5.1_組織殲滅戦@黒崎
高坂社長より殲滅命令が下った。
私の中では随分と決断が遅かった印象だ。
あの方のビジネスは即断即決で、結果がついてくるなら多少の黒さも敢えて飲み込むやり方だ。
だから、この件についてもすぐに抹消命令が下りるかと思っていたのに、依頼が来たのは大分後で随分と迷われていたのが察せられた。
詩織お嬢様の件が直接のきっかけだろうが、その辺の事情は私達にはどうでも良い事だ。
受けた以上、我々は依頼を遂行するだけだ。
迷われていたお陰で調査に時間もかけられたし、日本以外の拠点は本社の協力も取り付けた。
中東絡みで交渉は難航するかと思っていたが、あっさりと協力してくれる所を見ると、グループも高坂社長は重要人物と考えているのかもしれない。
日本の拠点は以前詩織お嬢様が監禁された場所ではなく、関東の高級別荘地にあった。
藍野の報告にあったような気の抜けた素人臭い立地や間取りではなく、きっちりと襲撃対策の施された場所で、こちらが本命であろう。
別荘地の奥まった一角の目立たない家、一通りの監視カメラにレーザーの警報装置。
窓ははめ殺しの防弾ガラス仕様。
厳重さは以前と比ではない。
ここに我々が乗り込み、襲撃して一気に叩く。
日本支部の実行メンバーだが、私と藍野で近接、狙撃に柴田、情報工作に4課から紅谷を指名した。
内部制圧は私と藍野。
撃ち漏らしと警報機の破壊は柴田
紅谷は柴田の援護と制圧後の奴らのデータ破壊工作と追跡ウィルスの散布。
他の拠点でも同時に行う。
これで組織を再起不能にするつもりだが、また良からぬ事を考えないとは限らないので、王族にはグループ経由でひとつ釘を刺しておこう。
腕時計を確認すると、時刻は23時30分、アメリカ東海岸はまだ午前中のはずだ。
眼下に広がる横浜港の夜景を見下ろしながら、私はスマホから腕時計の贈り主にコールした。
電話の相手はシャーロット・ルイス・スタンリー。
元HRF役員、今はグループCOOだ。
グループ全体の意思決定に影響力を持ち、外にコネクションもある女性だ。
『ハロー、シャーリー。元気だったかい?』
『レイジ! あなたが連絡くれるなんて珍しいじゃない。ディナーのお誘いかしら?』
『俺のお願い聞いてくれるなら、喜んでディナーに招待するよ。来週視察で日本に来るんだろう?』
『レイジのお願いって、ミスター高坂関連ね?』
『耳が早いな、シャーリーは。もしかして本社の協力が早かったのってシャーリーのお陰?』
『そうよ、感謝なさい。で、レイジのお願いは何?』
『王子様に怪我したくなきゃ自重しろって忠告してやって、そうだな……3日後がいいな』
『オーケィ、いいわよレイジ。王子様には私から伝えといてあげる。ディナーはシーフードと和牛にして。ああ、私のエスコートは貴方がしなさい』
『勿論。ディナー楽しみにしてるよ。ありがとう、シャーリー』
黒崎怜司とシャーリーのコソコソ話
シャーリーは黒崎の元カノでした。
ある事がきっかけでシャーリーは酷く傷つき、弱ったところを黒崎が口説き落としてシャーリーと付き合い始めます。
黒崎の目的はシャーリーに繋がりを持つための打算でした。
シャーリーも気づいていて、きっかけは打算でも、本気で黒崎が好きだったのに、どんなに頑張っても黒崎は自分を見ようとせず、誰かの面影を自分に重ねて付き合っている事に嫌気がさして別れました。
それでもまだ好きな気持ちは残っているので、友人としての手助けをしてくれています。




