第48章冬休み編 安らぎのひと時(後編)
中に入るとすでに料理が出揃っていた。
「速く」
「あぁ」
紅希に呼ばれ二人はソファに腰を下ろした。
リビングの真ん中に横長のテーブルがあり、その左右と後ろにソファが置いてある。ついでに言うと、テーブルの前には大型の薄型テレビが置いてある。
ソファの座り方はテーブルの左側のソファに桜と聖華、テーブルの後ろに良祐と立花、右側には空と紅希が座っている。
「え~それじゃ、かんぱ~い!」
「かんぱ~い!!」
コップを手に持ち空の言葉でパーティーは始まった。
なぜか空が乾杯の合図をしたのかは分からないが、おそらく縁側にいるときにでも決めたのだろう。
「うまいわ~」
空が料理を口に入れて満面の笑みで言った。
「たく、食べながら喋るなよ」
コップに入っているファンタスを口元に運びながら良祐が注意すると、隣にいる立花が良祐の肩に腕をかけた。
「今日は無礼講だから何をやっても良いだろ」
「っちょ、無礼講の意味微妙にちがくない?」
「まぁまぁ」
楽しそうに紅希はなだめた。
桜は聖華と一緒に楽しくお話しながら、料理を食べている。
「ん、コンポあるじゃん。先輩使って良い?」
「えぇ、良いわよ。けどCD持ってる?」
「あ・・・・」
CDを持っていないことに気付く空に対し良祐は、皿にフライドチキンを置き、ナプキンで手と口を拭くと思い出したように桜に声をかけた。
「たしか先輩、UVER持ってましたよね?」
「えぇ。それで良いなら持って来るけど・・・・・」
皆に聞くと立花は「別に良いけど」と答え、聖華も頷き、空と紅希に限っては滅茶苦茶喜んだ。
「じゃ、持って来るわね」
桜は手と口元を拭くと二階の自分の部屋にとりに行った。
「・・・・・・・」
桜の足音が階段を登っている時、リビングでは四人は良祐に視線を向けていた。
「ん?何ですか?」
さっき皿に置いたフライドチキンを食べていると周りの視線に気付き食べるのを止めた。
「よく、桜がUVER好きなの知っていたわね」
「ああ、その事ですか」
聖華の言葉でなぜ皆、自分を見ているか分かった。
「いや、先輩が退院してきて数日後にメイン広場でウォークマンで音楽聴きながら寝てたんですよ。」
ふむふむ、と皆、フライドポテトや飲み物を手にして良祐の言葉に集中していた。
「で、隣に人が座ったんで、誰かと思って目を開けると先輩がいて、「何聞いているの」と聞かれて、まぁ、それから色々と・・・・・」
話し終え、コップを手に取り、飲んでいると聖華はとんでもない事を口にした。
「・・・高藤君ってもしかして桜の事好きなの?」
「っぶ!・・・あぶね」
聖華の言葉にビックリして飲み物を吹き出しそうになったのをコップを持っていた手の甲で止めた。
「な、何いってんすか勇美さん!!」
「あら、違うの?」
素で聞いてくる聖華に良祐は顔を真っ赤にして否定した。
「違いますよ」
「そう、つまんないの」
「アンタねぇ」
コップに入っているファンタスを飲んでしまった良祐は、テーブルの近くにあるペットボトルを紅希に取ってもらった。
そのとき、階段から足音が聞こえてきた。
「お待たせ。って、あれ?料理減って無いけど・・・・」
テーブルを見ると料理が余り減ってないことに気付いた。
「桜待ってたのよ。っね、高藤君?」
「オレに振る?」
いきなり話を振られたのでビックリする良祐だったが
「・・・そうそう、先輩を待ってたんですよ」
と、笑顔で桜に答えた。
「そうなの?ごめんなさい」
「いいのよ。ほら、桜!」
「オレがやっときますよ」
空が桜の手にあるCDを見た。
「お願いね、空」
「お任せ」
受け取った空はコンポにCDを入れ、音楽を流し始めた。
「よし、少し聞いたら歌うぞ空!!」
「おうよ!!」
立花と空は、バリバリテンションが上がってきた。
「おいおい、コンポはカラオケじゃねぇぞ」
「歌えれば何でも良いんだよ!」
(ダメだこりゃ)
呆れてフライドポテトを口に入れていると紅希がある一点を見ていた。
「ん?」
紅希の視線を追うと、桜と楽しく喋っている聖華がいた。
「ほ~」
「あ、りょ、りょうすけ?」
良祐がニヤニヤして紅希を見ていた。
「な、何?」
「勇美さんばっか見てんなよ」
「なっ?」
めったに赤くならない紅希が赤くなった。
「こういう時は、分かりやすいな」
「うう、秘密にしてよ?」
「おう、安心しろ」
約束するとお寿司を手に取り口に入れると、流し始めた歌が終わり、次の曲が始まった。
「よし、歌うぞ。空!!」
「了解!!」
立花と空は立ち上がり肩を組み歌い始めた。
「いつか受け入れられるようにと~」
「いいぞ二人とも」
歌い始めると二人は結構、上手かったので驚く良祐と、元から歌が上手い事を知っていた聖華は、二人をおだてた。
「紅希も来い!!」
「うん」
空に声を掛けられた紅希は立ち上がり二人と歌い始めた。
「カッコいいよ、成瀬君」
カッコいいと言われ赤くなる紅希を見て良祐は笑みを浮かべた。
「三人とも楽しそうね」
「そうっすね。・・・ん?」
隣から声を掛けられたと気付き横を見ると、桜が座っていた。
「・・・・・」
「んん?どうしたの?」
「嫌なんでもないっす」
首をかしげる桜から、恥ずかしくなって視線を縁側に向けると
「あっ!」
「ん?」
「雪・・・」
「えっ?」
良祐の言葉を聞き、縁側に視線を向けると雪がユラユラと降っていた。
「おぉ」
歌っていた三人も聖華も外の景色に視線が行った。
縁側に移動し、空を見上げた。
「今年は、最高のクリスマスだな」
「あぁ」
「えぇ」
良祐の言葉に立花と桜が頷いた。
「よ~し、隊長!歌いますか!!」
「おう!!」
「またかよ?」
良祐が立花たちに言うと「おう」と言いテーブルにもどった。
「そうそう、ケーキもあるんだから」
「そうだった」
と聖華の言葉に桜もケーキの存在を忘れていたらしい。
「ま、いっか」
降り続ける雪を見ながら、良祐は呟き祈った。
できれば、この安らぎのひと時がいつまでも続きますように、と。
次回から決戦編に入ります。お楽しみに。