大賢者候補はやる気がないっ!
この世界には魔法を容易く操る存在がいる。それは魔導師だとか魔法使いだとか賢者だとか、色々な呼び方ではあるがつまりは、ーーー魔法を極めた者の総称である。
「騎士団長…こんなところに用事って?」
「うむ。まぁ…お前も団員になったのだから、会わせておこうかと思ってのぉ。見た目はアレじゃが、実力は保証するぞぃ」
「会わせる…?」
ダンダンッ、と俺の耳にドアを乱暴に叩く音が聞こえてくる。現在、俺は布団に包まって就寝中だ。もう昼?そんなことは関係ない。眠い時には寝る!
というわけで、俺はノックを無視して寝ることにした。
「フィル!!起きとるんじゃろ?フィル!開けんか!!」
俺の名前はフィルじゃないからこれは無視しても許される。そういうわけで、俺はうつらうつらとまた眠りに誘われて。
ーーーバキバキッ!!
家の玄関を壊すなんて怖すぎる。無視だ。これは無視を決め込むのが一番だ。
「起きろ!!肉片にされたいかっ!」
「んあ〜うるさいなぁ………」
「ったく、老体になーにをさせとるんじゃい!!」
この騎士服を着た爺さんは、金獅子騎士団のジョナス・クローディア。そこそこ重い俺を掴んでいる程度には力が有り、この国では王様の次くらいにはすんごく偉い。
玄関先でびっくりした様な顔をしている女騎士は見たことがないな。新人か?
ジョナス爺さんは俺を床に降ろして、さっさと着替えろと言ってきた。凄く面倒くさい。早く寝たい。
「人のことを無理矢理起こしといてよく言うぜ……あぁ…眠い」
「ん?ルシア、そんなところに突っ立っとらんで、座りなさい」
「はっ、はい!!」
俺はパジャマのまま、リビングの椅子に座った。未だに頭がぼおっとしている。
ルシアと呼ばれていた女騎士は、ジョナス爺さんに言われて、弾かれたようにテーブルへと向かう。よく見れば、胸に金獅子騎士団のブローチを付けていた。まだ少女のような年齢だと思うが、強いらしい。
金獅子騎士団とは、この国の王様を護る騎士団だ。金獅子と金薔薇の2つがあり、どちらも王を護るために切磋琢磨している。地位や名誉まで全てを手に入れられると少年少女が憧れる職業だ。しかし、たったの二十人にしかその栄誉は与えられないのだから、狭き門だろう。
「ごほん。久しぶりじゃの〜フィル。こやつはワシの団に新しく入ったルシア・ピアーズじゃ。たまに顔を出すかもしれんから、知っておいてくれ」
「………あ、そ」
俺は頭が良くないので人の顔と名前を一致させるのに時間がかかる。そしてどうでもいい奴は覚える努力もしない。
はぁ、とため息をついてぼおっと遠くを見る。
「ル、ルシア!こやつはフィリップ・マギアじゃ。ちと変わっとるが仲良くしてやってくれ!の?の?」
「…先程から聞いていれば…無礼だぞ貴様!このお方をッ」
ルシアという女騎士はどうやら貴族出身らしいな。俺のジョナス爺さんへの態度が無礼だと怒り始めた。キャンキャン鳴く犬の様でうるさい。
面倒だから相手にしないでいると。
チャキ、と鍔を鳴らした女騎士はスラリと剣を抜いた。うわぁマジで面倒くさいタイプの女だなコイツ。
「ルシア!やめよ!」
「しかしっ!」
「彼はお主とは"格"が違うのじゃ。じっとしておれ!!」
「…そ、そんな…」
ジョナス爺さんは女騎士を睨みつけて抑え込んだ。女騎士は渋々の体で着席し、今度は俺を睨みつけている。
俺は何度目かわからないため息をついてしまった。それはジョナス爺さんも同じの様だったが、俺にとってはここからが正念場だろう。
国が俺のところに来るなんて、大体が厄介ごとに決まってる。
「…本題に入るかの。フィルよ、仕事を頼ま」
「断る」
「何も言っとらんじゃろうが!」
「ヤダ!さっさと帰れ」
労働ダメ絶対!断固拒否一択!!
