わたしの婚約者は…第2王子様
公爵令嬢のアイリス・ピーターソン。この国の宰相閣下を父に持ち、皇太子の婚約者で巨乳の姉を持ち、いづれは父の後を継ぐ秀才の兄を持つ。しかし、自分には何もないと思っているのだ。
そんなことはない。ピーターソンの血筋は歴代シルバーヘアにアイスブルーの瞳を持つ。アイリスは姉とは違いさらさらのストレートヘアだった。小さな顔を強調させるような一際目立つ大きな瞳に、筋のとおった鼻、形は整っているが誘惑するような赤いぷっくりとした唇は姉と一緒だった。みなが美少女に羨望の眼差しを向けていることを彼女は知らなかった。そして、公爵家に相応しい教育を施されているためどこに出しても恥ずかしくない所作はとても優雅で美しい。その動作に周りが感嘆のため息を漏らしているのも彼女は知らないのだ。そして、自分には何もないと、ピーターソンの変わることのない貧乳を受け継いだとぺたんこのそれにため息を漏らしたのだった。
今年から高等教育へと移ったため、兄と姉と同じ学舎だ。初等教育と高等教育は登校する時間すら違うため、二人で学園に向かう様を少し羨ましく思っていたアイリスは、同じ馬車に乗り、同じように登校できることをとても嬉しく、そして誇らしかったのだ。兄と姉に引け目を感じていても、兄と姉のことが大好きなことには変わりなく、そんな兄と姉がみんなから誉められることも、素晴らしい地位にいることもアイリスにとっては自分のことのように嬉しかったのだった。
アイリスの学年はライムグリーンの色を制服として纏う。これもまた、兄や姉のガーネットやジャングルグリーンのような落ち着いた色が良かったのにと羨ましく思っているのは秘密にしていた。なぜなら、今年から兄や姉のように落ち着いた色の制服を纏い、初等教育の頃とは違った大人な魅力溢れる女性になるのだと息巻いていたからだ。それなのに、ライムイエローとは。とても明るく好きな色ではあるが、落ち着いた女性を連想させるかといえば、否、だとアイリスは落ち込んだのだった。
学年の色はその年の首席と生徒会で話し合い、できるだけ在学する学年の色とは異なるようにして決められていた。去年卒業された先輩方の色はコーラルピンクだった。ちょっと明るすぎるなと思っていたのに、ライムイエローも色は違えど明るい系統は同じだ。それに、首席をとるだけの頭がなかったのだから文句は言えないとアメリアは首席をとった方を頭に思い浮かべていた。
その方は、ウィリアム・トーテム・ラス・ハウゼント。この国の第2王子だった。
兄とは違い、幼い頃より帝王学を学ぶこともなく遊びたいときには庭を走り回り、体に合わない木刀を遊び道具だと振り回し、自由に成長した。しかし、この弟もまた兄を慕い、敬い、いずれは兄が導くこの国を陰ながら支えたいといつからか考えるようになっていた。そのために、勉学に励み、剣を鍛え、今では勉学では主席をとるまでにいたり、近衛と対等に戦えるまでに剣の腕も磨かれていた。しかし、それでも幼い頃より帝王学を学び、いずれは皇帝としてこの国を導いていくと考えていた兄には、勉学も剣も勝てたことがなかった。そんな兄を更に尊敬し自分を高めようと奮闘する男は実直で健気であった。
お互いの姉や兄が幼馴染みのように近い存在で成長したように、アイリスとウィリアムもまた同い年ということもあり幼馴染みのように成長したのだった。
お互いの成長過程を間近で見ながら過ごし、段々とアイリスは女らしく、ウィリアムは男らしくなり、それぞれがいつのまにか自分とは違うのだと理解し、そして、なぜか目でおってしまうほど気になる存在と、なっていた。あぁ、これが恋なのかと気づいても、次の一歩をだすことができないとお互いがその場で足踏みをしていた。
それはなぜなのだろう。アイリスはこう思っていた。
成長してもこんな貧乳、女としてなんの魅力もない。貧乳のを弾いたお姉さまのあの巨乳とまではいかなくても、あの半分、いいえ、あの1/3の大きさでもあったら、リアムのことを胸を揺らして誘惑だって出来たのに、アイリスは自分の貧乳を嘆いたのだった。
