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プロローグ 主人公にしては陰気すぎるやろ!

「おはよう!」


 ふと振り返ったクラスメイトの元気な挨拶が、俺ではなく、俺の後ろの女子生徒に対してやと察して、俺は何事も無かったように廊下を素通りする。


 案の定、通り過ぎた俺の背後からは、きゃいきゃいと姦しい声が耳を劈いた。


 よくもまあ朝からそんなにはしゃげるもんや。


 朝、極めてローテンションの俺は、心の中でそんな悪態を吐いた。


「はぁ」


 そんな自分に嫌気が差して、誰にも聞こえへん程度に溜息をつく。


 昔はこんな醜い人間ではなかった。さっきの挨拶に返事しても、勘違いを笑ってやり過ごせるタイプの人間やったはずや。


 小学生の頃は、むしろ自分から挨拶をするような明るい子どもやった。誰とでも分け隔てなく接して、友達に何かあればすぐにでも助けに行くような、優しい優等生。少し美化しすぎかもしれんけど、嘘とも言えへん。


 性格が根暗へと傾いたんは、中学生の頃。今でもハッキリと思い出せる。


「〇〇って、たまにうっとおしいやんな」


 放課後、忘れ物を取りに戻った教室で、好きやった女の子の口から発せられた言葉。一言一句違えることなく、胸に刻まれている。


 誰にでも優しかった当時の俺が、特別に感じていた女の子。思い出してみると、向ける気遣いは過剰やったし、お節介やと思われたって無理はない。


 実際、その陰口に怒る気持ちは欠片も湧かんかった。癇癪を起こして怒鳴り散らすどころか、涙も流さんかった。


 ただただ、胸の奥がグッと掴まれたような感覚で、その場に立ち尽くすしかなかった。悲しいというより、苦しい。


 別に、褒められたいわけやなかった。少しでも、彼女にとって役に立つ人間になりたかった。彼女の負担が少しでも取り除かれれば、それだけで満足やった。


 しかし、行き過ぎたそんな想いは、迷惑なんやと知った。


 それからの生活は、それまでとあまり変わりへん。けど、ゆっくりと、俺の中の利他的な精神は削がれていった。


 いや、その精神はそのままやった。誰かの助けになりたい。そんな想いは。


 変わったのは、行動だけや。思いのまま行動する前に、ブレーキを踏むようになった。そのブレーキが、時を増すごとに強くなっていった。


 そうして誰にも手を差し伸べへんくなって、出来上がったのが、高校生の今の俺。


 この瞬間も、荷物をぶちまけたクラスメイトに見て見ぬふりをしている。


 そうして生じる後ろめたさも、今では感じひんフリができるようになった。


 そんな自分が、どうにも嫌でしゃあない。


 それさえも誤魔化すように、俺はアニメや漫画、ゲームの世界にのめり込んだ。そら、向こうでは、お節介こそがヒロインを、世界を救うんやから。たとえ空回っても、迷惑がられることなんてない。


 そうして目を逸らし続けても、時々、どうしようもなく自分が嫌いになる時がある。そういう時は、決まって望ましい死に様なんてことが頭に浮かんだ。


 例えば、交通事故に遭いそうな子どもの身代わりになったり。通り魔からクラスメイトを守ったり。


 思春期特有の妄想に通ずる理想の死に際を夢想しては、ありえへんと首を振る。


 ここまで卑屈なんは、大抵朝だけ。学校で、似たような趣味の友達とどうでもええ会話をしているうちに、気分はマシになってくる。


 とはいえ、死に方なんて物騒なことを考えへんだけで、根っこにある暗い感情は消えへん。放課後、独りで帰るときなんかは特に。


 俺と同じ帰宅途中の男子生徒たち。道を塞ぐように横並びになって、ゲラゲラ笑う彼らを、早足で黙って追い越す。舌打ちを堪えながら。


 生まれは関西でも、どちらかと言うと、話にオチをつけることを強制される風土より、皮肉屋な部分が濃い地域に生まれた。そのせいもあるんか、嫌いなタイプの人間には、心の中でやたらボキャブラリーに富んだ罵詈雑言が浮かぶ。