「西の国境付近で魔物が増えているのじゃが、どうにも数が多すぎてな〜」
「断る!」
「どうやら魔物異常増殖が起こりそうなんじゃ」
「断るっつの!」
「しかしあの辺りはA〜S級の魔物が多くてなぁ〜、宮廷の賢者も手を焼いてるらしいのじゃよ」
ジジイ!勝手に話すな!
「しかも西の方にはあの聖獣グリフォンの縄張りがあるからのぉ〜もしもグリフォンの逆鱗に触れたらと…そこでワシら金獅子が派遣されることになったわけじゃ」
「そーかい。じゃあさっさと行けジジイ」
「ところがのぉ。一緒に行く予定だった大賢者様方が別の業務に行くことになっての?」
「だが断る!!」
スタンピードとは、魔力を持つ魔物が群れとなり凶暴化する現象だ。原因はよくわからないが、とにかくヤバいということだけははっきりしている。
西の国境付近に隣国はないものの、グリフォンという魔物の群生地なのだ。
「大賢者は賢者十人分でいいって偉い奴が言ってただろ!賢者連れてけよ」
「そうです団長!こんな奴いなくても我々で戦えます!!」
おお、いいこと言うな女騎士!と目を輝かせたら二人に睨まれた。
この国では魔法を使えるものは賢者と呼ばれる。賢者見習い、下級賢者、上級賢者、大賢者の順でその能力を決められている。賢者になるためには難しい試験をクリアし、なおかつ上級賢者の誰かに弟子にしてもらわなければならないという面倒仕様。
大賢者の強さはおよそ上級賢者が十人分、とされており戦時下でもまず大賢者は出てこない。大賢者は大概国を護るために王のそばにいるか、研究で引っ込んでいるかだ。
「ふーむ。どうしても嫌か?」
「やだね!」
お?どうやらジョナス爺さんは折れてくれそうだ。面倒くさい依頼は受けるだけ損だしな。
俺はにやりと笑う。それに負けじと爺さんも笑っているではないか。
ジョナス爺さんはローブの胸元をゴソゴソと漁り。
ーーーま、まさか!?
「大賢者ローレンス様、ファニア様、クロイツ様からの推薦状じゃ。これが何を意味するかわからんお前ではあるまい?」
「ぐっ…あいつら…!」
「そしてーーー王妃様直々の勅命書じゃよ」
「ええっ?!コイツに大賢者様と王妃様から?!そんな馬鹿な…」
ぴらりと四枚の羊皮紙を取り出したジョナス爺さんのドヤ顔たるや!あとそこの女騎士!コイツとはなんだコイツとは!失礼だろうが!
この国にいる三人の大賢者からの手紙はまだいい。だが…王妃からの勅命は断ることを許されない。死ぬか、牢屋か、よくて奴隷落ちだろう。いや、それならまだましか?
本当に腹立たしい。これが終わったら国外逃亡してやる!
