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人魔巷説 背徳者ールナゲイトー

 人魔大戦末期、新人類軍は魔族の軍勢を押し返し、遂に魔族の拠点である魔界への反抗作戦を開始した。

 カーライル王朝聖王国クルセイダー師団に所属するクルセイダーである私は、奴等魔族を殲滅する為に師団と共に魔界へとその第一歩を踏み出した。


 だが、魔族の拠点である魔界は魔素が枯渇した異形の大地だ。

 我々新人類は空気中に漂う魔素を体内に取り入れなければ体内のエーテルが失われ、魔力切れという状態に陥ってしまう。

 そうなると頭痛や倦怠感、吐気をもよおし、終いには意識を失って最悪死んでしまう。


 こうなると魔素を食べ物などから摂取するわけだが、それも限界がある。

 魔界での戦いは魔族以外にも魔素不足とも戦わねばならず、我々に多大な不利を強いた。


 だが、この戦いは必ず勝利しなければならない。

 なぜならば私は敬愛する聖女ユグドラ様に誓いを立てたのだから。


 我が身我が剣は、血の一滴最後の一欠片に至るまで聖王国に捧げ、かの異形なる侵略者どもを打ち滅ぼすと。


 全てはユグドラ様の御為に。

 気高く聡明で美しいあの方の為ならばこの命、幾ら捨てても惜しくなど無い。


 私は確固たる決意のもと、魔族殲滅に意欲を燃やした。


 *


 ………ヘマをしたものだ。


 穢らわしき魔族を幾多も打ち滅ぼし、魔界奥地への道を切り拓いていた私は、魔界の大地に倒れ伏している。

 体の右側半分近くがぐちゃぐちゃだ。

 これではいかな光属性の治癒魔法といえども助かるまい。


 咳き込んで血を強かに吐いて、それでもなお彼女の事を想った。


 ユグドラ様、申し訳ありません。

 貴女の為に捧げたこの命は、ここで終わりのようです。

 せめて最後に、貴女の微笑みを観たかった……。


「うふふふ、未練たらたらって顔してるね、君。」


 いつの間にか、私の顔を覗き込む者がいた。

 人の、魔導士のような姿をしている。

 もっとも、その顔には愉悦の笑みがベッタリと張り付いている。

 それに生者とは思えぬほどに土気色をした顔…。


 ……こいつは魔族だ。

 今際の際にある私を最後に嘲笑いに現れたのだろう。


 あと少し、身体が動けばコイツを道連れにしているところなのだが、あいにくと限界のようだ。


「死にかけの君に、とっても良い提案があるんだよ。この液体を飲めば君の命は助かって、また再び動き回れるようになるよ。」


 そう言って、奴は懐から小さな瓶を取り出して、私の前でヒラヒラと振った。


 ふん、魔族め、誇り高きクルセイダーである私を試そうと言うのか。

 ふざけやがって。


「……いらん。…ごぶっ、き…さまの、慈悲…など…い…ぬにでも…‥食ら、わせて、おけ……」


「んふふふっ、強がっちゃって。でも僕には判ってるんだ、君には命に換えても欲しいものがあるはずだよ。これを飲めばソレに手が届くかも、手に入るかもしれないよ?」


 魔族の言葉に、私の脳裏にあの方の、彼女の、美しい微笑みが蘇った。


 私は彼女からあの笑顔を向けていてもらいたい。

 私だけの為に微笑んで欲しい。

 私の思いに応えて欲しい。

 彼女からの愛が欲しい。


 彼女の全てが、欲しい。


 そう思った瞬間、私は最後の力を振り絞って腕を上げ、魔族がヒラヒラと振っていた瓶を掴む。

 いや、力が入らずに指が触れただけだった。


「いいよいいよ、私が飲ませてあげるよ。」


 魔族は瓶の蓋を開けた。

 何か紫とも赤とも青ともつかないどす黒い湯気のようなものが瓶の口から立ち込める。

 その瓶を私の口に近づけて、中の得体の知れない液体が流し込まれた。


 一思いに飲み込む。


 その瞬間、凄まじい激痛が私の身体を駆け巡った!

 痛い! 苦しい!


 だが、不思議とそれが心地良い。

 ズキズキと身体を蝕む激痛が甘美な快楽となって、私の全身を覆った。


 ………どれほどの時間が過ぎたか判らなかった。

 気がつけば、いつの間にやら苦しさも痛みも消えていた。


 ゆっくりと立ち上がり、私は自分の手を見た。

 青白く、滑りのある光沢を持った鱗に覆われている。

 身体を見渡すと、同じように鱗に覆われた尻尾まで生えている。


 側に落ちていた盾の表面を軽く磨き、そこに映る自分の顔を確かめる。


 ……これは、蛇だ。

 だが、頭の左右に大きく湾曲した角が生えている。


 なるほど、今の私には相応しい姿だ。


 あたりを見回すと、先程の魔族の姿はどこにも無かった。


「くくくっ、まぁ良い、感謝するぞ。」


 私は体の奥から湧き上がる欲求に身悶えた。

 欲しい、欲しい、欲しい。


 まさしく喉から手が出るほどに欲しい。

 欲しくて欲しくて堪らない。



 今の私の姿を見た彼女は、どんな顔をするだろう。


 嫌悪に顔を歪めるかも知れない。

 哀れな私に悲しみの表情を浮かべるかも知れない。


 ああ、楽しみだ。


 彼女を力尽くで組み伏せたら、どんな顔をするだろう。

 彼女の純潔を陵辱したら、どんな顔をするだろう。

 彼女の全てを私の欲望で汚して汚して穢しきったら、どんな顔をするだろう。


 ああ、ああ、楽しみだ。


 ユグドラ様、今から貴女を奪いに行きます。

この話は魔族の魔人種の一つ、ルナゲイトが誕生した時の話です。

ルナゲイトは聖騎士、特に女神の加護を持つクルセイダーが闇堕ち的に魔族に転生した際に生まれる種族で、とても欲深かつ冒涜的な性格してます。

ルナゲイト自体は聖華世界オリジナルの魔族として私が発案しました(それが言いたかっただけ)。

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