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警護員藍野と詩織お嬢様の初恋  作者: ななしあおい
3.0_変化〜詩織15歳〜
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3.1_誘拐事件〜詩織15歳初夏〜

 私と藍野さんと出会ってから2年と少しが過ぎ、中等部の3年生になった。

 私の髪は背中に届き、背は結構伸びてヒールを履けば藍野さんの胸に届くくらいになった。

 常に誰かがそばにいるのはもう慣れて、そういうものだと諦めもついたのもあるけど、一人っ子で兄妹もいない私には季節の行事や、毎月誰かの誕生日のプレゼントを選ぶ楽しみができた。


 他の学校の受験も考えてなかった私は、早々に高等部への内部進学を決定し、余裕のある学校生活をしていた。

 ママは高等部からの外部入学だから、行けばママの卒業写真とか見られるかな、少し楽しみだ。


「平和だなぁ〜」


 私は3階の窓際にある自分の席に頬杖をついて外を眺めた。

 桜の木は葉が生い茂っていい日陰を作ってるし、修学旅行も無事に終わった。

 パパが心配している事は全然起きない。

 あの家出騒ぎの後、もう私に隠しごとも秘密もなしにして欲しいと頼み、私にも報告書を見せて貰えることになった。

 全部英語だからついてくれる誰かを捕まえて聞いたり、翻訳サイトを使ったりした。

 おかげで私の英語力はテストに困らない程度に上がった。


 私は視線を校門の外側に向けた。


 正門の側にある民家。

 ちょうど売りに出ていたから、パパが買って藍野さん達の待機所にした、と聞いた。

 駐車場には彼らや私の使う車が停まっている。

 その待機所の前にスーツ姿の男たちが3人、ウロウロとしている。


(誰だろ、新しい人かな?)


 私の護衛はロープロが基本だから、新しい人にしては私服じゃないのが変だけど。


「……り、ねぇ詩織ったら、聞いてる?」


 教室に目線を向ければ、咲良が教科書を抱えて私を呼んでいた。


「ああ、咲良か、どうかしたの?」

「どうかしたの? じゃないわよ、授業とっくに終わったわよ。次、移動教室でしょ」


 あの先生、遅れるとうるさいでしょ、早く行こうと呼びに来てくれたらしい。

 どうりで教室には人が少ない訳だ。

 手元の時計を見るとあと5分程で次の授業の時間だ。

 少し悩んで私は言った。


「ごめん、やっぱりトイレ。先行ってて!」


 慌てて授業の準備をして、咲良より先に教室を出て、トイレに駆け込んだ。

 終わって廊下に出ると、みんな次の授業の準備済みなのか、もう誰もいない。

 時計を見るとあと2分で次の授業が始まる。


(なんとか間に合うかな?)


 早歩きで一階の特別教室棟への渡り廊下を歩く私の肩に触れる手を感じた。


『アナタ、シオリ コウサカ?』


 名前を呼ばれた事にびっくりした。

 はっとして振り返ると、スーツを着た浅黒い肌の髭男が片言の日本語で話しかけてきた。

 ニヤついた親しげな顔を向けてきたが、全身の毛が総毛立った。


 どうして?

 なぜ学校の中にいるの?

 藍野さん達だって学校には入れないのに!


 わからない。

 全くわからないけど、すごくまずい状況なのはわかる。


 パニックになりながらも制服のポケットを探って思い出す。

 スマホはカバンの中だ。


 どうしよう、どうしよう、何とかしないと……。


 震える指先に力を入れて、持っていた教科書を落とさないように抱きしめた。


「ノ…、ノー。アイ…ム、ノッ……ト、シオリ……」


 つっかえながらも何とか答えられた。

 これでどこかに行って欲しいと思いながら歩くが、男は私の前に立ち塞がった。


『ノーノー。アナタ、シオリ。イッショニクル、ワタシト』


 ダメか……。

 あとどうすればいいんだろ?

 藍野さんから教わった困った時の裏ワザ……。


 ――もし困ったら騒ぎを起こして人目を集めるのもいい手です。奴らは人目をとても気にしますから。


 確か数歩後ろに火災用の非常ベルがあったはず。

 私は持っていた教科書を思いっきり男に投げつけた。

 怯んだ隙に、非常ベルへ走り寄ってボタンを押し込んだが、振り向きざまに左手首を掴まれた。


 けたたましく非常ベルが鳴り響いた。

 遠くの教室のドアが開く音がする。


『〜●〜!』

『〜〜〜■』


 何語かわからない声が聞こえる。

 それよりも困った時の裏ワザ第2弾。

 手首を掴まれた時の抜け出し方!


(指に力を入れて伸ばして、相手の下をくぐらせながら……)


 あっ、相手の親指が離れた!


「瓦割りみたいに手を振り下ろす!」


 やった!

 離れた!!


 パッと駆け出そうとしたら、目の前にもう一人現れた。

 まずい、完全に挟まれちゃった。

 さすがに二人は無理だよ、藍野さん。

 後ずさりさせられて、後ろから羽交い締めされた。


「誰かっ!んーー!!」


 助けを呼ぼうと大声を上げたが、ひどい匂いのハンカチで鼻と口を覆われた。

 もがけばもがくほど匂いが濃くなり、身体から力が抜けていく。


(誰か……助けて、藍野さん……!!)


 私はそのまま気を失ってしまった。

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