だからだろうか、アイリスはウィリアムが決めたこの制服の色を大人っぽくないとは思っていても、完全に嫌なわけではなく、どこか愛おしくも思っていたのだった。
リアムはこの色が好きなのだろうかとか、なぜか最近のクローゼットはライムイエローに似たような色の洋服ばかりが増えている気がするとアイリスはほんのり頬を赤く染めた。
ライムイエローのエンパイアスタイルの洋服に袖を通した。裾はライムイエローの生地の上から白いシフォンがひらひらと重なり、リボンなど可愛いものがすきなアイリスにとっては少し大人びたものだった。
そして、料理人が用意してくれたサンドイッチを籠に入れると、それを持ってお出かけの予定だった。
アイリスは玄関ホールで侍女に行って参りますと挨拶し外に出ようとした。
「アイリ、どこかへお出かけですか」
後ろから掛けられた声に心が弾む。大好きな姉の声だとすぐに気づいた。
「リアムと街に行く約束を」
「まぁ、リアム様と。道中気をつけて楽しんでいらっしゃい」
そう微笑む姉のアメリアは、最近さらに美しくなったと評判だった。婚約者のオリバー様に愛されて幸せなのねとアイリスはまた少し姉が羨ましく思った。
アメリアの髪には、婚約者から贈られた家紋付きのバレッタがあった。ラピスラズリの色をしたそれは婚約者の瞳と同じ色だ。それを大事に毎晩自らの手で磨いている姉の姿をアイリスはこっそり覗き見していた。愛おしそうに大切にするその姿がとても綺麗で、わたくしにもそのようなお方ができたらと、リアムを思い出しアイリスは泣きそうな気持ちになったのを思い出したのだった。
アメリアに行って参りますと伝えると、従者がすでに玄関前につけていた馬車に乗り込む。
下級貴族とは違い、馬車の中のバーガンティーの色をした座面はクッション性に優れている。それにもしもの時のために側面や背面の壁にも薄くクッションが施されてあった。馬車の揺れも最小限に留められるようにスプリングもしっかりとしているのだが、念には念をと揺れで体勢が崩れてどこかで体をぶつけてもあまり痛くないようになっているのだ。この馬車はアメリアが生まれたときに可愛さのあまりアメリアが馬車でけがをしないように父親が特注で作らせたものだった。
今では内装を真似て王宮専用馬車までもこのような作りだ。それもまた、オリバーがアメリアを想って造らせたのだった。
姉は誰からもどこまでも愛されているのに、わたくしは妹なのに、姉との比較対象でしかないと自分を卑下してしまうのはアイリスの良くないとこだった。しかし、環境が彼女をそうさせてしまったというのはある。皇太子妃に望まれ、小さな時から皇太子妃になるための立ち居振舞いや言葉遣いだけではなく勉学においても叩き込まれているため諸々の隣国の人と通訳なしに会話できることは当たり前であり、帝国一の美女と云われ、そして貧乳をはね除け巨乳をもっているのにほっそりとした括れた腰回りからは考えられないような形良く程よい筋肉と脂肪を兼ね備えたヒップラインからすらりと伸びる足、花よ蝶よと愛された姉がいつも隣に立ってきたのだ。
幼き頃より比較の言葉を投げかけられたアイリスが、アメリアと比べて卑下してしまうのは仕方のないことかもしれない。
それでも、姉のことが好きで隣にいられることが嬉しいと思えるような真っ直ぐな娘に育ったことは、両親ともに誇りに思っていることを本人は知らなかった。
約束の場所に着くとすでにウィリアムは待っていた。金髪碧眼の中性的な印象をもつ整った容姿の父や兄とは違い、母の遺伝子をより濃く受け継いだその容姿はどちらかと言えばつり目で無骨な印象を与えやすい、良く言えば男らしいものだった。赤髪でエメラルドグリーンの瞳もまた母親ゆずりであり兄弟で並んでも外見だけでは兄弟とは分からないくらいだった。それに比べピーターソンの兄妹は並ばなくても兄妹だとわかるくらい、悪くいえば似たり寄ったりの容姿だった。
