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昼の特訓

私たちの部屋に服や細々としたものも運びこんでいたら、いつの間にか明け方になっていた。

前世で言うと、今の時刻は午前八時くらい。

ヴァンパイアの時間でまわるうちの屋敷は今、ひっそりと寝静まっている。

私は音を立てないように裸足で、ふかふかのカーペットが敷かれた廊下を歩いていた。


私たちの部屋や両親の寝室がある二階から下りて、一階のキッチンにある裏口から庭にでる。

庭には芝生が敷かれているので、足の裏は傷つかない。


すぅぅっと大きく息を吸う。

庭には爽やかな初夏の空気が満ちていた。


両親の寝室の窓からは死角になっている空き地の、ふかふかの草の上に横になる。

ここは日当たりがよく、温かい。

人間にはお昼寝にぴったりだが、ヴァンパイアには悪条件の土地だ。


ヴァンパイアである私がなぜそんな場所にいるのかというと、私のスキルと関係がある。

私が持つスキル、「日光耐性Lv.7」。

このスキルのおかげで、直射日光に一時間当たってもHPが三分の一程度減るだけだ。

「HP回復Lv.5」もあるので、こんな場所に居ようと死ぬことはない。

そしてそれらのスキルを成長させるため、私は春、夏、秋の間、この場所で睡眠を取っているのだ。

部屋にあるふかふかのベッドはもったいないが、日の光が射さなくなる冬になるまではお預けだ。


と。今でこそこんな荒業ができるようになったが、初めのころは本当に大変だった。

なにせ昼間の日光を直接浴びたら一瞬でHPが0になってしまうのだ。

夕方に外に出て建物の影のなかに入ってみたり、昼間指一本だけをカーテンの外に出してみたり。

「日光耐性」がLv.3になってなんとか昼間、外に出られるようにはなったが目がついて行かなくて眩しいのを我慢したり。


そんなことを繰り返してやっと、昼間にも外に出られるようになった。

・・・Lv.5になっても外で寝られるほどじゃなかったから、HPが枯渇しそうになるまで歌を歌いながら待っていたりしたら「歌唱」スキルを会得したんだけどね。

そのときには辛かったが、過ぎてしまえばいい思い出だ。

自分の努力の成果がレベルという形で見えるのはとても嬉しい。

前世から歌うのは好きだったから、「歌唱」はかなり嬉しいスキルなのだ。


・・・スキルの効果が出ているのかどうか、自分じゃよくわかってないんだけどね。

そんなことをぼんやりと考えながら、私は眠くなるのを待った。


それにしても広い庭である。

広いだけでなく、視界いっぱいに広がる芝生には手入れが行き届いている。

父も、母も、元は優秀な冒険者であったということだろう。

うちの家は領主の一家だが、ヴァンパイアの領主に統治権はない。

よって税収もなく、この屋敷を購入し、維持しているのは両親たち自身なのだ。


なぜこんなことがおきるのかというと、話は人の血を吸うヴァンパイアがいた頃にまで遡る。

吸血鬼と呼ばれ、人間からも同族であるヴァンパイアの血を吸わないものたちからも蔑まれていた彼らは、自分たちの縄張りを持たせてもらうことを人間の王に交渉していた。

縄張りの中ならば、誰の血を吸ってもいいよ、と言ってもらいたかったのだ。

ヴァンパイアは出生率が低いから、一人の領主の領地を一人のヴァンパイアの縄張りとしても問題はない。

しかし、そりゃあ人間も知らない間に血を吸われるのは嫌な訳だ。

人間の王はそれを許可しなかった。


その交渉が許可されたのは、吸血鬼たちがいなくなってからだった。

憐れ吸血鬼たちよ。

吸血鬼たちがいなくなったら意味ないのでは?と思う。

しかし、そこは種族どうしの建前云々があるわけだ。


そしてその縄張りは、血を吸わないヴァンパイアたちが受け取ることとなった。

勝手に領民の血を吸わないこと、問題を起こさないこと、という条件付きで。

問題を起こされたらもちろん困るし、血を吸わないヴァンパイアでも血を吸うことはできるから。

よって、ヴァンパイアたちはそれぞれ統治権のない領地を持つこととなった。

ヴァンパイアは出生率が低い代わりに身体能力が非常に高く、冒険者として稼いだり、中には人間の国の英雄となったりする者もいるほどだから税収がなくとも食うには困らない。


ちなみに、統治権を持つ人間の領主は別にいる。

領地の一番都会の街の真ん中にドーンとあるお屋敷に住んでいるらしい。

昔見に行ったとマリッサが話していた。

会ったことはない。そもそもこの家から出たことがないのだ。


日常生活はこの屋敷の中で事足りるし、両親と一緒にスーパーに行くなんてこともない。

人間たちがやっているお店は昼間にしか開いていないところが多いし、私が昼間外に出られることは秘密だからだ。

ヴァンパイアの見た目は人間と変わらないので混乱を招くというわけでもないのだが、そんなことがあって私はいまだに異世界の街を体験できていない。


今はこの屋敷の中で十分に楽しめているが、外に出られる機会があれば出てみたいものだ。

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