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完全無欠の大義名分  作者: 逆説的アカシックレコーダー
3/3

孤独のパラドクス

「黒暗森林理論」


宇宙に存在する文明と文明は、文化の差と物理的距離の壁により、相互理解が困難を極める。

そのため、お互いに向ける感情が善意なのか敵意なのか、判断はできない。


また、どの文明も飛躍的発展を遂げる可能性はあり、それによって他の文明の存在を検知する/他の文明に検知される可能性がある。


これら2つの仮説に従えば、宇宙で他の文明を発見した際、コミュニケーションを図ることも静観することも無意味である、ということになる。

この時、「自身の文明の生存」を考える場合、最善策は「他の文明を発見次第消滅させ、リスクを減らす」ということになる。


この理論に則れば、宇宙で他の文明に観測されうるような悪目立ちは、避けるべきである。

 長い永い間、暗静が支配していた地下室に。




 突如、黄色いアゲハ蝶が(またた)いた。




 (ありえない)


 【最終兵器】の外界観測センサーは、何も捉えていなかった。虫が迷い込んでいたなど、それだけでありえないと証明できる。

 さらに、ただただ暗いこの地下室には、植物は存在していない。もし仮に、蝶の幼虫が迷い込んだとしても、(さなぎ)になるまでに飢えて死ぬはずだ。


 ――唐突に、光学センサーに、黄色いアゲハ蝶が映り込む。

 この暗闇のなかで、なにかが見えるという時、それは自ら光を放っている。

 つまり、このアゲハ蝶は、発光しているということだ。


 しかし、この黄色いアゲハ蝶からは、熱源の反応も無い。

 発光しているならば、それなりに発熱もあるのだが――いやそれ以前に、生物であるなら体温があるはずだ。だが、その反応も無い。




 要するに。

 この「黄色いアゲハ蝶の存在」は、なにも科学的説明ができない、怪奇現象だ。






 しかしながら、【最終兵器】は、もうただの機械ではなくなっていた。






 永い間、孤独に思考回路を巡らせ続けてきた。

 それによって得られた感情は、孤独に押しつぶされそうだった。


 だから、【最終兵器】はアゲハ蝶に触れようとした。

 機体を軋ませ、その光明へ触れる。




 ――果たして、アゲハ蝶は。

 【最終兵器】の機体をすりぬけて、ひらひらと消え去った。











 不意に、照明が点いた。


 光があふれた地下室には、今。

 照明が復旧して尚なぜか電源が入っていない機器達と、依然として動かないようでいてその(じつ)驚いて動けなくなっている【最終兵器】と、時間が経ちすぎて腐敗臭すらしない博士の白骨と。


 金髪の美少女が居た。






 (――人類?)


 そう認識した瞬間に、【最終兵器】はプログラムに従って火器を展開・発射した。

 そうして放たれた弾は、女に命中するかというところで、弾けて消えた。


 「うをっ! ちょっと、危ないじゃなーい! ……『ドッキリ大成功!』ってやってみたかったのに、これじゃ逆ドッキリじゃん」


 などと喚く女を視認して、未だに死んでいないことを認識した【最終兵器】は、内蔵されていた近接武装を展開して急接近し、殺害を試みた。

 ――女めがけて突き立てた得物は、女に触れる寸前で止まり、【最終兵器】がいくら出力を上げてもそこから先に動かなかった。


 「人の自己紹介くらい聞いたらどうなの? ま、アナタがそういう存在なのは解ってるけどさ」

 肩をすくめながら、女はヤレヤレと笑った。




 「とりあえずさ、武装解除してよ」

 殺せないのはわかったでしょ、と彼女が言うので、【最終兵器】は展開していた兵装を格納した。


 格納して気付いた。

 (こんな機能は、無かったはず)


 人類を認識した場合、死亡を確認するまで、殺害を試み続ける。

 そのため、一度展開した兵装は、対象が死亡するまで解除できない――

 それが、【最終兵器】に博士が仕込んだプログラムのはずだった。


 「アタシと話せば、みんなそんな感じになるのよ。だってアタシは【調律師】なんだから」


 カツ、コツ。

 ピンヒールを鳴らしながら、【調律師】は【最終兵器】に歩み寄る。


 「それにしてもアナタ……『誰か』なんて言ってた割に、アタシのことは殺そうとするのね?」

 彼女は笑いながら、腰に手を当てて、【最終兵器】のカメラアイをのぞき込む。


 【最終兵器】は愕然とした。これは感情のせいなのか、プログラムのせいなのか?

 いずれにせよ、機械である存在が矛盾を起こしたことは驚くべきことだった。


 「ま、別にいいんだけどね」

 くるりと【調律師】が後ろへ向き直る。

 そこには、いつのまにか、ドアくらいの大きさの液晶画面のようなものがあった。


 「なんで自分があんな事したのか、知りたい?」

 ポニーテールを揺らして、【調律師】が【最終兵器】の方へ振り向いた。


 「あなたは、その答えを知っているのですか?」

 「あー……知ってるけど、アナタが気付かないと意味ないと思うよ」

 【調律師】は手招きした。それを受けて、【最終兵器】は歩き出す。




 「そうだ、ひとつヒントをあげるけど」

 液晶画面へ向かって歩きながら、【調律師】は言う。


 「アナタはひとりじゃないのよ。だって――」

 一人と一機が、“扉”をくぐる。




 「“アナタの世界”は、ご都合で満ちてるからよ」

 “扉”が数多に待ち構える、白い空間に降り立つ。


 「“この空間”に来れた事自体がその証明」

 【調律師】が、また【最終兵器】へくるりと向き直る。


 「それに! 星の体積を文字通り半分減らしときながらさ、5000年間、嫋やかな星として存在し続けるとか、ありえないからね?」

 (そう、私はそうやって人類を滅ぼした……でもその後5000年の間、何もできなかった)


 「でもその力を、これから別の事に使ってもらうわ。それがきっと、答えを見つけるために必要なことだから」

Title:完全無欠の大義名分

Theme:後先考えない行動のツケ

Type1:ポストアポカリプス

Type2:空白

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