初めての友達
『やったー!私の勝ちー♪』
『はぁはぁ……まさか私が手も足も出ないなんて……』
ミーシャはヴァイオレットに自分の得意な種目で勝負を挑んだが、その勝負全てに完敗してしまった
一本目は魔弾で全方位ランダムに出現してくる的を先に十枚破壊するというもの
いかに魔法を早く正確に的に当てるかという勝負で魔法を放つ早さと反射神経に自信があったミーシャは余裕で勝てると考えていたが、結果はミーシャに一枚も譲らずヴァイオレットが完勝した
的が出現した瞬間には既にヴァイオレットの魔弾は的に命中していて、まるで次どこに的が出てくるか分かっているかのような動きだった
ならばと二本目は魔法とは関係ない長距離走で勝負を仕掛けるが、こちらは息ひとつ乱れずに先にゴールされてしまい三本目に入る前に決着がついてしまった
『楽しかったー。またやろうね!』
『全敗した私はひとつも楽しくなかったけどね……』
『ふふふっ』
『何笑ってるのよ』
『だってミーシャちゃん最初に会った時はクールな感じだったのに勝負してる時凄い熱くなっててイメージが全然違ってたから。ミーシャちゃんって凄い負けず嫌いなんだね』
『うっ……』
『あっ!それよりも!私が勝ったからなんでも言うこと聞いてくれるんだよね』
そういえばそんな事を口走ってしまっていたなと自分の軽率な発言を後悔する
人間は獣人の事を対等な存在ではなく人の姿を真似た下等な生物だと思っている
獣人を対等に見ている人間もいるらしいがそんな人間は極小数
きっとこの人間は自分を辱めるような命令をしてくるのに違いない
だが所詮は口約束、従う義理はないと考えているとヴァイオレットの口からは予想の斜め上の言葉が出てきた
『私と友達になってミーシャちゃん!』
『はっ?』
『ダメ?』
『あなた変わってるわね、私なんかと本当に友達になりたいと思ってるの?』
『勿論だよ!』
そう言い放つヴァイオレットからは真剣さが伝わってきて嘘を言っているようには見えなかった
自分を見る人間の目は何度も見てきたがこれ程までに純粋な目をしている人間は初めてだった
そんなヴァイオレットを見てミーシャはその願いを聞き入れた
『分かったわ……友達になってあげるわよ』
『本当!?やったー!初めての友達ができた!それじゃあ記念にお祝いしよ!』
『あっ、ちょ、ちょっと』
念願の友達が出来たヴァイオレットは飛び跳ねて喜び、お祝いをする為に部屋へと戻って行った
そして準備しておいた肉を温め直して二人で一緒に食べた
『ん~♪一人で食べても美味しいけどやっぱり誰かと食べた方が美味しいよねぇ♪』
『あなたよくそんな呑気でいられるわね。そんなんじゃすぐこの寮から追い出されることになるわよ。あっ、これ美味しい……』
『ん?追い出されるってどういうこと?』
『知らないの?この部屋はね、成績最下位の人が入る部屋なの』
『えっそうなんだ』
『入学試験の時点から既に順位がつけられていて現状あなたが最下位、私があなたの一個上の三十位なのよ。合格通知が来るのギリギリだったでしょ?』
『そういえば……でもそれが寮を追い出されることと何か関係あるの?』
『この学校は月に一度クラス内で順位を競う試験があるの。そこで連続で最下位だった生徒は寮から追放、つまり退学になるってこと』
『ふむふむ……ん?今私最下位なんだよね?ということは次の試験でまた最下位だったら……』
『退学ってことになるわね』
通常最下位に転落しても次の月の試験で挽回することができるが、入学試験の時点で最下位のヴァイオレットは最初の試験で退学になる可能性が十分あり得るということだ
せっかく友達もできてこれからもっと友達をと思っていたのに僅か一月で退学なんてことになったらミーシャともお別れになってしまう
順位なんてものはどうでもいいがそれだけは阻止したい
『ど、どうすればいいのかな?私退学はしたくないよ~』
『だから試験でいい成績を残すしかないのよ。試験の内容は当日になるまで明かされないから事前に対策はできないわね』
『そっかぁ……でも意外だな。ミーシャちゃんはもっと上の順位だと思ってた』
『どうしてそう思うの?』
『私ミーシャちゃんの他にも模擬試合見てたけどミーシャちゃんより強い人数える位しかいなかったから』
『ふぅん……でもそれを言ったらさっきの勝負で私に勝ったあなたももっと上の順位にいるべきなんじゃないの』
『私筆記試験の時殆ど寝てたから。えへへ』
『えへへって……ちょっと生徒手帳見せてもらえる?』
生徒手帳には入学試験時の結果が記載されており、月一の試験を行うとその結果がここに反映されるようになっている
実技、筆記共に通常は百点満点の採点だがヴァイオレットの点数は実技が150点で筆記が10点というあまりにも歪な成績だった
『あなたこれ正気……?』
『いやぁ選択問題を当てずっぽうで書いたら10点も取れちゃったんだ。運がよかったよ~』
『いや私が言ってるのはそっちじゃなくて……』
筆記も十分ふざけた点数だがもっとふざけているのは実技の方だ
ミーシャですら実技の点数は85点なのにそれを大きく上回っているなんて最初顔を合わせた時であれば絶対に信じなかったが、先程対峙した時のあの殺気を肌で感じた後ならこの点数もあながち間違ってない
そう思わせるだけのものがヴァイオレットにはあった
色々と規格外なヴァイオレット、この者といれば自分の目的が果たせるかもしれないとミーシャは強く思った
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