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竜皇女と呼ばれた娘  作者: Aoi
魔法学校編
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竜の子育て

滝に落とされ流れ着いた洞窟に棲んでいた竜に赤子が拾われてから数時間が経過した

竜はその時間を使って洞窟に流れ着いた漂流物で暖をとれるようヴァイオレットの寝床を作り上げた



『こんなものか。さて、あとは何をすればよいのだろう』

『んぅ……おぎゃー!おぎゃー!』

『なんだ?さっきまで上機嫌だったのに急に泣き出し始めたぞ。そういえばここに来てからまだ飯を食わせていなかったな。だがここには食い物がないしな……仕方ないちょっと待っていろ』



お腹を空かせて泣いていると思った竜はヴァイオレットを置き、翼を広げて洞窟を飛び出していった

それからものの数分程で竜は獲物を持って戻ってきた



『ほら、飯を持ってきてやったぞヴァイオレット。たらふく食って大きくなるんだぞ』



竜の口にはこの世界で魔物という存在に分類されている生き物でワイルドボアという猪の魔物が咥えられていた

竜はそれをヴァイオレットの前に差し出し食べるよう促したが、ヴァイオレットは喜ぶどころか更に激しく泣き始めた



『おぎゃー!おぎゃー!』

『な、なんだ?飯は持ってきてやっただろ?あぁそうか、確か人間は肉を生では食さなかったのだな。よし待っていろ』



そう言うと竜は口から火を吹いて倒してきたワイルドボアを焼き始めた

こんがりと焼きあがるとヴァイオレットの口に入るサイズに切り分けて口元へとゆっくり近づけてみた



『ほら、これならどうだ?』

『んんんみゃー!!』

『なぜだ、なぜ食べないんだ?肉もしっかり焼いたし問題ないはずだぞ。それとも腹が減っているわけではないのか?人間の子供は分からん……一体どうすればよいのだ』



育児経験のない竜に子供の……ましてや人間の赤子が何を求めているのかなんて分かるわけもなかった

どうすればヴァイオレットが泣き止むのかと頭を悩ませていると、突然洞窟の外から強烈な風が舞い込んできた



『ん?この魔力の感じは……』



強烈な風からヴァイオレットを守りつつこちらにやって来る存在に目をやる

竜が棲む場所に正面から入ってくるような命知らずな者はいない

いるとすればそれは同種の存在。竜の前に現れたのは白銀に輝く毛並みをしたもう一頭の竜だった



『やはり貴様だったかバシリッサ』

『久しぶりねイグニス、こうして顔を合わすのは何百年ぶりかしら』

『いきなり吾輩の棲み処に来るとはどういう風の吹き回しだ?』

『たまたまこの近くを通りかかったから寄っただけよ。それにしても相変わらず陰気な場所に住んでいるのね』

『どこを棲み処にしようが吾輩の勝手だ。用がないのならさっさと消えろ、吾輩は今忙しいんだ』

『おぎゃー!おぎゃー!』



二頭が会話をしているところに再び赤子の泣き声が木霊する

その声を聞いて白銀の竜バシリッサはようやく赤子の存在に気がつき顔を近づけた



『人間の赤ちゃん?どうしてこんなところに?まさか攫ってきたの?』

『違うわ!ここに流れ着いたから吾輩が育ててやってるのだ』

『あなたが子育て……?冗談でしょ?自分の子供すら持ったことがないあなたが人間の赤ちゃんを育てるなんて……』

『何を言っている、吾輩にだって赤子の一人や二人容易に育てられるわ』

『おぎゃー!おぎゃー!』

『えぇい!五月蠅い!貴様も泣いてばかりいるな!そんなのでは強くなれんぞ!』

『びええええええええ!!』



泣き続けるヴァイオレットに一喝するがそれが逆効果となり一層激しさを増す

その様子を見てバシリッサは深い溜め息をついた



『全く、そんなんじゃ先が思いやられるわね。この子お腹空かせているみたいよ』

『そう思って飯を持ってきてやったんだ。わざわざ口に入るよう切ってもやったのだぞ』

『アナタ生まれて間もない赤ちゃんにそんなものをあげようとしていたの?竜の赤ちゃんと違って人間の赤ちゃんは母乳で育てるものなのよ』

『なに?そうなのか?だが吾輩から母乳なんてものは出ないぞ。貴様は出るのか?』

『出るわけないでしょ。竜だもの』

『じゃあどうするんだ』

『ちょっと待っていなさい』



イグニスにそう伝えるとバシリッサは外へ出ていった

その間なんとか泣き喚くヴァシリッサを宥め帰りを待っていると、バシリッサが大きな葉っぱを持って戻ってきた

葉の中には白い液体が入れられていて微かに甘い香りがした



『これを飲ませてあげなさい』

『なんだこれは?』

『ミルキーツリーという木から採った樹液よ。その木から採れる樹液は人間の母乳と殆ど同じみたいだから赤ちゃんにあげても問題ないと思うわよ』

『よく分からんがこれならヴァイオレットは口に入れるのだな。さっさと寄越せ』

『ゆっくり、少しずつあげるのよ』



バシリッサの持ってきた樹液を慎重にヴァイオレットの口へと運ぶ

最初は中々口にしようとしなかったヴァイオレットだが、一度(ひとたび)口にすると美味しそうに樹液を飲んでくれた



『おぉ!飲んだぞ!見ろ!吾輩だってちゃんと授乳できているだろう!』

『はいはい、その調子で頑張りなさいね』



お腹が膨れるとヴァイオレットは満足したのか程なくして気持ちよさそうな顔をして眠りについた

ようやく一息つくことができたイグニスは今まで味わったことのない疲労感に襲われていた



ご拝読いただきありがとうございます!

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毎日更新していますのでよろしければ次回もよろしくお願いします!

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