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赤い羊は咎人の夢に踊る〜フィーの物語#2〜

 聖華暦832年 2月 自由都市同盟領 ノースエンド


 私はシャーロット・フィー。

 聖王国で司祭殺しの濡れ衣を着せられた、哀れな女だ。


 数ヶ月前、処刑場へ連行される途中を脱出し、行き倒れたところをリヴルという少女によって助けられた。


 彼女はとても心優しく、不思議な少女だった。

 彼女は私の境遇に同情こそすれ、事情については何も聞かず、私の逃避行に手を貸してくれた。


 彼女との旅はとても楽しいもので、私の心は彼女によって救われた。


 彼女は命の恩人だ。


 だが、濡れ衣とはいえ私は咎人だ。

 いつまでも彼女と一緒にいる訳にはいかなかった。


 だから、自由都市同盟の国境に近づいた時に、彼女とは別れた。


 リヴルは私との別れを惜しみ、私もまた彼女との別れを惜しんだ。

 彼女には大きな恩がある。

 それを返せないのはとても心苦しかった。


 けれど。


「生きていれば、いつかまた会えるのですよ。その時にいっぱいお話を聞かせて欲しいのです。」


 そう言ってくれた。


 彼女は三女神様の遣わした天使に違いない。

 誰がどう言おうが、私にとってはまさに天使だった。


 私は、命ある限り精一杯生きていく事を心に誓って、自由都市同盟へと落ち延びた。


 ………けれど、ははっ、人生とはなんともままならないものだと、改めて思い知らされた。


 私はこの街で、また行き倒れてしまった。


 路銀も底をつき、空腹と疲労で最早動く事もできない。


 スラムで地元のチンピラ三人に絡まれて、どうにか撃退したまでは良かったのだけど、身体の方は限界だった。


 所詮、私はこの程度の人間だったのだ。

 天使が遣わされて、僅かばかり命を長らえただけで、結局はこんな薄汚れたスラムの片隅で、人知れずに消えゆく運命だったのだ。


 彼女に、リヴルに申し訳ない気持ちのまま、意識が消え入りそうになった。


「アンタ、このまま死ぬか、もう少し生きたいか、選びな。」


 唐突に頭の上から声が聞こえた。

 これは、死ぬ前の幻聴だろうか。

 だけど。


「……生き…たい……」


 そう、呟いて、私の意識は途絶えた。


 *


 微かな振動を身体に感じて、私は目が覚めた。


 周りは薄暗い。

 陽が落ちているのかと思ったが、そうでは無かった。


 地面は硬い木の板で、その上に毛布を敷いて寝かされていたようだ。

 周りを見れば壁と天井で囲われていると分かった。

 サビの浮いた金属の壁と天井、そして断続的に感じる僅かな振動。


 ここは陸上艦の中、船室らしい。


「お、目が覚めたか。」


 不意に声をかけられて思わず身構えた。

 扉の側に1人の男が壁に背を預けて佇んでいたのだ。


「ははっ、まぁそうなるわな。でも身構えなさんな、どうこうしよってわけじゃねえからよ。」


 男はこちらを見据えたまま扉を2回ノックする。

 扉の向こうで駆けて行く足音が僅かに聞こえた。


「そこに水と食い物が入ってる。勝手に食って良いぜ。」


 男を警戒しながらその指差す方を見ると、確かに袋があり、中を確かめると十分な重みがある水筒と、紙に包まれたサンドイッチが入っていた。


 男はゆっくりと頷く。


 私は恐る恐る水筒に口をつけて、中の液体を少し口に含む。

 身体に染み込み、潤す感覚が伝わり、そのまま一気に水を流し込んだ。


 そうすると、後は止まらない。

 サンドイッチの包みを解いて、貪るように食べた。


 食べ終わって一息ついて、ようやく落ち着いた。


「…ありがとう。」


 男に礼を言うと、彼はヒラヒラと手を振った。


 それから間をおかずに扉が開き、1人の人物が船室に入って来た。


 入って来た人物のその姿は、一目で亜人だと分かった。

 なぜならどう見ても、二足歩行する獣にしか見えないから。

 女性物の衣服を身に纏っているから辛うじて女性だろうと思われた。


「思ったよりも元気そうだねぇ。うちのことはマダムと呼んどくれ。あんたはん、名は?」


「私は、シャーロット・フィー。貴女が私を助けてくれたのか? 礼を言う。」


 礼を言った途端、マダムはくつくつと笑った。


「なにを呑気な事を言っとんのや、まだ助かったとは限らへんで。うちらが人攫いの悪党じゃないって、どうして言える?」


「貴女からはそんな感じがしない。私の勘でしかないが。」


 マダムは呆れたような顔をした……そんな気がしただけだが……。


「やれやれ、とんだ世間知らずだよこの子は。……まぁ良え。あんたはん行くとこが無いならウチに来な。どうせ行き倒れとったんや、アテなんてないんやろ。」


「なんで見ず知らずの私を。」


「行き倒れ寸前で男3人のしただろ、ありゃ大した腕だよ。つまりそう言うこった。」


 マダムの後ろに控えていた男がそう答えた。


「事情があんのやろうけど、そりゃ聞かへんで。で、どないする?」


「……分かった。受けた恩は必ず返す。だから……私を貴女の側に置いてくれ。」


 マダムが口の端を吊り上げた。


「よっしゃ、今日からフィーはんは『赤い羊亭』の用心棒や。よろしく頼むで。」


 こうして私、シャーロット・フィーは、自由都市同盟でも悪名高き犯罪都市フェルティリジーロ、さらにその中でも悪名高き酒場『赤い羊亭』の用心棒として生きてゆく事となったのだ。

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