表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
警護員藍野と詩織お嬢様の初恋  作者: ななしあおい
5.0_殲滅戦〜詩織17歳〜
23/30

5.3_殲滅戦 作戦実行

銃撃戦です。

血は出ないけど、殺し方について黒崎が語るシーンあります。


■22:00 バックアップ要員集合時刻@杜山


 ドッキリでも夢でもありません。

 これは現実です。


 なんと、僕に初めて黒崎課長からお呼びがかかりました!!

 藍野先輩のおまけですが、召集は召集です。


 強襲強行のライセンスは取れてないので最前線に出ることはできませんが、他の何人(パートナー)と共にバックアップに入ることが命じられました。

 タイミングよく藍野先輩のパートナーだった僕はツイてると内心で快哉を叫んだのは、先輩には内緒です。

 一旦詩織お嬢様の護衛を待機していた2人に引き継いで、僕は横浜から自分と先輩用の戦闘服と(コンバットブーツ)、銃やその他の装備品諸々を横浜からピックアップしてこの待機所に来ています。


 藍野先輩は装備品を自分で手入れする人なんで、僕は揃っているかをチェックする事と、先輩が欲しがりそうな物を先回りして準備するくらいです。

 他のバックアップ要員も各々のパートナーの準備をしているようですが、僕と似たようなものです。

 早々に終わってしまったので、待機所に置いておく緊急時用の医療キットをチェックしていたら、先輩が到着しました。


「藍野先輩、お疲れ様です。準備出来てますよ」

「サンキュ、杜山。今回頼むわ」


 着替えて出てきたら、僕は銃の手入れと準備が終わるまで話しかけてはいけません。

 この時間は先輩が集中するためのルーティンで、邪魔されたくないが為、場合によっては銃と弾だけ持って、集合時刻を一人だけ繰り上げて来てる位です。

 ダイニングの食卓を使い、早速銃をバラして挙動をチェックし、元どおり組み上げます。

 これが終わると次はマガジンに弾を詰めます。

 マガジン1つに15発、結構ちまちました作業です。

 詰め込んではマガジンを積み上げ、詰め終わったマガジンをポケットにしまい込み、ルーティンは終了です。


「先輩、質問いいですか?」


 先輩がストレッチし始めました。

 今日は神戸から直接軽井沢に来たので、座ってばかりだったのか、結構念入りにしているようです。


「んー、何?」


「今回、なんでR.I.P弾なんて入れてるんですか?」


 R.I.P弾は硬い物体は突き抜けて、人体のような水分を含んだ柔らかい物体で炸裂するちょっと特殊な弾丸です。

 その殺傷能力の高さから、国際法じゃ戦争で使用する事は禁止されてる物の筈。

 テロリストは好んで使う事があるようですが。


「R.I.P弾は1本だけのお守り。使わなくて済むならそれに越したことはないな。手持ちのほとんどはいつものフルメタルだし。それより15分位俺に付き合え、新幹線移動で身体が動かないんだよ」


 先輩は苦虫を100匹位噛み潰した顔で言いました。

 大分機嫌がよろしくないようです。

 さっきの表情といい、先輩的には嫌々持たされてるようですね。

 お守り(R.I.P弾)は、エグいから使いたくない、と、いう事ですね。

 会話中、ずっと先輩はストレッチしてましたが、戦闘前で気が立っているのか、少しイライラしてるようです。

 誘拐事件以降、神戸は静かなもんでしたからね。


「じゃ、裏庭でやりましょう。怪我したら詩織お嬢様が心配するんで、無傷で帰ってきてくたさいよ」


 僕と先輩は裏庭に行き、ウォームアップ代わりの近接格闘訓練を一通り流しました。

 身体を動かしてスッキリしたのか、幾分表情が緩んだ気がします。


 腕時計を確認すると、作戦開始時刻まであと90分。

 バックアップ要員として、最後まで気を抜かずにこの案件を終わらせましょう。


■24:30 定時連絡@藍野


 俺と紅谷は現場に来て下準備をしていた。

 俺は人員や警備用レーザーや赤外線の位置と設置状況の最終確認、紅谷は作戦用にネットワーク用の無線アクセスポイントを設置中だ。


(人員も警報もレーザーも報告書通りで変更点はなし、っと)


 さて、紅谷の方はどうかな?

