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警護員藍野と詩織お嬢様の初恋  作者: ななしあおい
2.0_出会い〜詩織13歳〜
11/30

2.9_バックミラー越しの詩織お嬢様

 車を車庫に戻し、俺は待機所となっている離れに戻る。

 平家で部屋数も多くないが、母屋から独立してるし、一部屋あたりも割と広めで天井も高く、結構居心地がいい。


 3LDKの一部屋に使わない家具をしまいこみ、ダイニングにデスクを3つ置いただけの簡素な作りの事務作業スペースに、隣のリビングが打ち合わせ兼待機スペースにした。

 俺も空いてるデスクに自分のノートPCを広げて報告書を書き始める。


「……詩織お嬢様、おつらいでしょうね」


 無線を通して俺の話を聞いていたらしい杜山は、ノートPC越しにぽつりと言った。


「そうだな。逮捕を諦めろなんて……」


 そう言って俺は報告書の手を止めて目を伏せた。

 母親を殺された詩織お嬢様に「犯人逮捕を諦めろ」とは残酷な事だ。

 なるべく真実に近く、希望を持たせるような励まし方をしたが、本当は良くなかったのかもしれない。

 この先も逮捕は望み薄だというのに。


「それより今、できることをしないとな!! 一ノ瀬達からは?」

「報告入ってますよ。今日は公安3名にあいつらが4名。黒崎主任の言う通り、一ノ瀬さん達が何かする前に公安が牽制してくれてるみたいです」


 うん。この辺は目論見通りだな。

 積極的な助けは期待できないけど、最低限度なら詩織お嬢様の身の安全に公安は気をつかってくれる気はあるようだ。

 詩織様はまだ13歳。さすがに政府も子供を国のためのいけにえに差し出すつもりはないのか。

 それならそれでありがたい。黒崎先輩同様、せいぜい利用させていただこう。


「しかしテロリストも増えたけど、公安も増えたな。もしかして松井さんが裏で動いてくれたのかな?」

「そうかもしれません。あの人、まーた面倒な事件(ヤマ)手伝わせるつもりかもしれませんけど」


 杜山は不満そうな顔をして言った。

 こいつはまだHRF(ウチ)の御用刑事の松井さんに、麻薬密売の女装クラブに忍び込まされたことを根に持ってるみたいだ。

 松井さんは都合の悪いいろいろな事情には目をつむり、案件や警護の便宜を図ってくれる代わりに、俺達が時々松井さんの捜査や逮捕、証拠集めを手伝っていたりもする。

 松井さんはどこかの管理官の子飼いの刑事らしく、その管理官はウチの上層部やグループとつながっているらしい。

 その辺の事情は黒崎先輩がよく知っているようだけど、俺はあまり気にしたことはない。


「そりゃあ代われるなら俺が代わるけど、俺がヒール履いたら2メーター近い大女になる。お前は似合ってたよ!」


 俺は思い出し笑いをして言った。

 顏のいい奴というのは、女装してもいい女に見えるらしく、入店後すぐに売り上げ上位に食い込み、むしろ目立ちすぎてほかの男にも目をつけられる羽目になり、俺の役どころは杜山の用心棒だった。


「そんな事より藍野先輩、詩織お嬢様は?」

「今のところテロリストや公安に気付いた様子はない。警護体制は現状維持」


 このまま公安にテロリストを牽制させておき、俺達は詩織お嬢様の身辺を固めていく方針で行くつもりだ。


「了解です。次のご予定は花火大会、でしたね」


「ああ。沢渡には会場調査と西九条家や西園寺家との護衛調整、頼んである。花火大会の警護計画と進捗は?」


「沢渡さんから調整と会場調査と主催者側への警護申し入れは済んだと報告来てます。サーバーに詳細報告が入ってますよ。調査結果を元に警護計画立てましたが、人込みでの警護になるので、神戸チームだけだとカバーできる人数ギリギリですね。応援呼びますか?」


 招待客の詩織お嬢様がぞろぞろと大人数の警護を連れて、というのは相手方への心象が良くない。

 俺は沢渡の報告書を開いて確認し、それより人数を減らすよう指示した。


「当日はウチだけじゃない。西九条家と西園寺家も護衛をつけるから、こちらはあまり増やせない。俺とお前だけをメインにして、一ノ瀬達は全員観客に紛れ込ませておく。どうせ公安も動くだろうから、あいつらにもしっかり働いてもらおう。くれぐれも目は離すなよ」


「わかりました。沢渡さんには控え用に有料席、確保してもらいます」


 俺と杜山はその他の細々とした決定事項を詰めていき、警護計画を作成していく。

 詩織お嬢様はあまり友人達と出歩く経験がなかったらしく、浴衣だ、下駄だ、当日の髪型だ、小銭を用意したいとあれこれと楽しみにしてらしたようだ。

 立場の危うさも理解されてるようだし、よくよく言い含めればもう予想外の行動もなさらないだろう。

 俺たちのことは気にせず目いっぱい楽しめるように、なるべく目立たない警護体制を組むことにした。

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