 もちろん、理解することを放棄して嫌ってばかりの自分にも、矛先は向く。


 とはいえ、そんだけ嫌いな自分でも、どうせ消えるんやったら、人の一人でも助けて消える方が、生きた甲斐もあるってもんや。


 そう考えつつも、やってることはいつもと一緒。猫背でスマホを見ながら、狭いホームで電車を待っている。列車通過のアナウンスが流れ、顔を上げたその瞬間。


 衝撃が背中を襲った。浮遊感と共に、体が線路へと投げ出される。


 世界がスローモーションに見える。まるで、これから生きるはずやった時間をこの一瞬に詰め込んでいるかのように、ゆっくりと時間が流れる。こんだけ遅かったら、すぐ目の前に迫っている電車にぶつかっても、軽傷で済むんとちゃうか。


 これから死ぬんやということが、どうにも受け入れられへんまま、俺は反射で体を捻り、犯人を見た。


 さっき追い越した、男子高校生ども。その一団が俺にぶつかったんや。くそ、こんな奴らのせいで。


 残された一秒、必死で恨みの目を向ける。しかし、彼らの反応は、俺の予想とは違った。


 なんで、俺に申し訳なさそうな顔すんねん。もっと、自分のために焦れよ。これから人殺しになるんやぞ。


 そんな顔されたら、ざまあみろって思えへんやんけ。


 まるで他人事のような衝撃音を最後に、俺の意識は消え去った。






 結局、俺は理想の死に際と程遠い最期を迎えた。


 けれど不思議と、何かを恨む気にはならへんかった。むしろ、俺のことは気にせんとってくれと思ってる。


 いっそ清々しい気分や。勿論、未練がないわけやない。


 例えば、俺の人生にはラブコメが足りひんかった。陰でフラれとったんやから、当たり前やけど。


 今更強欲になるとしたら、アニメみたいなラブコメが欲しかった。とは言っても、ラブコメの主人公がこんな関西弁やった試しないけど。思いつくんは、某高校生探偵くらいのもんや。


 てか、いつまで下らんエピローグ垂れ流すんや。蛇足が過ぎるやろ。なんで死に際にサブキャラのラブコメを羨ましがらなあかんねん。死に際に流す血液はから紅ってか。やかましいわ。


 せっかく、どんだけ卑屈でも結局は人を嫌いになられへんかった的な、真っ当なエンディング迎えたったっちゅうのに。こんだけ思考が巡る時間あったら、とっくに死んどるやろ。それか逆に生き返れや。


 体の感覚も一切ないのに、無駄によう回る頭や。血が流れとる感覚もないし、脳も動いてへんはずやろ。もしかして、魂ってやつか。ほんまにあるんやな。


 およそ最期の最後に相応しくない思考の途中で、俺の魂を謎の衝撃が襲った。まるで、焼印を押されるような感覚。焼印、押されたことないけど。


 今度こそ、終わりの時か。思考が薄れていくのがわかる。


 願わくば、あの感覚が地獄行きの烙印でないことを祈ろう。






 次に思考が戻ってきたときには、体の感覚も共にあった。ただ、最初に生まれてから成長を続け、慣れ親しんだ体とは違う。


 頭でっかちで、立ち上がることなんてできそうもない。四肢もびっくりするくらい短くて、兎角思い通りには動かへん。


 何とか体を捻って周りを見回すと、やっぱり見覚えはない。家の中ではあるやろうけど、現代日本とは思えへんくらいお粗末な造りや。


 無いに等しい腹筋を使って自分の体を見る。思った通り、赤ちゃんの体。


 てことはこれ、異世界転生ってやつか。


 妄想する分にはテンション上がるけど、実際に起こってみると、正直不安しかない。今んとこ、特別な力みたいなんも感じひんし。なんや、右手に変なマークがついとるけど。もしかして、あの焼印ってこれか。赤子に焼印て、どんな文化やねん。


 まあ、所詮は拾った命や。これが劣等生の烙印やろうと、今度こそ、人の一人でも救って、有意義な人生で幕を下ろそうやないか。

関西弁濃度が高いのはプロローグのみです。

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