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第1話 異世界転生チートの内容地味すぎるやろ!

『元祖勇者、このアルテ王国の初代国王の死を0年とする勇者歴。それも今年で1500年だ。


 アルテ王国がこれだけの長期間安定し続けているのは、この地を統治し続ける王族の方々の手腕に他ならない。しかし、特に直近の200年は波乱続き。


 各地で生まれる勇者たちは、王国の騎士団に迎えられる者が大半だが、中には逆賊の手に落ち、反乱の手駒にされる哀れな者もいる。


 知っての通り、勇者とその宝具の力は強大だが、アルテ王国の民が反乱を恐れる必要は無い。なぜならこの国には、元祖勇者の直系の子孫である王族がついているのだ。


 先日、第二王子と50人の勇者率いる1万の軍勢がソル領で起きた反乱を鎮圧した。反乱の首魁と見られるソル領領主は王都にて裁判にかけられ、死刑の判決が』


 やたら王族贔屓の新聞をそこまで読み終えたところで、勢いよく部屋のドアが開けられた。


「騎士団だ! シガ・ネーシャ! 観念しろ!」


 気合いの入った脅し文句にため息をつきながら、名指しされた俺は組んでいた足を解いて立ち上がる。


「普通に入ってこれないの?」

「てへ」


 今の俺の名前は、シガ・ネーシャ。シガが苗字で、ネーシャが名前だ。随分と親しみを持てる苗字である。


 わざわざ足音を消して俺の部屋に押し入ってきたのは幼馴染の少女で、名前はティア。俺とは同い年の15歳で、5歳の頃からよく懐かれている。


「新聞?」

「そう」


 俺がテーブルに置いた紙を、ティアが覗き込む。


「こんなの読んでて楽しい?」

「これも勉強ってことで」

「勉強? でも、村長は継がないんでしょ?」


 転生した俺はこのシガ村の村長の息子だった。本来なら村長になる道もあったはずだが、事情があって、弟に家督を譲ることが既に確定している。


「騎士団に入るにせよ、世界情勢に詳しくて損はないし」


 とある理由から、俺は将来、王都に本拠地を置く騎士団に入団することになっているのだ。


「ふーん。じゃあ、あたしも読もうかな」

「ティアは字が読めないでしょ」


 村長である父の教育を受けた俺と違って、ティアはただの村娘。ろくな教育機関もない辺境の村では、識字率など知れている。


 もっとも、俺は更に特別で、物心ついた時から流暢に言葉を話せていた。どういうわけか、口語も文語も、俺が元いた世界のものと同じなのだ。


 いかにもご都合主義だが、助かったことには変わりない。夢オチならぬ走馬灯オチでないことを切に祈ろう。


「この前、教えてくれたじゃん」

「一度だけね。それで覚えられるなら苦労は」


 俺の言葉を遮って、ティアが新聞の隅の一単語を指さした。


「ここ。領主って書いてある」

「おいおい、そんな当てずっぽうが当たるわけ」


 疑わしさ半分、前フリ半分の台詞を吐きながら、ティアの指先の単語を見る。


「ほんまや」

「ふふん」


 ティアは絵に書いたようなドヤ顔で、無い胸を反らした。


 正直ビックリだ。まさか、たった一度教えたことを覚えていて、的確に言い当てるとは。もしかすると、秘められた学才があるのかもしれない。


「というか、また変な喋り方になってるよ」


 標準語っぽいこの村で、父親から穏やかな言葉遣いを手荒に叩き込まれつつ15年も暮らした結果、すっかり染まったと思っていたのだが、ふとした時に出てくるものだ。


「こほん」


 誤魔化すように咳払い。


「でも、文章で読めないと意味ないし。やっぱりティアには難しいかもね」


 関西弁を指摘されたこともあり、素直に褒めるのがなんとなく悔しくて、憎まれ口を叩いた。口に出してから、醜い嫉妬だと気づいて、情けなくなる。予め言語を知った状態で生まれ、散々持て囃されてきたというのに、小さい器だ。


「じゃあ、あたしが騎士団に入ったら、ネーちゃんがお世話してね」


 それに憤るどころか認めて頼ってくれるのだから、さらに心が痛む。それこそ情けないので、口に出したりはしないが。


「約束ね」


 ニコッと笑うティア。今生での幼馴染だから慣れきっているが、前世の俺ならコロッと落ちそうなくらいには可愛い。それでいて、騎士団志望の理由も両親への孝行というのだから、気立ても良い。