 暗視鏡の視線をぐるりと巡らすと、アジトの駐車場の外にいる。

 一番端っこのレーザー型警報機に送受信装置を仕掛けて、少し離れた物陰でスマホから何やら設定している様子だ。

 多分あそこからハッキングを仕掛けるつもりなんだろう。

 何かを確認し終わると紅谷はその場を離れ、パートナーに持たせていたノートPCを受け取り、アジトの死角になる位置で適当に腰掛けてキーボードを叩き始めた。


 俺は適当な暗闇に紛れて紅谷と無線で話す。


『紅谷、準備どう?』

『順調、特に問題ない。定時連絡か?』

『うん、あとどの位必要?』

『5分くれ、4課と疎通テストする』

『了解、終わったら呼んで』


 きっかり5分後、紅谷から完了報告が上がったのを確認して、俺は黒崎課長に定時連絡を入れる。


「こちら藍野、黒崎課長、定時連絡です」

「ああ、聞こえてる」

「警報関連も配置も報告書通りで変更点はありません。紅谷の内部工作も完了しました」

「わかった。紅谷を残して一旦戻れ。予定時刻通り開始する」

「了解、待機所へ戻ります」


 あと30分後に作戦開始か。

 振り返ってアジトを見上げると、不気味な程静まり返っていて、何も知らない人間が見たらとても撃ち合いが始まる場所には見えないだろう。

 たった一晩寝ないだけでも心配する詩織様だ。

 杜山の言う通り、下手に怪我でもしたら泣かれるかもしれない。

 なるべく無傷で戻りたいものだ。


■24:55 最終定時連絡@紅谷


 ここまでは予定通りだ。

 やはり事前調査に時間をかけられたのは大きいな。

 社内からも先程仕掛けたバックドアからアクセスを確認できた。

 早速監視カメラの映像を30分遅れで再生し、彼らには30分前の映像をダミーとして見せておく。

 これで襲撃されるまで気づかないだろう。

 実際の映像は4課に監視させているのと同時に、待機所にいる黒崎課長にも共有済みだ。

 彼らは割とバラけているようで、地下の監視室に2人、リビング5人、2階の2部屋に2人ずつの9人がいる。

 この辺は近接組と柴田さんに任せるとして。

 俺の探し物を監視映像から探すと、多分ココだ。

 地下にある監視ルームのPC。

 この中のどれかがハッキングできていない。

 アクセスログのPCの数と映像の台数に1台差分がある。

 スタンドアロンでネットワークに繋がっていないのか、別のネットワークに繋いでいるのかわからないが、直接乗り込んで確認する必要があるだろう。


『藍野、聞いてるか?』

『聞いてるよ、どうした?』

『地下の監視ルームにあるマシンは俺が行くまで破壊しないで』

『わかった、地下の奴ら引っ張り出しとくから、後から来いよ』

『頼む』


 これで追跡用ウィルス散布の手配も完了。

 ちょうどよく決行5分前だ。

 俺は最終通達を行う。


「紅谷より各員へ最終通達、5分後に警報システムへ介入、予定時刻25時より60分間監視システムと警報機能の停止を実行します。なお、同時に作戦終了まで音声データの暗号化を実行します。以降の連絡は秘匿回線へアクセスの事」


