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とある『聖女』の物語

 一陣の風が吹き抜ける。

 髪が乱れてしまったが、陽射しが強くて暑い昼間では少しだけ心地良かった。


 邪魔になるので作業の手を止めて前髪を整えていると、誰かが私を呼んだ。

 見やれば10代半ばほどと思われる少年だ。修道服を着ているので、この教会で修行中の神官見習いなのだろう。


「アリソン様〜、アーリーソーンさ〜ま〜、司教様がお呼びですよ〜。」


「司教様が? 判りました、すぐに行くとお伝えください。」


 私は作業を中断して、司教様の執務室へと向かった。


 *


「………さて、アリソン。其方は『聖女』としての自覚をもっと持ってもらわねば困るのだ。」


 私の目の前で、とても渋い顰めっ面をこちらに向けているのはこの教会の責任者であるコルネリアス司教様。

 御年60過ぎの老婆で、歳からは想像も出来ない程に矍鑠とした三女神教の敬虔なる信徒の鑑。

 私、『聖女』アリソンの教育係を枢機卿より任じられており、何かにつけて私はこの御仁から薫陶、説教、御高説を賜っている。


「それは解ってはおります。解ってはいるのですが……」


「なにかな、『聖女』アリソン。申したい事があるならハッキリと申したまえ。」


 一度、深呼吸をしてから、私は切り出した。


「では、その『聖女』というのは、私のような者が名乗って良いものなのでしょうか。なにしろ私は…男ですよ?」


 そう、私、パトリック・アンソン25歳(♂)、身長180cm、体重87kg、鍛えているのでそれなりに体力には自信のある元聖王国銀狼騎士団所属第三階梯聖騎士は、なにを罷り間違えたのか、女神フォルトナ様より聖痕を授かり、『聖女』となるよう啓示されたのだ。


「良いもなにも、運命の女神フォルトナ様の啓示があった故に、其方は『聖女』と認定されておるのだ。皆の考えがどうであれ、女神フォルトナ様の下された啓示に異を唱えるなど、不敬にも程がある。」


 それはそうである。

 一介の人間に、女神様のお決めになった事を覆す事など出来はしない。


 それは解ってはいたとしても、納得出来るものでは無かった。

 なにせ『聖女』にさせられたのだから、男の私が。

 なお性別は変更されていない。


「申し訳ありません。今後とも『聖女』として相応しい振る舞いを心掛けて参りますので、御指導御鞭撻のほど、宜しくお願い致します。」


 内心、不承不承ではあったが、頭を下げてその場を辞した。


 なんでこんな事になったのか、誰でも良いから教えて欲しい……


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