とある街の、小さな時計職人(オルロジェ)。
私の見てる世界は本物ですか?
私の中にある想いは本物ですか?
私の真実は、本物ですか?
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止まったままの、懐中時計。
私はそれを受け取って。
いつも通り、ネジを外して分解する。
──私はとある街の、小さな時計職人。
欠けた歯車を入れ替えて、油を差して、重ねた指で巻くゼンマイ。
音を立てずに動き出した時計の針は。
ただ前へと、前へと進む。
──右回り。
追いかけて、追いついたら、また追い越して。
同じ場所を通ってグルグルと。
その場所に、一度しかない瞬間を、何度も重ねて。
時計の針は、形のない『時間』を今に描いて、懐中時計の中に閉じ込める。
──ここにない『音』。
…………
……タク。
……チクタク。
チクタク、チクタク。
耳をすませば、私の中で広がる、見えない世界。
ゆっくりと、音が流れ続けるこの場所で。
視線を逸らした、数秒間……
視線を戻した先で、時計の針は一瞬止まって見えた。
──そう、きっとそれが真実。
私の目では追えない間隔で、確かに時計の針は一瞬止まってる。
だけどそれを私は認識出来なくて。
だから私の頭は予測して、そうであるだろうと、動いていると、あるべき答えを、私に言う。
だから私はそうであると頷いて。
あるべき答えを、心に描いて、理解する。
それはきっと、これから先も変わらずに──
辿り着くことの出来ない、真実の世界がそこにはあるの……
そんな私の心は、いつでも『何か』に『何か』を重ねてる。
彼は誰時に、心は希望を抱いて。
黄昏時に、心は憂いを抱く。
流れる世界で、映る景色はもう無垢なままとはいかないけれど……
いつもどこか歪んで届く景色は、心に想いを重ねた私の世界。
偽りだらけの私の世界が、ここにはあるの。
──それならね。
私の頭が追いつく前の、ほんの一瞬。
左の胸と頭の丁度、中間辺り。
目に映って頭に届くまでの時間の中に、私の知らない、真実は詰まってる。
──それはまるで不思議の国の住人みたいに。
私はいつも世界を彷徨って、真実を探す一人の少女。
動き続ける時間の中で。
変わり続ける私の中で。
目に映る全てが歪んだ世界で。
私の真実は本当に本物ですか?
何が正しいかもわからなくなったこんな世界で。
例えばそれを言葉に変えるなら。
そう、この世界の全てはきっともう、私の夢で出来ている──
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私の見てる世界は本物ですか?
私の中にある想いは本物ですか?
私の真実は、本物ですか?
私はとある街の、小さな時計職人。
そこにいる、本当の『キミ』に会いたいな。