 俺は秘匿回線に切り替えて、反応を待った。


「こちら藍野、通達了解」

「同じく黒崎、通達了解」

「こちら柴田、所定位置にて待機、通達了解しました」


 バックアップ要員達からも問題なく返答が返ってきた。

 4課のチームからも問題なく暗号化されているとPCにメッセージで報告されている。


 作戦開始まで30秒前、俺はカウントダウンをスタートさせた。


「行動開始まで15秒前」


「10秒前……」


 宣言と同時に警報システムへの介入を開始した。

 管理者権限を奪い、警報とレーザーを停止させるコマンドを打ち込み、送信準備をしておく。

 4課は引き続き監視システムの制御を行う。


「5秒前……4・3・2・1……」


「作戦行動開始!」


 俺は同時にコマンドを送信した。

 これで全てのシステムはこちらの手の中だ。

 後は一旦3人に任せ、俺は黒崎課長の指示通り柴田さんのフォローに向かうとする。

 彼女の狙撃の腕は確かだが、集中すると周りが全く見えなくなるタイプだ。

 今では笑い話だが、狙撃中にうっかり蛇を蹴飛ばして噛まれて気づかずにぶっ倒れるなんて、彼女くらいなものだ。

 俺は射撃も近接格闘も下手くそだが、柴田さんのフォローくらいはしてやれるし、しなけりゃ水谷が煩いしな。

 侵入者に容赦しない癖に、心配性で甘い水谷につい含み笑いをして、柴田さんの待機場所へ移動した。


■25:00 作戦開始時刻@黒崎・藍野


 紅谷のカウントを合図に、私と藍野は動き出した。

 グリップ部分へマガジンを差し、左手でスライドを引いて、装填する。

 警備システムは紅谷が押さえているから、気にするのは足音や物音くらいだ。

 私達は気配を殺しながら玄関へ向かうと、藍野が事前調査で入手したスペアキーを差し、そっと解錠してドアが開くか確認する。

 セキュリティに自信があるのか、チェーンが掛かっていないようだ。

 右手の銃のトリガーをいつでも引けるよう心づもりをして、静かに侵入する。

 ここから先は1階リビングを奪取し、騒ぎを聞きつけた2階、ダミー映像を切り替えて地下室の人員を引っ張り出す作戦だ。

 まずは目先のリビングを抑えるのだが、予想通りに身を隠せる物陰が思っていたほど多くない。

 玄関からリビングにつながる短い廊下があり、途中に地下や二階に上がれる階段がある。

 私達はそれぞれ地下と二階に向かう階段に身を隠した。

 ここから先、リビングまでドアや目隠しになる物がない。

 影からそっと覗き見ると、予定どおり5人、リビングのソファで各々待機中の様子だ。

 グズグズしてると他に悟られてしまうので、二人同時に押し入って片付けてしまう事とする。

 人数で劣っているが、不意打ちだから勝算はあるし、キッチンに押し込めば裏口へ出られる。

 裏口には柴田が控えているから、そちらから狙わせても良い。

 ハンドサインで作戦を藍野に伝えると、了承の返事が返って来た。

 私がカウントを出し、タイミングを合わせて乗り込んだ。

 私は左手側、藍野は右手側からキッチンへ押し込むように、端にいた者から身体の真ん中に狙いをつけて自動拳銃(オートマティック)のトリガーを連続で引くと、ガンガンとした音が響いて、空の薬莢が排出されていく。