「リアム、お待たせいたしました。疲れているように見えますが、随分お待たせしてしまったかしら」
「いや、それよりも今日はどこへ」
ウィリアムのぶっきらぼうな物言いも二人の間では普通であり、素の彼を見られるのはとても嬉しいとアイリスは思うだけだ。
だけど、アイリスは知っている。皇太子とは違うかっこよさをもつ彼が、通りすぎる女性たちに頬を赤らめながら見られていても素知らぬ素振りであり、声をかけられても無視したり、無視はしなくても興味なさそうに腕を組んだまま話を聞いたりしているのに対し、必ず返事を返してくれるし、時々ではあるが笑顔を向けてくれることを。アイリス以外の女性には基本的に関心を向けていないことは、誰が見ても一目瞭然であった。それもまたアイリスはわかっていた。ウィリアムにとって自分は他の女性たちとは違う、それがアイリスにとってはこそばゆいような嬉しさをもたらせるのだった。
「どこへ行くかは決まってないのだけど、サンドイッチを持ってきたの。だから、どこか一緒に食べられるとこが良いわ」
サンドイッチの入った籠を大切に片手でもつ。
「あぁ、なら、王立植物園でも行くか?あそこなら広場もあるし、ベンチもあるだろ」
「それは良いわ。リアムとならどこでも美味しく食べられるけど、花たちに囲まれて食べるのはさらに美味しくなるわね」
ウィリアムの手がサンドイッチの籠に触れる。籠をもつと言ってはくれないが、行動で示すのはいつものことだった。
ありがとうとウィリアムの手に籠を預けて、ふと見上げるようにウィリアムを見た。
心なしか顔が赤い?そう思ったアイリスだったが、今日は天気も良く気温も温かいからだわと、ウィリアムの心情を推し測ることはできなかった。
公爵家の馬車はアイリスを送り届けると、兄のイーサンが使用したいと言っていたため帰路についていた。植物園までは今いる場所にからは少し遠く、馬車で30分ほどかかる場所にあったため、そこへ行く方法をアイリスは思案していた。それに気づいたウィリアムは、少し離れたとこに馬車を待たせてあると、籠をもつ手とは反対の手をアイリスに差し出した。
皇室専用の馬車に揺られながら、植物園に着くまでの30分、最近の出来事や婚約した姉や兄の話で話題は途切れることなく、あっという間に目的地にたどり着いた。
進行方向に背を向けてウィリアムが座り、正面にアイリスが座っていた。あまり乗り物が得意ではないアイリスを気遣った位置だということをアイリスは知っていた。さりげない優しさがウィリアムの良いところであり、自分だけが知っていると思うと優越感もあった。
パラソルつきのテーブルにサンドイッチと、冷たいコーヒーを並べる。
いつもであれば、正面に座るウィリアムがなぜか隣のイスに腰を掛けていた。いつもよりも距離が近いが、横を向かないと顔が見れない。
顔が見たいからと横を見るのは、公爵令嬢としての品位が保てないと見栄を張るが、単に恥ずかしいことが一番の理由だとはアイリスは頭を振って、そうじゃないと自分に言い聞かせた。
今日の中身はね、とサンドウィッチの具をウィリアムに伝えながら何を食べようかと考えていた。
これがオススメと、チキンの照り焼きとレタスが入ったサンドウィッチを一つ取り、ウィリアムに渡そうと身体を横に向けた。
いつもだったら、ありがとうと言ってすぐに受け取るはずなのに、今日はサンドウィッチを凝視するかのように見やるウィリアムをアイリスは不思議に思った。
チキンの照り焼きの気分じゃなかったのかしらと、手を戻そうとした。
「アイリ」
アイリスの名を呼びながら、ウィリアムはサンドウィッチを持つ手を右手で掴んだ。
そして、アイリスに身体を向けて、真っ直ぐにアイリスを見る。
その瞳が熱をおびていて、瞳の奥深くを覗き込むようで、アイリスは怖いと怯んだ。
掴まれた手を自分の方に引き寄せようとしたが、力強く握られびくともしない。
これから何が起きるのか分からず、アイリスは恐怖でしかなかった。
「一度しか言わない」