ジョナス爺さんはニコニコと勝ち誇った顔をしているし、女騎士は俺を信じられないような顔でみている。俺は全ての羊皮紙に目を通して、ガリガリと頭を掻いた。
「チッ…これだから年寄りは!!」
「ほほ。なんのことやら」
「………準備する。茶でも飲んでろ!ったく、絶対ゆるさねぇからなアイツら…ぶつぶつ…」
こうして、俺は仕方なく、本っ当に仕方なく、金獅子騎士団とスタンピードの制圧に向かうことになったのである。
◇
西の国境付近にある森の情勢は思った以上に良くなかった。少なくとも、とても聖獣グリフォンを護れる状態ではないと言う意味でだが。
この国の西側にある森には様々な魔物と呼ばれる魔力を持つ動物が生息している。その生態系の頂点に君臨するのがグリフォンだ。グリフォンにとってはスタンピード程度、なんてことはない。けれど昔からグリフォンを崇めているこの国では、グリフォンの住む森を護らなければならない。
金獅子騎士団と俺は西の森の周辺に対策本部を設置していた。
「どんな様子じゃ?」
「はっ。今日の晩から翌早朝にかけて、本格的な暴走が起こると予想されます。すでに宮廷賢者2名が負傷。騎士は一個小隊程度に損害が…」
「全員にポーションを使用させよ。陸地の魔物は我らで排除。賢者達には後方支援と上空からの魔物を対させるのがよいじゃろうな」
ジョナス爺さんと現地にいた兵たちは早速会議をし始めた。やはり、状況は芳しくないようだ。
金獅子騎士団からは5人派遣されている。ジョナス爺さんとあの女騎士と他三人だ。唯一名前を覚えている団員は今日は来ていないらしい。
ジリジリとことが起こるのを待ちながら、夜を迎えた。といっても、床に付いている人間は俺くらいだろう。かくいう俺も眠ってはいないのだが。
宮廷賢者がやっているだろうから、不要だとは思ったが、【索敵魔法】を拡げておいた。この基地の周りが妙にざわざわしていて、魔力がそこかしこにあるせいで探るのが難しいのではあるが。
少し範囲を広げると、思わずハッと目を開いた。
「……だりぃ…」
本当に面倒くさい。明日の朝ならばよかったのに。
のそりと起きた俺は、テントから出て行く。外には兵士たちが火を焚いてじっと身を潜めていた。まず外に出て来た俺にいち早く反応したのがジョナス爺さんと女騎士だった。
ーーーここから南西に爆発的な魔力を感じる。スタンピードが始まったらしいな。
「フィル?どうした」
「ジジイ、多分始まったぞ」
「なっ…宮廷賢者達はまだ何も…」
「ほほ。交戦までどのくらいじゃ?」
まだソレに動きはない。けれど、その数は増えている。
「動き出したら、早くて三分ってとこだろうな」
「充分じゃ。総員出撃準備!!ルシア、配置を急がせよ!」
「ほ、本気でコイツの言葉を信じるのですか?!」
「いいから早くせよ!時間がないのだぞ!!」
女騎士は俺の進言を信じていないようだ。ジョナス爺さんが命令したから渋々といった感じで、他の兵士へ指示を出し始める。
俺のやることは一つだけ。
「お主はただグリフォン様を御守りするだけでよいのじゃ」
「おうよ。俺は絶対近づかないからな」
「ほほほ。それでよい!うむ、久しぶりに腕が鳴るのぉ〜!」
王妃からの勅命には、「グリフォンの縄張りに魔獣を入れるな」という指示しかなかった。つまり、俺がやるべきなのはグリフォンの住む森に結界を張ってただスタンピードの収束を待つだけでいい。
本来なら一緒に行かなければならないところなのだろう。しかし、王妃には何か考えがあって俺にその指示を出したとしか思えない。ま、いずれわかるさ。
ーーー動いたな。来るぞ。
「ジジイ、俺はもう行く!動き出したぞッ」
ジョナス爺さんは嬉しそうにグリフォンの森から少し離れた場所に陣取った。金獅子騎士団の隊員が最前線に立ち、その後ろには宮廷賢者が並ぶ。
こうした戦闘に加わる賢者は、後方支援つまり遠くの敵を退けたり、味方を強化することが仕事だ。他には回復魔法を使う賢者も必要だが数は少ない。
俺はグリフォンの森の一際高い木の頂上まで登ることにした。
「ウィンド・コントロール」
呪文によって俺の周りに風が集まってくる。風を操り、身体を浮遊させて木の頂上へ腰を落ち着ける。見晴らしがよく、涼やかな風が吹いている。中々いい場所だ。
魔物の数はおよそ五万、対するこちらは百人前後。地鳴りのような振動と音がどんどん近づいてくる。本格的に移動を始めたが、余り広範囲に広がられると困るな。こちらに来るように調整しておくか。
「ルート・ターゲット」
そうそう、結界も張らなきゃな。
「うーん、どの程度の結界にするかな…"下級"でいっか」
ただの魔物にそれほど強い結界は要らないだろう。そう思い、俺は指でくるくると魔法陣を描き、ひょいと地面に放り投げた。
地面に付いた魔法陣は一瞬で広がり、交戦が予想される辺りをしっかりと覆った。
あとは見てりゃいいんだから楽な仕事だよ、と俺はふぁあとあくびを一つ。
「ンン?お、おお?」
な、なんかお尻の辺りがモゾモゾするぞ?!