 消音器(サプレッサー)がついてるとはいえ、それなりに音はするから、迅速に進める。

 人体の動きを止めるには、最低1発か2発、保険も考えるなら3発から4発、確実に身体のどこかに当たってさえいれば良い。

 これで確実に止められる。

 マガジン1本分、連続して撃てば大体3秒から4秒程持つので、その間にケリをつけたい所だ。

 2人程仕留めると、恐慌状態の2人が、思惑どおりにキッチンから裏口に向かった。

 私はすかさず柴田に指示を出した。


■25:05 作戦開始から5分経過@柴田


 予定通り黒崎さんと藍野さんが突入したんだろう。

 腕時計を見ると開始から5分程経過したあたりから、無線を通してバタバタとした足音や、銃声が雑音のように聞こえる。

 無線のマイク特性で人の声に反応するから、呻き声や叫び声がより大きく聞こえてくる。

 この感覚はさすがにもう慣れはしたが、あまり気持ちのいいものじゃない。

 不愉快な情報をなるべく耳から入れないように、裏口の一点を見つめて集中する。


 私はスコープの照準倍率を裏口に合わせ、伏射体制でじっと指示を待つ。

 地べたに腹ばいだから、冷たさが足元から来てるはずだけど、あまり感じない。

 これは私が調子のいい証拠だ。

 私はひとつ呼吸をして、一度だけ目を閉じて意識を集中してからスコープを覗きこみ、引き金に人差し指をかける。

 まるでスイッチが入るように身体の輪郭がするりと溶けて、銃と一体となる独特の感覚を感じる。


『柴田、そちらに2人行った。頼むぞ』


 黒崎課長の指示から数秒。

 来た。

 裏口から2人、ばたつき慌てふためいて出てきた。

 十字線(レティクル)のセンターにターゲットを合わせた。


『了解、お任せください!』


 言い終わると同時に、1人に照準を合わせてトリガーを引く。

 銃床から発射の衝撃が身体に伝わる。

 ボルトハンドルを起こして引き、次弾を装填する。一人倒れた事に慌てているのか、もう1人はウロウロとしている間に、照準を合わせてトリガーを引いた。

 手ごたえはあった。

 状況確認しようと側に置いていた暗視鏡を左手で探っていた所に上から声が降ってきた。


「お見事。2人とも仕留めてるよ」

「うひゃっ!!」


 心臓が縮み上がる程びっくりして、左脇から見上げると紅谷さんがいた。


「紅谷さん! いつからいたんです。と言うよりもう少し味方な気配を醸して下さい。敵かと思うじゃないじゃないですか!」


 暗視鏡は紅谷さんが持っていたのか。

 にしても驚いたわね、気配のなさに。


「声をかけたのに返事はないし、黒崎課長から指示が来てたから邪魔できないし、どうしろと?」


 紅谷さんは腕組みをして、私を見下ろしている。

 裏口見て集中していたから気がつきませんでした、などと正直に言ったら怒られそう。

 視線を避けるように伏射姿勢に戻りながら、一応謝ってみた。


「……えーと、気がつかず大変申し訳ございませんでした、紅谷主任?」


「そんなだから水谷が心配するんだよ。腕は確かでも自分の身の安全はからっきしなんだから」


 少し呆れたように紅谷さんは言う。


「心配されなくとも、私だって自分の身を守るくらいできますよ。紅谷調()()()


 殊更調査員を強調しておく。

 ふふーん、私の方が対人格闘も銃も調査員様より絶対上だもんね。

 自分の身くらい余裕余裕。


「調査はね、疑うことから始めるんだよ。前科者の柴田()()()


 毒蛇事件はもう時効で記憶から消してくれてもいいのに。

 蛇より執念深い紅谷さんにため息をつき、口先で勝つのは早々に諦める私だった。


■25:35 作戦終了予定時刻25分前@黒崎・藍野


 リビングに残った1人は銃に手をかけた所で、藍野が始末した。

 私達は2階や地下の連中を迎え撃つため、キッチンへその身を隠したタイミングで、紅谷から連絡が入った。


『黒崎課長、紅谷です。ダミー映像を戻す予定時間ですが、首尾は?』

『一階は占拠した。今すぐ戻せ』

『了解』


 地下の監視室にリアルタイムの映像が流されると、程なくこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。