「えっ?」
「一度しか言わないから」
その言葉に思わず頷いた。
「俺と結婚を前提に付き合ってほしい」
アイリスの頭の中でウィリアムの言葉が反芻する。
結婚
付き合う
今までお出かけには付き合ってもらっていたが、結婚とは、前提とは、つまり、婚約ということなのか、こんにゃくとは違うと思うけどと頭の中が混乱していた。
「アイリ?」
自分の名前を呼ばれてはっとする。
「あっ、りっりあむ」
「なに」
今までにない優しい声だった。
そこの声にアイリスの胸はドクンと大きく鼓動をうつ。
なにか言わないと、言わないと。
焦る気持ちも募り、嬉しいと、同じ気持ちだと、そう伝えれば言いだけのことなのに、アイリスはうまく言葉を出せなかった。
まさかウィリアムに婚約の申しいれを、されるとは考えてもいなかったからだ。
ウィリアムが優しいのも幼馴染みのように育ってきたからで、兄の婚約者の妹という立場から家族のように思っているのだと、付き合いたいのも結婚したいのもウィリアムだけなのに、それが言葉として出てこない。
それなのに、身体は正直だ。
嬉しいと戦慄き、涙が溢れる。
一筋頬を伝うと後は関をきったかのようにとめどもなく流れる。
「それはどういう涙?嫌だった?」
その声にウィリアムを見る。
違うと懸命に首を振る。
嬉し涙だった。嬉しすぎて、感極まった涙だった。
そう伝えたいとウィリアムを見るのに、言葉にならず喉がなる。
口をパクパクと動かすしかできない状況にアイリスもどうしてよいのか分からず、ただ感情の赴くままイスから身を乗りだし、掴まれていない右手でウィリアムに抱きついた。
この行為が令嬢として相応しくないのは百も承知だ。だが、そうでもしなければこの気持ちを伝えるすべがないと体が動いた。
誰かがみれば、なんてはしたないと言われるだろう。公爵令嬢ともあろうものがなんてことをと言われるだろう。しかし、アイリスに外聞なんて気にする余裕なんてなかった。
嬉しいと、わたしも同じ気持ちだと、言葉で表現できないのなら、行動でどうか伝わってほしいと、アイリスは思った。
その行動に驚きつつも嬉しくて仕方ないのはウィリアムだった。公爵令嬢ではなく、一人の女として、アイリスとして、自分に気持ちを見せてくれているのだと嬉しくなり、抱き締め返したいと逸る気持ちをどうしてよいのかともて余す。しかし、まだ返事を聞いているわけではない。嫌じゃないと首を振られただけだ。それは、肯定ととってもよいのだろうが、ちゃんとした返事がほしいと思ってしまうのは、ウィリアムにほんの少し自信がないからだ。
兄のオリバーとは違い女性に対して優しいわけでもない。好きな女だからと特別に甘やかしたりもできない。気持ちを表現することが得意ではない。いつもぶっきらぼうなのも分かっていた。必要なことしか言わないし伝えない、兄を支えるために自分の気持ちや考えを不必要なことだとむやみやたらに言わないように努めてきた代償だった。しかし、尊敬する兄の支えになりたい気持ちは変わらず、この生き方を変えることはできない。こんな自分でも受け入れてくれるだろうか、受け入れてほしいとウィリアムは考えていた。
握っていた手を離し、両手でアイリスの身体を自身から引き離す。
真っ赤になって泣くアイリスにドクンと胸が鳴る。独占欲か加虐心か自分の中に蠢くあらゆる気持ちが、こんな姿を他の誰にも見せたくない、自分だけが知ってればよいと騒ぎ出す。
ぐっと唇を噛み締めた。
まだ返事を聞いてないと思う気持ちだけが、ウィリアムを冷静にさせたのだった。
「俺と婚約していいのか?」
アイリスは何度も何度も頷く。
そして、ウィリアムの胸辺りの服を握り、口を開く。
「あっ、あの、…っく…わっわた、ん…」
「落ち着けって、ちゃんと聞くから」
「ん…わた、わたくし、小さな時からずっとリアムのことが大好きだった…の…
だから、嬉しいの」
令嬢ではなく、アイリスとして満面の笑みを浮かべた。思いが通じ合うと、愛されると女は綺麗になるというが、アイリスのこの笑顔は世界中の誰よりも美しいとウィリアムは思った。