「ピャ?」
「なんだ鷲かよ…ビビらせんなよ…」
モゾモゾしている部分から退くと、ひょっこりと鷲が頭を覗かせた。捕まえてにゅっと持ち上げ…あれ…鷲?鷲…にしては身体が…?
そう考えたのは一瞬で、はっと気がついた時には複数の強い魔力に囲まれていた。
ーーーいやこの仔、グリフォンじゃん?!
「違う違う!俺は何にもしてないっつの!!返す!返すから!」
あちこちの木の頂上から色とりどりのグリフォンが現れた。俺は慌てて仔グリフォンから手を離し、木に降ろした。
仔グリフォンらしき鷲は不満げにピャア…と鳴いた。やめろ!益々疑われるだろうが!!
〈そんな事は存じている。それよりも魔物共に集中せよ〉
脳内に直接響く声。
「グリフォンって喋るんだな…」
〈ふざけているのか?〉
「へいへい…心配しなくてもいいっつーの…」
そう偉そうなグリフォンに言った直後、魔物の大群が姿を現した。いよいよ戦闘が始まる。
ーーーやれやれ。早く終わってくれよ。
◇
スタンピードが始まってからどれくらい経ったのだろう。もう私は魔物を数千は倒している。それでも、魔物は次々に襲いかかってくる。魔物の強さは通常の倍以上に感じる。理性を失い、凶暴化しているからだと思う。
私はこれまで騎士として様々な戦いに従事して、A級と呼ばれるような魔物も倒せるまでに鍛錬した。しかし、どうだ。
息が上がる私と、涼しい顔をして一度に数匹を屠る金獅子騎士団の先輩に団長。どれほどの鍛錬を積めば、あそこまで至れるのだろう。
そんなことが頭を掠めたが、身体を止めることは許されない状態だった。
限界を感じた時、隣で飄々としている騎士団長が私に声をかけてきた。
「ほほ。ルシアよ、限界かの?」
「ハァッ、ハァッ…なんの!これ、しき!」
「ほ!そのいきじゃ〜!」
騎士団長は自分の数倍は大きい魔物の首をスパッと斬りながら快活に笑った。
鳴りやまない地響きと魔物の断末魔と賢者の詠唱の声に、気が滅入りそうだ。それに、どしりどしりと地震が繰り返されているし、どんどん揺れが激しくなる。なんとも言えない重圧を魔物達から感じてしまう。
いけない、そんなことを考えていたら一匹背後に逃した!後方支援の宮廷賢者達に被害が出てしまう!
私は慌てて振り返る。しかし、間に合わずに賢者のすぐ傍を魔物が通り抜けた。
ーーー通り抜けた?!なぜ襲わないの?
「ふーむ。こりゃまずいかもしれんの…フィルや!」
近くにいた団長が何か叫んだ。
まるで魔物達が何かから逃げているみたい、と思った瞬間。
私の身体は、浮いていた。
「あ…っ」
いや、この作戦に参加している全員が何故かグリフォンの森のアイツが張った結界の中に立っていた。
一体誰が?まさか、この移動魔法はあのやる気のない男がやったのだろうか?
