登校初日
ヴァイオレットが魔法学校の寮に入寮し同室のミーシャと友達になることができたその翌日、学校に登校する日がやってきた
時を同じくしてヴァイオレットと別れたイグニスはというと娘の動向を心配していた
『ヴァイオレットはちゃんと人間の世界で上手くやれているだろうか……心配だ』
『あの娘ならきっとなんだかんだ楽しくやってるわよ』
『お前、暫くヴァイオレットは帰ってこないのだからわざわざここに来る必要はないだろう』
『別にいいじゃない』
『はぁ……ヴァイオレット……』
十六年愛情を込めて育てた娘が自分の元を離れたことで完全にバーンアウトしてしまったイグニスはここ暫くずっと棲み処に籠り続けヴァイオレットの名を呟いていた
そんな様子を見てバシリッサはある提案を持ちかけた
『そんなに心配なら少し様子を覗いてみる?』
『なんだと?』
『前に人間から面白いものを貰ってね。これなんだけど』
『これは人間が利用している魔水晶とかいうやつか?こんなので何をするというのだ』
『ちょっと見ていなさい』
バシリッサが水晶に魔力を込める
すると水晶に何かが映りだした。よく見るとそれはイグニスが呟き続けていたヴァイオレットの姿だった
『ヴァイオレット?これは本物のヴァイオレットなのか?』
『そうよ、これは遠くにいる相手を様子を見ることができる魔水晶なの。親しい間柄でないと見ることが出来ないみたいだけど今のあなたにピッタリ……』
『寄越せ!』
バシリッサが言い切る前に奪い取り食い入るように水晶を眺め始めた
『どうやら無事学校とやらには入れたようだな』
『あらあらまぁまぁ、なんて愛らしいんでしょう』
『当たり前だ吾輩の娘なのだからな。ん?隣にいる獣人はもしかしてヴァイオレットの友達か?ひ弱そうだが大丈夫なのか?』
『友人というのは強さで決めるものじゃないのよ』
『まぁなんにせよヴァイオレットが笑顔で過ごせているのならそれで十分だ』
『今日から学校!楽しみだなぁ♪』
『学校なんてそんな大したことないしあんまり期待しない方がいいかもよ』
『この服も可愛い!こんなヒラヒラした服着るの私初めてだよ』
『聞いてないし……』
今回を機に初めてスカートを穿くヴァイオレット
今までバシリッサが用意してくれた服だけを着ていてそのどれもが動きやすさを重視したパンツスタイル
ファッションに関して無頓着だったヴァイオレットだが、街でスカートを穿いている女性を見て実は密かに気になっていたのだ
花より団子かと思っていたがヴァイオレットもやはり女の子ということだ
『けどこの服可愛いけどお股の辺りがスースーするね』
『あんまりその格好で激しい動きしない方がいいわよ。色々見えちゃうから』
『見えるって何が?』
『まぁいいか、ほら行くわよ』
『うん!』
グレディス魔法学校は寮から離れた場所にあり、十分程度歩く必要がある
遅刻しようものなら厳しい罰則を与えられるので遅刻は厳禁
決められた細かい時間にきちんと従わなくてはならないというのは森で過ごしてきたヴァイオレットにとっては存外難しいことなのだ
学校に到着し教室の前まで来るとヴァイオレットは一つ深呼吸をした
『ここが私達の教室。なんだか緊張するね』
『いいから早く入りなさい』
ミーシャに促され扉を開ける
そして開口一番に元気一杯な挨拶をした
『おっはよー!皆今日からよろしくねー!』
入る前に話していた緊張とやらを全く感じさせない大声
その声に教室にいた者達が一斉にヴァイオレット達の方に視線を向けるが、誰一人として挨拶を返してこようとはしなかった
『あれ?聞こえなかったのかな?』
『無駄よ、話しかけたところで私達が相手されるわけないでしょ。ほら、さっさと席に着くわよ』
渾身の挨拶が失敗に終わったヴァイオレットはミーシャに連れていかれながら空いている席へ
するとその途中で座っていた他の男子生徒に突然通路を足で塞がれてしまった
『おい、なんだかこの教室獣臭くないかぁ?』
『うわっ本当だ。おえー』
男達はミーシャを見ながら鼻をつまんでそう言い放つ
それに対してミーシャは鋭い視線を送るが、それ以上のことはせず男達を無視して通り抜けようとした
それが気に食わなかったのか男達はしつこく突っかかってきた
『おい、獣風情が無視するなよ』
『獣臭を撒き散らしてごめんなさいだろ』
『クンクン……ミーシャちゃんはいい匂いだよ。毎朝トレーニング後にシャワー浴びてるもんね』
『は?最下位の落ちこぼれは黙ってろよ』
『寧ろあなたの方がなんだか酸っぱい匂いがするような……』
『ぷっ』
『クスクス……』
ヴァイオレットが思ったことをありのまま男に伝えると、周りから微かに笑い声が聞こえてくる
それに気づいた男の顔は赤くなり、ターゲットをミーシャからヴァイオレットに変更してきた
『最下位の癖に俺様を馬鹿にしやがって……どうやら体に直接分からせるしかないようだな』
怒りを露わにした男から魔力の反応を感知、魔法を使うつもりだ
こんなところで魔法を使ったら教室が滅茶苦茶になってしまう
男が魔法を発動させる前に無力化するしかないかとヴァイオレットが動き出したその時、男の集約されていた魔力が突然霧散した
『な、なんだ!?』
『校内では許可無く魔法の使用をしてはいけないって案内書に書いてあったよな』
『あっ!おじさん先生!』
『ケーニッヒ先生だ。次俺をおじさんと呼んだら反省文書いてもらうからな』
ケーニッヒが介入してくれたお陰で事なきを得る事ができた
男も先生の前で騒ぎを起こすような真似が出来るわけもなく、ヴァイオレット達にひと睨み利かせた後大人しく席に着いた
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