ウィリアムはアイリスの肩を引き寄せ、きつく抱き締めた。愛する女が小さな時より好きだったと言ってくれた、婚約することが嬉しいと、その言葉だけで世界中のものが自分のものになったような気さえした。
「好きだ」
自信のなかったウィリアムはいない。この気持ちをいくらでも伝えよう。今まで伝えられなかった分、好きだ、愛してると。自分の隣に立つ愛する女がウィリアムだけを見続けられるように何度だって伝えようと心に決めた。
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わたくしにとってリアムは唯一の男性です。
こんなにも愛おしくて大切な男性。
「わたくし、お姉様のように大きくないのよ?それでも満足できる?」
冷静になったら、考えるのは貧乳のこと。まな板のようにぺたんこなそこは女性らしさの欠片もないと思うのです。
この胸を見てガッカリされたくないのです。傷ついて、もう立ち直れないかもしれません。
「義姉さんと比べてる?あれは別世界。俺はアイリの全部が好きなんだ。比べたことなんてないよ。」
全部好きって、そんな…
わたくしをどうするおつもりなのでしょう。顔が熱くなります。
丸ごと愛してくれる安心感に包まれて、幸せという言葉しかありません。
「どちらかというと、あと4年も我慢できるかどうか…」
リアムは額に手をやり、なにか難しいことを考えてるときのように険しい表情になりました。
我慢…4年…?
わたくしの頭では理解が及ばず、その真意も図り知れません。ですが、その表情になにか大変なことがこの先待ち構えてるのかと思うと、後退りしたくなる気持ちです。
いつもよりもコロコロと表情を変えるリアムは中々珍しいもので、見ていて飽きる気が致しませんし、もっと見ていたいと思います。
これから未来、隣で笑っていられるように、色んなリアムが見れるように、もっと胸筋を鍛えねばなりませんね、って、違いますか。リアムがオリバー様を支えていきたいと考えられているのは知っています。なので、わたくしもそのお手伝いができれば嬉しいです。お姉様のように、皇太子妃教育を受けているわけではありませんが、きっと婚約すれば、わたくしも妃教育が待っているでしょう。大好きなリアムを支えられるように、大切なお姉様の足枷にならぬようにわたくしもわたくしにできることを頑張らねばなりませんね。
ですが、リアムの隣にいられるのであれば頑張れそうです。
「お姉様に続いてわたくしも婚約することが決まれば、お父様は拗ねてしまいますね、きっと。」
「…それを言うな。」
「どうされました?」
「宰相が言ってたんだよ。義姉さんが婚約した後、アイリスと婚約しようとする男が現れたら一発必ず殴ってやるってな…娘が二人も婚約するのが耐えられないんだろうな」
「まぁ!お父様ってば公爵らしくないことを仰いますのね」
「愛されている証拠なのだから、俺は甘んじて受けよう」
「そんなことなさらなくても大丈夫ですわ。そこは娘としてわたくしが良いようにいいますから」
ふふっと口に手を当てる。
わたくし一人で無理ならお姉様にも手伝っていただきましょう。
殴ったりすれば、もう口も聞きませんと言えば良いかしら、それとも嫌いになりますよ、こちらの方が良いかしら。
お姉様に「お父様の手が傷ついてしまうのは見ていられません」とか「アイリと結婚式を歩くお父様を見られるのはとても素敵ですね」とかなんとか持ち上げてもらったら、もう何も言えないし、殴れなくなると思うわ。
愛するリアムの頬が傷つかぬように、わたくしの出番ですねと奮起する。
「アイリ」
「はい」
「愛してるよ」
「わたくしも、愛しております」
わたくしの頬に触れたリアムの手がとても心地よくて、顔を寄せその手に預けた。
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