「よぉジジイ。お疲れか?」
恐らく、全員が呆然とこの状況を見ているはずだろう。だって。
ーーー魔物が次々に首をはねられていくのだから。
一刃の風が吹いた、と形容すれば良いのだろうか。風が吹いたらあっという間に魔物の命が奪われている。
見上げれば、あのやる気のない男が木のてっぺんに胡座をかいて、おまけに頬杖を付きながら相変わらずぼんやりとした顔で騎士団長を見降ろしているではないか。
しかも、男の周りにはグリフォン達が所狭しと身を寄せ合っているのである。
「流石に疲れたのぉ。後はお主に任せるわい」
「はぁ〜ダッル……早く帰りてぇ〜。さっさと終わらせんぞジジイ」
「ほほ。流石じゃのぉ〜」
二人は楽しそうにも感じる会話を交わしている。
「おぉーい、アンタら。結界から出るんじゃねーぞぉ。出た奴の命の保障は出来ねぇからなぁ」
男は私たちに向けてそう言った。何故か?それは、私の目にもようやく見えてきた。
ーーーオーガキング!!?
月にも届きそうな程の巨体が、ズゥンと音を立てながらこのグリフォンの森に向かってきている。
オーガは鬼人とも呼ばれる、角の生えた人間に似た魔物のことだ。オーガの魔物の強さを示す位はS。ただのオーガですら強敵だというのに、それの上位個体だとしたらSSS級だろう。
「ピャッピャア!!」
「お腹空いたぁ?親に頼めよ!あっ、ちょ、お前!俺の頭は巣じゃねーぞ!!」
「ピャア〜!」
オーガキングの存在が近づくにつれ、私の足はブルブル震えた。賢者も兵士も、立っていられずに怯えて蹲ってしまっている。
それなのに、あのやる気のない男はなんなのだ。グリフォンの子供と戯れているではないか!
ーーーオーガキング程度、余裕とでもいうの?!
グォオン!と叫ぶオーガキングの咆哮に、騎士団長以外の全員がガクガクと震えながら倒れ込む。何という存在感!
ぞわりと、した。
ーーーいや、もしかして、この存在感の正体は…!!
「ルシアよ、感じるか?この苦しいほどの威圧感を…」
「は、はい…これはッ…!」
「うむ。フィルじゃ。フィルの魔力がそう感じさせているのじゃよ。…見ておくが良い。我々と、フィルの"格の違い"というものをのぉ」
その男は、なんらさっきと変わりはなかった。ただぼーっと、咆哮をあげこちらに走ってくるオーガキングを見ている。わずかに聴こえてきた低い声。
「ウッド・ロック」
初級の魔法だ。細い木の蔦を生み出す魔法、なはずだ。
高速で駆けるオーガキングの脚に、巨大な木の蔦が瞬時に絡み付く。無理矢理に動くオーガキングにブチブチと蔦が切れる。どれだけ切れようと蔦はオーガキングの脚の動きを止めさせた。
動きを止められたオーガキングは咆哮を上げながら、青白い膨大な炎を私たち目掛けて攻撃を仕掛ける。オーガは魔法が使えるのだ。
やはり、あの男は興味がなさそうに見ている。指をくるりと動かすだけ。
ーーーバチィィィン!!