 そんな彼女に頼られているからと言って、調子には乗らない。前世で学んだのだ。お節介になっては本末転倒。適度な距離感を保つのが吉。


「はいはい。入れたらね。というか、ネーちゃんじゃなくてネーシャ」


 適当にあしらって、俺は再び新聞を手に取った。


 弟はいるが、それなら俺は兄ちゃんだ。姉ちゃんではない。


「やった。じゃあ鍛錬積まないと。ほら、ネーちゃんも一緒に」


 聞いちゃいない。今まで数え切れないほどしたやり取りだが、ティアはネーちゃん呼びが気に入っているのか、一向にやめてくれない。世が世なら虐め認定だぞ。


「朝から鍛錬って、ただの農作業でしょ。行かないよ。今日この時間は新聞を読むって決めたから」

「ちぇ、バレたか」


 思惑を見透かされて、ティアはガックリと肩を落とした。


 実は、ティアとは夕方頃、本当に騎士団に入るための鍛錬を行っている。というか、俺の鍛錬にティアが強引についてくるのだ。本業で疲れているだろうに。


 それでいて俺と同じだけのパフォーマンスを誇るのだから、ただの村娘から騎士団というのも、あながち夢では無いかもしれない。


「というか、こんなところで油売ってていいの? お父さんにどやされるよ」

「ハッ、そうだった。ネーちゃんを呼びに来たんだった」

「僕を?」


 さすがに、わざわざティアを寄越すほどの要件を差し置いて新聞を読み耽るわけにはいかない。






 ティアに連れられ、俺は村の中央にある広場にやって来た。何やら人集りができて、その内側から怒鳴り声が聞こえる。


「おお、ユーシャ様だ」

「ユーシャ様が来たぞ! 道を開けろ!」

「ユーシャじゃない。ネーシャだって」


 外周の人々に細かくツッコミを放ちつつ、騒動の中心へ通してもらう。大人の男二人が、今にも掴みかかりそうな勢いの口論になっていた。


「そこまで。集まった皆も、仕事に戻るように」


 道すがら、ティアから事情を粗方聞いている。人集りを解散させ、当事者二人とティアを残した。


「それじゃあ、それぞれの言い分を聞こうか」


 ティアを残したのは念の為だ。彼らにとっては少し情けない話だが、ティアは俺と鍛錬している分、そこらの男衆より腕が立つ。万が一、二人とも暴れた時には、片方を取り押さえてくれるだろう。


 もっとも、俺がいるのだから、手荒な行動は取らないだろうが。


 実際、怒鳴りあっていた二人は、苛立った様子ながらも、俺の手の甲を見て矛を収めた。


「こいつが、貸した金を返さねぇんだ」


 我慢ならないといった声音で、一方が文句を垂れる。


「なるほど。真っ当な怒りだね。そっちは?」


 もう一人に水を向けると、バツが悪そうに口を開いた。


「もちろん返す気はあるんだ。ただ、金を借りてようやく成り立つ生活なもんで。返すアテがねぇんです」

「お前が怠けてんのが悪ぃんだろ! お前が金を返せば、メシが不味いって子供が泣かずに済むんだ!」


 それを言い訳ととった男が怒鳴り散らす。恫喝に近いが、家族思いなだけに、窘めるのも気が引ける。


 幸いにも、このシガ村は食うに困らぬ程度には肥沃な土地だが、調味料など、農作物以外は行商人頼りだ。


「んなこと言ったって、ねぇもんはねぇ!」

「こらこら。落ち着いて」


 いきり立つ男共を落ち着け、解決策を考える。詳しい原因究明は後にして、ひとまずこの場を収めよう。


「ひとまず、村の蓄えから捻出しよう」

「へ? いや、それはこいつが出すべきで」

「こういうときのための蓄えだから。気にする事はないよ。それに、隣人を助けた行為は賞賛されるべきだからね」

「は、はぁ」


 取り立て方はともかく、金を貸した優しさは本物だ。その報酬として、彼の求めるものは渡すことにする。


「ひとまず、これで借金もチャラということにしておいて」


 予め用意していた調味料入りの袋を、男に渡す。


「そりゃ、俺は文句ねぇけど、そいつは」

「わかってるさ。借金の貸し付け元が僕になっただけ。それでいいよね?」

「それなら、まあ。しっかり絞っといてくれ」


 男は納得して帰って行った。とりあえず、これで再び騒ぎになるようなことはないだろう。


「さすがネーちゃん。ユーシャなだけあるね」


 よく分からないベクトルの褒め方をされたが、立場上、こういったトラブルの解決は慣れっこ。手際も良くなろうというものだ。


「ネーちゃんでもユーシャでもない。ネーシャだって。はぁ、ティアもご苦労さま。もう大丈夫だから」

「はーい。また後でね」


 ひらひらと手を振って、ティアも自分の仕事に戻った。


 さて、残るは僕と、もう一人。借金していた方の男だ。そして、原因究明だが、大方予想はついている。


「えっと? 去年は借金するような人はいなかったはずだけど?」

「それが、去年は調子の良かった芋の栽培が上手くいかなくて」


 あまりに予想通りの答えに、ため息をついた。


「つまり、去年の収穫に味をしめて、同じものを作ろうとしたわけ?」


 語気を強め、詰問する。それが伝わったようで、男は視線を落とした。


 それからはお説教だ。このシガ村では、連作障害を避けるために輪作を行っている。平易に言えば、同じ畑で同じものを作り続けると土の養分が偏り効率が落ちていくので、年ごとに違う作物を作りましょうということだ。