 順当なら残りは4人。

 銃のマガジンを入れ替えて、再度フル装填する。

 今度の(ターゲット)は少し遠い上に、確実に撃ち返してくる筈だ。

 藍野に目配せをして、入ってきた所を狙い撃つ。

 どさりどさりと人が倒れる音と銃声が聞こえる。

 弾は壁を突き抜けてコロリと足元に転がり、ギザついた弾頭が凶悪な姿を見せる。

 対人用の特殊弾、R.I.P弾だ。

 藍野と顔を見合わせて、私達もR.I.P弾のマガジンに差し替える。

 撃ち込まれる銃弾の合間を縫って、こちらも撃ち返すが、時々壁を通り抜けてくるR.I.P弾を避けながらで、なかなか上手くは当てられない。

 残りあと2人、バックアップから応援を呼ぶか……。

 少し迷って、2人を選出した。


『紅谷、杜山、聞いてるな』

『『はい』』

『杜山、玄関側から2人仕留めろ。紅谷は杜山の援護』

『『了解』』


 私達は撃ち合いを引き伸ばしつつ、2人の配置を待つ。

 数分ののち、杜山からの連絡が入った。


『黒崎課長、紅谷さんと合流しました。玄関脇に待機中です』

『私と藍野で引きつけるから、杜山と紅谷で背後から撃て、合図を出す』


 R.I.P弾が流れ弾になって杜山達に当てる訳にはいかないので、再度マガジンを通常弾に差し替え、私と藍野は奴らの足元を狙って撃つ。

 撃ち合いのスピードを落としながら、私達は見せつけるように、ジリジリと下がって見せた。

 さぁ、もう少し出てこい。

 私達は更に一歩ずつ下がる。

 あと2歩、あと1歩……。

 完全に玄関側に背中を見せた。

 私達はキッチンの壁に身を隠して二人を呼ぶ。


『来い、杜山、紅谷!!』


 何発かの銃声の後、しんと静かな静寂がやって来た。

 一つ呼吸をし、周りの様子を確認する。

 私も藍野も無事。

 視線を玄関側に向ければ、杜山も紅谷も無事のようだ。


『紅谷、そのまま追跡用のウィルス散布を頼む。護衛に藍野を残すから、何かあったら呼んでくれ』

『『了解』』

『杜山は柴田のフォロー、柴田は別命あるまで待機、玄関側の監視は私が入る』

『『了解』』


■25:45 追跡用ウィルス散布工作@紅谷・藍野


 紅谷は一旦玄関まで戻り、ノートPCを取ってきた。

 その後、俺を先頭に地下への階段を下る。

 ここにいた全ての人員は始末したから誰もいないはずだが、万が一と言うこともある。

 そっとドアを小さく開け、中を確認する。

 油断なく銃を構えたまま、ドアを蹴飛ばして壁に身を隠す。

 何の反応もない。

 さすがにもういないようだ。

 ドアを開け、俺が入ってから、紅谷を入れてやる。

 紅谷は何台かあるPCのうち1台を調べ始めた。


「お前ヒマならコイツをその辺のPCに感染させておいて」


 お前の護衛だから別にヒマじゃないぞ、と内心で否定しつつ、紅谷から1本のUSBメモリを受け取る。

 中身は水谷特製のウィルスで、感染したここのネットワークにアクセスしてきたスマホやPCに片っ端から入り込み、4課からその位置取得や情報用のバックドア設置ができるらしい。