炎が結界に当たると同時に、炎は弾かれたように消え去った。
"格"が違う。私は強いと。強者だと、奢っていた。
「団長……彼は、一体…?」
「…フィリップ・マギア、最強にして最高の『賢者見習い』じゃよ」
「見習い…?彼が?!」
「そうじゃよ。フィルは賢者になるための試験を敢えて受けておらん。しかしのぉ、この国の三人の大賢者から、次の大賢者はフィルを置いて他にはおらんと明言されておる。フィルを知っている者は、『怠惰の大賢者候補』などと呼んどる」
「怠惰の、大賢者候補……」
とても信じられない。彼の実力はどう見ても見習いではない。大賢者だと言われた方が遥かに信じられるだろう。
「そもそも、変だとは思わんか?理性を失った魔物達があちこちに散らばらずにワシらの方にだけ来るなんてのぉ?おまけに、あれだけ戦ったのにワシらは傷一つ、負わぬ。全ての事は、全てがアヤツの掌の上だと言うことじゃよ。ほっほっほ、ワシらは永遠に動かせる駒みたいなもんなのじゃろうて」
「で、ではっ!すべて…彼が…?」
「うむ。こうなることも、アヤツの想定済みじゃろう。まぁ、見ておればわかる」
団長や他の団員達は常に彼の回復と強化を受けていたのだという。受けていなかった私は恐らく、どの程度出来るのかを見極めるためだったのだと、団長は笑う。
私はもはや、呆然とすることしかできなかった。
炎が弾かれた事に怒ったオーガキングは、雷と炎を同時に彼に向けた。蔦が片方緩みかけているせいで、オーガキングの動きは先程よりもいい。
ーーーな、なんて描写速度なの!
彼はすぐに魔法陣を展開したが、その速度は今まで見たどの賢者よりも早い。再び、オーガキングの魔法は結界を前に消え去った。
ピタリと風が止んだ。包むのは異常なほどの静寂。
「…我、天の戴を識る者也。神の剣は我の手に有り。我に断罪の剣を携えよーーー天載四剣」
オーガキングの咆哮が聞こえない。無音の戦場に、朗々と彼の静かな声が響く。ブワッ、と巨大な魔法陣がオーガキングの上空に浮かび上がった。
夜だったはずなのに。空が明るく光り、オーガキングの身体程もある四本の輝く剣が現れた。
ーーーこんなに綺麗な魔法、見たことないわ…
「ジャッジメント」
その綺麗な剣は何故か動かないオーガキングを一刀両断。四本全てが、オーガキングを斬ったのだ。オーガキングの身体はズレていき…やがて四つにバラけて崩れた。
「ルシアよ。覚えておくがよい。最高位の魔法使いに成るためにはな、神が許した魔法を使えないとならんのだそうじゃ。そうそう見れるものじゃないぞぉ〜ほっほっほ」
「まさか…今のが…「神格魔法」?!」
「ほっほっほ、さてと。引きあげるかのぉ〜」
私も聞いたことがある。大賢者は全員神の力を行使する「神格魔法」という魔法を使えなければならないと。
私が彼を見上げれば、大賢者候補はあくびを一つ。
「大賢者候補…フィリップ・マギア…」
彼の名前を忘れることは決してないだろう。
騎士団長が退却の指示を出し始めた。今日は色々ありすぎて限界だった。早く王都に戻らなければ。
私の記憶はそこで途切れている。
◇
「ピャア」
俺はいつものように、気怠い昼を迎えていた。ただ一つ前と違うのは。
「なぁんでついて来ちまったかなぁ…変わった奴だなお前は」
「ピャ!」
「あ?名前ぇ?そうだなぁ…」
この間のスタンピード制圧の時にいたグリフォンの子供が俺から離れずについて来てしまったのである。森に置いてきたのに、目が覚めたら俺のベッドにいたのだから驚きだ。
しょうがないので、気が済むまで好きにさせることにした。
「お前白いからシロ…嫌ぁ?じゃあピノ。アルビノっぽいだろ」
「ピ?」
「ピノってなんか美味そうな名前だな…まぁいっか」
こうして俺の日常はまた穏やかに過ぎていく。
「さぁてと!二度寝するか〜」
「ピャア〜!!」
次の瞬間、激しいノックが聞こえてきたのは言うまでもない。
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