 この方法は、俺が5歳の頃、村の不作に悩む父へ進言した。某農業高校を舞台にしたアニメの知識だ。


 せっかく俺が進言した方法、それも俺が好きだったアニメ由来のものを無視されたら、怒りもする。


「わかったね?」

「はぃ」


 男は粛々と、連作障害についての軽い講義を受け、とぼとぼと帰って行った。反省してくれれば、来年くらいには、村の蓄えも元通りになるだろう。


 たった5歳の提言や高々15歳の説教を、大の大人が真面目に聞いてくれるのは、村長の息子という肩書きだけでなく、やはり手の甲にある紋章の力だろう。


 生まれつき利き手の甲にある紋章。これは、勇者の紋章だ。






 夕暮れ時。俺とティアは、草むらに四肢を投げ出していた。


「はぁ、はぁ。もー限界」


 ティアが呟く。俺も同感だ。とはいえ、俺は勇者。回復力が違う。数分と経たずに立ち上がった。


「ひぃ。やっぱりネーちゃんには敵わないなぁ」

「どの口が言ってんのさ」


 勇者全員に共通するものとして、この回復力と、強靭な身体がある。軽く殴られたくらいでは跡もつかないし、野生の熊を簡単に組み伏せるだけの身体能力が備わっているのだ。


 もっとも、俺は俺以外の勇者を知らないし、熊と戦った訳でもないので、全て新聞の受け売りだが。何ならちょっと誇張されていそうだ。


 ともかく、その俺が本気で疲労困憊になるような鍛錬についてくるなんて、ティアの方こそ化け物としか言えない。


 異世界転生で得たチートが、普通の村娘に追いつかれるっておい。本当に勇者の紋章なのかと、少し疑いを込めて、俺は手の甲の紋章を見つめる。


「ネーちゃんの宝具、いつになったら来るんだろうね?」


 視線の意味など知る由もないティアは、上体を起こしつつそんなことを口にした。


 この紋章を持った者の元には、勇者がかつて持っていたとされる宝具がやってくるらしい。具体的にどうやって来るのか、そもそも真実かもわからないが、王都への報告が義務付けられているあたり、恐らく本当だ。


 勇者として色々と囃し立てられたが、きっと本当に実感を得るのは、その宝具を手にした時だろう。


「さあね。でも、そのときはこの村を去る時だよ」


 宝具を手にした者は、王都への報告と同時に、騎士団にスカウトされることになっている。きっと、この村に戻ることはない。


「そっか。じゃあ、もう少しこのままがいいかなぁ。あたしが騎士団の入団試験を受けられるようになるまで」


 試験が受けられるのは16歳から。一応、性別不問ということになっている。


「ティアの見た目だと、試験を受ける前に帰らされるかもね」

「へ?」

「普通の村娘って感じだしさ。冷やかしだと思われるかも」


 あどけなく首を傾げる様は、全く普通の女の子にしか見えない。その引き締まった身体が強靭なことを俺は知っているが、試験官には伝わらないだろう。


「丸刈りとかにした方が気合い入って見える?」

「そういうことちゃうわ」


 おっと、思わずつっこんでしまった。だが、実際に意味は無いだろう。


 ここよりも貧困なところでは、髪を売って金にしているという話も聞く。その類だと思われて、より舐められるのがオチだ。


「じゃあ、顔を隠すとか」

「体型はどうするの?」

「じゃあじゃあ、フルプレートで」

「それで動ける?」

「動けるようにする!」


 飛び起きて、ティアは両腕を掲げた。そもそも甲冑なんて買えるわけがないのだが、夢を見るのは自由だ。


「それで試験官をボコボコにして、ネーちゃんと同じ隊に入れてもらうんだ」

「勇者の部隊には難しいんじゃない?」

「じゃあネーちゃん以外の勇者をボコボコにして認めてもらう」


 いくらティアでも、勇者相手では分が悪い。というか、勝つのは不可能だ。宝具を手にした勇者は一騎当千。人智を超えた力を振るうのだから。


「そうまでして同じ隊に入りたい?」

「もちろん。だってネーちゃんはあたしの」


 ティアはそこで言葉を区切ると、少し悩む素振りを見せた。おいおい、なんだかドキドキするじゃないか。


「お世話係になる予定だし?」

「がくっ」


 どうせなら、15歳という若さに相応しいアオハル的なお言葉が欲しかったところだ。


 毎度毎度、思わせぶりなところまでは行くのだが、その度に現実的な言葉で殴られる。まあ、幼馴染なんてそんなものだ。


「今日はもう暗くなるし、お開きにしようか」

「はーい。また明日ね」


 毎日土まみれになって訓練をする2人の仲に、色恋なんて期待すべくもない。


 それに、どうせ僕が騎士団に入れば引き裂かれる仲だ。ティアの心意気は嬉しいが、現実はそう簡単にいかない。


 だからこそ、俺ももう少しこのままの日常が続けばいいと思う。


 異世界に転生して手に入れた、この心地よい関係が、もう少し。

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