 用済みになれば端末ごとデータ消去命令もできる凶悪な機能つき。

 4課は敵に回したくないね。


 4課の無線チャンネルに変更して、手近なPCにUSBを差し込む。

 勝手にプログラムが起動して、元の画面が表示された。

 一見、どこが変わったかさっぱりわからない。


『水谷、聞こえる?』

『その声、藍野さんですか? お久しぶりです』

『紅谷から感染させろってUSB渡されたんだけど、これでいい?』

『OKです。全部挿してください』


 USBメモリを差し込んで、抜いてを繰り返して全台感染させた。

 水谷も確認済みだ。

 一方紅谷の方は、イライラを含んだ難しい顔をしている。

 パスワードが思ったより複雑で、解析に時間がかかっているらしい。


『水谷、そっち(スパコン)どのくらい進んでる?』

『現在解析率62パーセント、あと5分待って下さい』


 ジリジリと待っていると、ガタリと何処からか物音がした。

 俺と紅谷はギョッとして顔を見合わせた。

 同時に水谷から警告が飛んでくる。


『紅谷主任、1階駐車場の監視映像で異常を感知してます』


 俺は該当の監視カメラ映像を2分程巻き戻して確認する。

 アングルの悪さと暗がりで微妙だが、2人程の人影のようなものが見え、建物内に入り込もうとしているように見えなくもない。

 かと言って、人ではないと断言できる証拠もない。

 直接見に行くしかないだろう。

 手持ちのマガジンを確認する。

 人数にもよるが、少々心許ないな。

 さっきの囮で結構使ったのでマガジンを入れ替えてておく。


「持ってけ。その代わり15分持たせろ。その間に終わらせとく」


 紅谷がマガジンを1本、俺に寄越した。


「サンキュ、戻れたら飯奢るよ」


 俺は無線を秘匿回線に戻し、一報を入れる。


『黒崎課長、藍野です。1階駐車場の監視映像で異常を感知しました。私が確認してきますが紅谷の護衛を誰かに代わって頂けますか?』

『私が出る』

『お願いします』


 再度監視カメラを確認して、俺は地下室を出た。

 そっと階段を上がり、辺りを見回しても人の気配はない。

 あの駐車場から中に入るには、建物の作り的に玄関か裏口しかないんだけど、誰からも人を見たと報告が上がっていなかった。

 監視カメラだって駐車場以外は反応していない。

 何とも言えない違和感を感じ、一つ思いついた可能性。


 ―――誰にも見つからない方法で室内に入れるとしたら?


 俺はゾッとして慌てて地下室へ取って返す。


(何で気がつかなかった!これじゃ護衛失格じゃないか!!)


 せめて部屋の外であれと願い、わざと大きな音を立てて、階段を駆け下りたが何の反応もない。

 ここまで撃たれなかったから、地下室に直接繋がってる可能性大か。

 紅谷が無事でいる事を祈りつつ、地下室に飛び込んだ。

 飛び込んできた俺に、紅谷はびっくりした顔をしている。


「紅谷!伏せろ!!」


 俺が叫んだ瞬間、紅谷は自分のPCを抱えてデスクの下へ屈み込み、右側の壁の一部が開いた。

 目視の人数は2人。

 反射的に紅谷の前に立ち、連続してトリガーを引くと、どさりと2人が倒れる。

 銃を構えて待ったが、3人目は現れなかった。

 隠し扉の先もライトで確認したが、人の気配はない。

 俺は紅谷が無事な事に心底ほっとして、安堵の息を吐いた。


「紅谷、ゴメン。完全に俺のミスだ」

「あんなところに隠し通路なんて、誰も分からないさ。気にするな。あと少しで作業も終わる」


 無線から俺を呼ぶ黒崎先輩の声がする。

 応援で呼んでいたんだった。


『おい、聞こえてるなら状況報告しろ、藍野!』

『藍野です。遅れてすみません、駐車場と地下室を繋ぐ隠し通路があったようで、2人始末しました』

『2人共、無事なんだな?』

『はい、無事です』

『紅谷の作業は?』

 視線を向けると、紅谷は5本指を立てている。

『あと5分程で終わります』

『わかった。終わり次第戻れ』

『了解』


 紅谷は宣言通り5分で全ての作業を終わらせた。

 ここにはもう用はない。

 俺と紅谷は予定時刻より5分遅れで待機所へ引き上げた。


■26:10 作戦終了予定時刻より10分遅れ@黒崎


 藍野からの支援要求を受け、私が向かっていた所に無線からの銃声。

 そこからは何度無線で呼んでもなしのつぶてで、肝が冷えた。

 こうして今、藍野と紅谷が戻ってきて報告を受けているが、生きていて良かったと胸をなでおろした。

 報告によると、事前調査書になかった駐車場から地下室へ通ずる隠し通路があって、そこから侵入してきたという。

 想像するに要人用の脱出経路だろう。

 王子様は用意周到な事だ。

 だが、苦労に見合うものは入手できた。

 詳細は4課の解析待ちだが、貴重なデータを得ることが出来そうだ。

 シャーリーなら上手く利用して、王子様をより効果的に大人しくさせる状況も作れるだろう。


 報告を聞き終えると、イントラから私の名で藍野と柴田は主任、紅谷は課長への昇進申請を出した。

 私自身はこの案件の本社報告後、部長昇進が確定している。

 先代部長は希望通り本社(アメリカ)へ異動となり、私が日本支部長となる。

 昇進後の初仕事は3人の昇進申請に承認と辞令を交付することだ。

 私は概ね満足のいく結果にほくそ笑みながら、撤収命令を下した。

クッソ長くてすみません。

でも一番描きたかった&やってみたかったのです。

一つの事柄を別々の目線で繋ぐ書き方。

ここまで読んだ方、お疲れ様でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