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時代小説

大原御幸

作者: 語り手不知 琵琶法師

 ここは大原 寂光院 黒い本尊が 立つお堂

 今は昔の 鳳蝶(アゲハチョウ) 京の都は 夢の跡 その人は 今は寂れた 庵におわす

 訪れたのは 大天狗 時の上皇 今様の人 (いみな)を雅仁

 花を手に 女院がみえる 


 静けさの中 上皇は問う

「このような 何と侘しく 辛いことよ」

 手を合わせ 女院は言う

「京にあり 栄えた頃は 殿上(天上)

 四苦と八苦は 人間道 清経の 吹く笛の音が 偲ばれる

 戦にあって 修羅のごと 白と漁船に 打ち震え

 船の上では 餓鬼となり

 一門滅び 地獄道

 穢土は六道を 辿る生 四苦も八苦も 知りました」


「畜生は いずこぞ」と


 問う上皇に 手を合わせ言う


「海の底」


 すると天狗は はらはらと 涙を流す

 何を隠そう その人は 人王で 八十代目 諱を言仁(ときひと) 8歳で 剣と共に 海に沈んだ

 女院の子 つまり天狗の 孫となる

 女院の母たる 二位殿は 先帝と剣を 抱き水底へ


「二位殿曰く」


 女院は続け 宣り給う


「波の下にも都の候うぞ」


 波の下 つまり竜宮 竜は畜生

 先帝は そこに居られて びんづら揺らし 山鳩色の 御衣を身につけ 菩提の成就 祈られ給う


「主上のことを 忘れることなど できません ですがこうして 手を合わせ 御子の菩提を 祈り 奉る」


 上皇は目に 涙を湛え 堪え堪えて(こらえこらえて) 御幸を終えた

 これぞ大原 御幸なり


 さて、今おわす 黒い御本尊 世は末法 二千年 庵ごと 焼け落ちた

 お姿は 痛ましい しかしその 胎の内には 小地蔵 焼けることなく 守られた

 そうそれは 我が子を庇う 親のよう


 終生という 永きに渡り 祈られた 女院の思い その尊さよ

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