく登校している集団を見つける
その集団は近寄りがたいオーラのようなものを放っており、他の生徒が距離を置く程だった
そしてその中でも周りの生徒より一際輝いている生徒が目に入ってきた
凛とした佇まいでヴァイオレットと同じ髪の色をした女性、長い髪を相まって後ろ姿だけ見たらヴァイオレットによく似ていた
『ミーシャちゃん、あそこ』
『ん?あぁ、あれが昨日話していた王女様よ』
『あれが王女様……なんというかキラキラしてるね』
『そりゃあ王女様だからね。エリザ様は王女様ってだけじゃなく容姿端麗でこのクラスの首席でもあるからやっぱり周りから注目されてるわね。まぁそういうのは慣れっ子でしょうけど』
『へぇ、そんな子と仲良くなれたら面白そう』
『ちょっ、何するつもり?』
『挨拶しに行くんだよ。友達になってもらえるかも聞いて来る!』
『馬鹿じゃないの?王女様の周りには貴族達もいるのよ。相手にされるはずがないでしょ。ちょっとヴァイオレット!』
ミーシャが止めようとするがヴァイオレットは構わず王女の前に立ち塞がり進行を止めた
それに周りにいた貴族達が反応する
『おい、なんだ貴様は』
『よろしく!私ヴァイオレットっていうの!王女様、私とお友達になって!』
『本物の馬鹿だわあの子……』
後方で頭を抱えるミーシャをよそにヴァイオレットは曇りのない瞳で王女様に
その言葉を聞いて先に動いたのは王女様ではなく周りにいた貴族達
二人の間に割ってヴァイオレットを威圧してきた
『おい貴様、エリザ様に向かってその口の利き方はなんだ』
『エリザ様はお前如きに割く時間はないんだよ』
『平民風情が調子に乗りやがって。この学校にいられなくしてやろうか』
ヴァイオレットに向かって口々にそう吐き捨てるが、それを浴びせられた当の本人には全く響いておらず諦めずに食い下がった
『ねぇねぇ、好きな食べ物ってなに?私はねぇお肉とプディン!よかったら食べる?』
『おい無視するな!というかその肉どっから出した!』
『そんなものエリザ様が食べるわけないだろ!』
ヴァイオレットが貴族を無視してしつこく付き纏っていると、王女様が一つ咳払いをした
それが合図だったかのように今まで騒いでいた貴族連中の罵声がピタリと止み、王女様がヴァイオレットに向けて口を開いた
『ヴァイオレットさんでしたっけ、申し訳ないけれど私は特定の誰かと仲良くなるつもりはありませんので』
『えー、そんな事言わないで友達になろうよ~』
『……私と友人関係になりたいと言うのでしたらまずは最低限の身だしなみを覚えた方がよろしいかと。今のあなたとご一緒したいとはとても思えませんわ』
『あっごめんね!今直すから』
ヴァイオレットの髪は寝起きのままでまるで鳥の巣のよう
制服の中のシャツが顔を出して確かにみっともない姿をしていた
指摘されて慌ててそれらを直すが、その頃には王女様は先に行ってしまっていた
『行っちゃった……』
『本当何考えてるのよ。一国の王女様が私達のような身分の人間と友達になんてなるわけないでしょ。なんのお咎めがないだけ運が良かったわ』
『そんな厳しい人には見えなかったけどなぁ。教室に行ったらまた声をかけてみようっと』
『やめておきなさい。王女様はともかく周りの貴族達には確実に目をつけられたわよ。貴族っていうのは面子を大事にしているの。身分の低い私達のような人間に舐められてると思ったら執拗に嫌がらせしてくるから気をつけなさい』
『んー……』
『ほら、私達も早く行くわよ。遅刻したら大変なんだから』
ミーシャに忠告されたがそれでも王女様と友達になるのを諦め切れないヴァイオレットは、どうすれば王女様に近づけるかを考えた
それと並行して午前の授業を聞いていたら頭はパンク寸前になっていた
『うぅ~……もうダメ~』
『ちょっと大丈夫?まだ午後の授業が残ってるのに満身創痍じゃない』
『ずっと机に座って人の話を聞いてるのは私には合ってないみたい……何を言ってるのかちんぷんかんぷんだし』
『あはは、まぁヴァイオレットの気持ちも分からなくもないけどな。ボクも頭を使うより体を動かす方が好きだ』
『お昼だし皆で食堂にでも行きましょ。この学校のご飯凄く美味しいらしいわよ』
午後の授業に向けて皆で食堂へ向かっていると、その道中で見覚えのある男子生徒に声をかけられた
『おい、そこのお前』
『ん?あっ!あなたは昨日のすっぱい人!そういえば今朝王女様の近くにいたような……誰だっけ』
『マルセルだ!伯爵の息子であるこの俺に向かってお前……まぁいい、お前に用がある』
『私に?』
『エリザ様が呼んでいる。ついてこい』
『えっ!王女様が!行く行く~♪』
『……ねぇ、それ私もついて行っていいかしら』
『エリザ様はこの女をご指名だ。獣人が厚かましいぞ』
『皆先に食堂に行っててー』
どうお近づきになれるか考えていたのでこれは願ってもいない展開
ミーシャ達にあとで合流する事を伝えヴァイオレットは王女様が待つ場所へと向かった
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