部屋の引っ越し
いつのまにかブクマが五個もついていました。
ありがとうございます!
子供部屋に戻ると、メイドのマリッサが腕まくりをして他のメイドたちに指示を出していた。
私たちの服や手鏡などはそれぞれの新しい部屋へ。
ベッドなど共用で使っていたものは物置に収納されるらしい。
「マリッサ」
私たちが声をかけると、マリッサ笑顔になって振り向いた。
「お嬢様方はソファに座って待っていてください。もう少ししたら新しい専属メイドが部屋にご案内いたします。」
「専属?」
そう呟いた私たちに、マリッサが教えてくれた。
マリッサは本来母さんについていた筆頭専属メイドで、私たちの乳母としてこれまで私たちについていてくれたそうだ。
私たちにはそれぞれの部屋が与えられることになったので、母さんのメイドに戻る。
そしてこれまで面倒を見てくれていたマリッサに代わって私たちに付けられるのが、私たちの専属メイドなのだ。
メイド、というよりも、おばさんと呼んだ方がいいような気がするほど親しんでいたマリッサと離れなければならないのは寂しいが、もとは母さんの専属だったのだから仕方ない。
屋敷勤めを辞める訳ではないのだから、またすぐに会えるだろう。
ソファに並んで座って子供部屋から物がなくなっていく様子を眺めていたら、他のメイドたちとは少し違う、マリッサと同じ色のお仕着せを着た二人のメイドが部屋に入ってきた。
二人とも茶色と金色の中間のようなウェーブがかった髪をおだんごにまとめている。
深い葡萄色の瞳や顔立ちまでよく似ているところを見ると、二人も私たちと同じように双子なのだろうか。
「お嬢様、ご紹介いたします。ルルお嬢様の専属となるスカーレット、ルナお嬢様の専属となるルベルでございます。」
「ルルお嬢様。スカーレットと申します。お嬢様の専属になれて嬉しいです。」
「ルナお嬢様。ルベルと申します。今後、ご用は私にお言いつけくださいませ。」
スカーレットとルベルは見た目はかなり似ているが、性格はそれぞれ違うようだ。
さっきの言葉や見た目から、ルベルが姉でスカーレットが妹だろう。
それぞれの足りないところを補えるようにつけられたのかもしれない。
「あ、よ、よろしくお願いします・・・。」
ルル姉さんはかなり戸惑っているようだ。
マリッサと同じような感覚でいいと思うのだが。
一般市民として20年以上生きた後だと、やはり戸惑うのだろうか。
「わかった。ルベル、よろしくね!」
小首をかしげてそう言ってみる。
自分で言うのもなんだが、美少女スマイルだ。
大学生くらいの姉タイプであるルベルには効果があるのではと思う。
ルベルはふわっと微笑んでくれた。
ルル姉さんほどではないが、ルベルもなかなかの美人だ。
ルベルの微笑みにはすごい包容力があった。
「それではお嬢様。新しいお部屋にご案内致します。」
私とルベルのやり取りが終わった頃、姉さんとスカーレットも短い自己紹介を済ませたらしい。
ルベルとスカーレットの言葉が揃った。
すっかりがらんとして月光の差し込んでいる子供部屋を後にして、私たちは廊下を歩いた。
一番北のつきあたりにルル姉さんと私の部屋は向かい合っていた。
向かって右側がルル姉さん、左側が私の部屋だ。
一列になって歩いていたスカーレットとルベルが二手にわかれ、音もたてずにドアを開ける。
「わぁっ!広い!」
思わず声が出た。
前世で住んでいた一軒家のまるまる一階分と同じくらい広いのではないかと思うほどの部屋に、水色を基調とした家具が広々と置かれている。
この他に、部屋には専用のシャワールームもついているようだ。
全体的に青や水色の多い部屋だが、差し色にピンクやクリーム色のクッションなどをおいて女の子らしい部屋となっている。
母さんのセンスはさすがだ。
姉さんの部屋はピンクが基調の部屋だが、ベッドやテーブルには素材の木の色が生かされていて適度に大人っぽい。
「姉さんらしい部屋だね。」
そう伝えると、「ルナの部屋もルナらしいなぁとおもったわよ?」と返された。
全体的にシンプルなのに女の子らしい。というのが空音のイメージだったそうだ。
「水色とピンク。私たちのテーマカラーかもね。」と、姉さんは言った。
私たちの髪はピンクブロンドで、瞳は父譲りのアイスブルーだからだろうか。
母さんからの遺伝はどうした?
という感じだが、母さんいわく母方の祖母に似た髪の色だそうだ。
髪だけでなく、姉さんの顔立ちは母さんに似ている。
垂れ目がちでおっとりとした、でも雰囲気には強い芯を感じさせる女性だ。
私の顔立ちは父さん似で、いわゆるアーモンド形の目をしている。
顔立ちは整っているのだが、気を付けていないと騎士の父さんのように強そうに見えてしまうのが気になっている。
これは皆には秘密だ。
「テーマカラーにしようか?」
とおどけてみる。
「じゃあ今度から、持ち物に刺繡するイニシャルはピンクと水色にしてもらいましょうか。」
姉さんは花の咲くような笑顔でそう返してくれた。